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────1・可視交線────
3放り込まれました②
しおりを挟む「あの~、降ろしてくれない?」
周囲からの視線と悲鳴が居た堪れない。
がさごそと体を動かし主張してみるが、冷めた視線で蒼依を一瞥した後、ガツンッと目の前に星がちらつくほど頭突きをされ、「動くな」と命令される。
「痛っ」
「耐えろ」
「ひどっ」
──耐えろって、めっちゃ理不尽なんだけど!?
涙が出るかと思うほど痛かった。というか、絶対潤んでる。
キッと目元に力を入れ耐える。ここで手を当てたら泣き虫認定されそうだし、そんなことになったら本気で情けなくて逃亡したくなりそうだ。
もう嫌だ、何なんだ。
寝起きに容赦なさすぎるっ!!
潤んでしまっている眼差しではイマイチ迫力に欠けるだろうが、不服であるということを前面的に訴えるよう青年を睨んだ。
眼鏡と前髪であまり見えないだろうが、怒っていることは伝わるだろう。
すると気配だけで察したのか、ふっ、とゆっくりと黒髪の男は唇を吊り上げた。
なぜ、そこで笑う?
それを見た周囲が、
「嘘だろう」
「ぎゃわー」
「マジですか~。これ何路線?」
と騒ぎ出す。
騒がれた本人は、周囲の声や熱い視線などガン無視だ。
興味がないというよりはもっと冷えた眼差しのままどこかの建物に入ると、「おい」と自分ではない誰かを呼んだ。
「はっ? 何してんの?」
呼ばれた相手の反応には戸惑いがあった。
建物内に入っても騒がしかった周囲が、ことの成り行きを見守るよう静かになる。
「マジで何してんの?」
再度、男に問うてくれる。
髪が赤くてめっちゃ派手だが、そんなことはどうでもいい。
あまりにもこの男が人の話を聞かなさすぎたので、この状態を変だと思ってくれる相手がいてくれたことに蒼依は安堵した。
道中の声は好奇心強めでそんな感じではなかったから、自分だけがおかしいのかと不安になっていたところだ。
「あんたが言ったことだろ? 約束は守れよ」
黒髪の男は面倒そうに告げると、ぐいっと蒼依を差し出した。
突き出される自分と、思わず両手を出して受け取る相手。
「えっ?」
「はっ?」
赤髪の男と同時に声を発した。
……状況、把握できず。
首を傾げると赤髪の男と視線が合い、荷物のように渡された側の蒼依は、にへらと愛想の笑みを浮かべた。
相手も驚いたように目を見開いていたが、現状を受け入れたのか、「へぇ~」と面白そうに笑い、蒼依と連れてきた男を見比べた。
「結城蒼依くん?」
「はい。そうです」
「随分と面白い登場の仕方だね」
楽しくて仕方がないとばかりに、にやにやと笑う相手は目を細めた。
「…………面白い?」
随分な反応にどういう意味かと蒼依は首を捻り、相手の表情に、「あっ」と声を上げると、慌てて己の状態をもう一度再確認し目を見開いた。
頭上で、くっと笑う声。
「えっ、その反応。気づいてなかったの?」
「…………はい」
小さく同意の言葉を返し、蒼依は項垂れた。
──ああぁ~、これ何?
カバンはお腹の上にあるし、足と背中に回る手。……って、
──えっ、もしかして姫抱っこされてる~~!?!?
されながら来たの? マジで?
荷物扱いの方に意識がいっていたため気づかなかった。
羞恥すぎて壁に埋まりたい。寝ぼけすぎにもほどがある。
「あの~、降ります」
「ああ。そうしてくれる? さすがに男の抱っこは君が小さくても重いわ」
「まあ、そうですよね。というか、なぜ抱っこ?」
トンッと降ろされ立つと、目の前の人物は自分より頭一つ大きい。
爽やかに笑いながら、どうでもいいのに訂正してくる。
「正確にはお姫様抱っこだな」
「そこ改めて言わないでもらいたんですけど」
そう言いながら、わらわらと集まる人の合間を悠々と抜けていく元凶の男を視線で追う。
この人ごみの中を姫抱っこされて通ってきたと考えると、ハゲそうだ。
「鮮烈なデビューだよ。お姫さま。朱雀寮へようこそ」
そんな揶揄とともに、赤く染めた髪の青年がにこにこと爽やかに笑う姿にげんなりする。
南条と名乗った男は寮長で三年だと簡単に説明し、蒼依の癖っ毛の茶がかった髪に手を伸ばしぐしゃぐしゃと頭を撫でてきた。
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