【本編完結】自由気ままな伯爵令嬢は、腹黒王子にやたらと攻められています

橋本彩里(Ayari)

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不調と新たな問題

新たな問題①

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 緊急事態だと連絡を受け私たちはお忍びで指定された場所に訪れ、室内へと案内された私は周囲をそれとなく見回した。
 重厚で華美な装飾を施した部屋は、王都での商談用に最近建てられた商会の持ち物のひとつ。
 北部にある商会のどの建物とも違った趣に、土地の気風に合わせ金をかけた調度に商売人の意気込みを感じるものだった。

 私たちが訪れたということはすでに連絡が入っていたのか、階段を上って案内された部屋にリヤーフに立って出迎えられ促されるままソファに座る。

「ようこそおいでくださいました。アンドリュー殿下、お久しぶりでございます」
「ああ。活躍は耳に入っている」
「光栄でございます。フロンティアお嬢様も本日は足をお運びいただきありがとうございます」
「初めての緊急連絡でびっくりしたわ。リヤーフは少し精悍になった?」
「男振りが上がったと評判ですよ」

 にっと楽しげに笑って混ぜ返しているが、多忙を極めたリヤーフの頬は若干こけ、ここ最近の激務を物語っている。
 前回店に来訪して知った実情も改めて説明を受けている。そのときは裏がないか確認しながら対応してみせると息巻いていたリヤーフであったが、さすがに今回のことは体力的にも精神的にも大変であったようだ。

「それは良かったわね。倒れないようにだけ気をつけてね。目はやる気に満ち溢れてるから心配ないとは思うけど」
「ありがとうございます。今までになくやる気がみなぎっていますのでしっかり成果をもぎ取ってくる所存です」

 いつも思う。商魂たくましいリヤーフはこの仕事は天職であるのだろう。
 南北の経済格差で進出できなかった王都での商売を、シュタイン商家は着実にものにしていっている。
 リヤーフの手腕次第で伯爵領の野菜たちの売れ行きも変わるので、頑張っているのはいいのだが身体を壊さないようにしてもらいたい。

「そう。それで緊急の用事というのは?」
「はい。そのことですが、まさか殿下もご一緒にご足労いただけると思っておりませんでした」

 そう言ってちらりとアンドリューのほうへとリヤーフが視線を走らせたが、王子はなんてことはないとばかりに茶をすする。

「ああ。例の話なのだろう。ここで一緒に聞くほうが早いと思ってな。これはアージリア産の茶葉だな。状態がいい」

 例の?
 なんのことだろうとアンドリューを見上げると、「すぐわかる」とぽんっと頭を叩かれ意味深に笑みを返されるだけだった。

 ついでに、「美味しいからティアも飲んでみろ」と促され、私も口をつける。
 匂いから独特苦みや酸味がきついのかと考えたが、まろやかな舌触りで状態がいいというアンドリューの言葉も頷けた。

「やはり殿下が情報を流してくださっていたのですね。それにしてはずいぶんと婉曲な形でしたが」
「情報はただではない」
「そうですね。それはよぉーくわかっております。ですが、事前におっしゃってくださっていたら遠回りせずに済んだことも多々ありましたので。その茶葉の確保にはずいぶん苦労しましたので、お気に召していただけたようで良かったです」

 リヤーフもこめかみがぴくぴくしている。言葉にもちょこちょこ棘があるので、いろいろ大変だったのだろう。

「それくらい自身で見極めたどり着けないようでは困る。品質の保持と一定の量を確保できるなら考えよう」
「だいぶ苦労しましたけど、ずいぶんと勉強になりました。さすが、はら」
「はら? なんだ?」

 腹黒って言いそうになった? 危ないな。リヤーフはよほど疲れているようだ。

「いえ。聡明で手ぬかりのない殿下が味方で心強いと思います。茶葉に関しては、いつもの従者の方にお話しても」
「そうか。そうしろ」
「ありがとうございます」

 この茶葉は王子に飲んでもらうためにリヤーフは用意したのだろう。
 反応の良さにちゃっかり売り込んでいるし、それも楽しそうに対応しながらも話が進んでいく。

 王子と商人。立場は違えど、二人とも腹を探るのに慣れ笑顔の裏であれこれ策略を練るのに長けた二人である。
 いわば腹黒同士の話はトントン拍子に進むので、私も妙な感心を覚えてしまう。

「お二人とも、場を設けたのですから私にもわかるように教えてくださいませんか?」

 自分だけ知らない事実があることに対して、仲間外れにされたとは思わない。
 商売に関してはリヤーフに任せているし信用している。アンドリューに関しても、私のことを思って動いてくれていたのだろう。
 情報を提供する気になったから私の前で隠さず話しているのだろうし、そろそろ本題に移ってほしい。

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