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第63話 卒業

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僕は、教師になろうと思った。

松江で高取夫妻と会い、土門華子の母と会い、そこで感じたのは、どうして土門華子のような被害者がでたのだろうか? という事だった。

美紗は自分の力不足だと嘆いた。でも、それは違う。教師一人の力なんてたかが知れている。もっと、多くの人が関わらないと解決できない問題も存在するのだ。

悩んでいる子供がいたら、その力に、少しでもなりたいと僕は思った。
もちろん、僕一人の力なんて無力に等しいのは分かっている。

だから、周りを巻き込むような、そういう行動をとれる人間になりたかった。

通常、教職課程は二年次から履修するが、僕は三年次からだったため、単位の取得がギリギリとなった。

加えて四年次には教育実習もある。卒論も書かなきゃいけない。
さらには、不倫研究会の運営もある。僕の代でサークルを無くすわけにも行かない。地道ながらサークルは存続させていて、いまでは部員が僕を含め八人にまで増えていた。

僕が教師になると決めてからの生活は多忙を極めたが、無事に教員採用試験にも合格し、赴任先も奇跡的に希望がかなった。


そして僕は今、四年間を過ごしたアパートを出ようとしている。


「ここは来るのって、三年ぶり……だね」

引っ越しのため、荷物をまとめていたのだが、陽菜が手伝いに来てくれたのだ。

陽菜も卒業式を終え、四月からは付属の大学への進学も決まっている。晴れて女子大生になるわけだ。

少し大人びた陽菜は、超絶美少女へと進化していた。おそらく大学へ通う事になったら男子が放っておかないだろう。

「今日ね、圭の部屋に泊るって、ママに言ってあるの」

陽菜の言わんとするところは分かっている。陽菜が卒業したら僕たちは付き合う約束になっていたからだ。

「しかし、本当に僕と付き合うのか?」

「うん、ずっと言ってたじゃない。ワタシ、高校時代に何人に告白されたと思っているの?」

陽菜は、女子高に通いながらも他校の男子生徒から交際の申し込みが殺到したらしい。

「確か……、百人くらいだっけ?」

「それは、二年まで。こないだ二百人目をフったばかりなんだから」

「カウントしてたのか!?」と突っ込みたくなる。

「ちゃんと今日、ワタシを女にしてよね」

陽菜とは教師になると決めてから、付き合い方を変えて自重するようにしていた。
なんども際どい事を要求されたが、その度に「卒業したら付き合うから」とたしなめてきたのだ。

「ねえ、三年ぶりのキス……、して」

陽菜が抱きついてきて、キスをねだる。僕は、そっと唇を合わせた。

じれったそうに陽菜は身体をよじらす。僕も陽菜を抱きしめ身体を密着させた。久しぶりに抱く陽菜は、少し大人になって女性としての肉付きが良くなり、柔らかさを増していた。

「やっと……、やっと圭に抱いてもらえるよ……」

「陽菜……」


僕たちは、もつれるようにベッドへ倒れこんだ。



~・~・~



「陽菜……、だ、大丈夫か?」

たった今、陽菜は初体験を済ませた。
ベッドの上で呆然として、肩で息をしている。

僕も、予想外の反応に驚いていた。処女との経験は、綾乃、美栞に次いで三人目だったが、前の二人とはまるで違った反応をしてくれたからだ。

「陽菜……、本当に初めてだったのか?」

思わず口を滑らせた僕の頬に陽菜の手が飛ぶ。パチン! という音と共に痛みが走った。

「デリカシーがない! 初めてに決まってるじゃない!」

「でも、あの乱れっぷりは……」

「だって、凄く気持ち良かったんだもん、圭のせいじゃない!」

陽菜は、AV女優顔負けの反応だった。おそらく僕の経験した女性の中では一番の反応だ。だから本当に初めてなのかと口から出たのだ。

「きっと、圭だから気持ち良かったんだね」

そう言うと陽菜は甘えた仕草で僕に抱きついてきた。



「ねえ、これって、やっぱりママに教わったの?」

不意に佳那の名を出されて、僕は狼狽する。

「し、知ってたのか?」

「うん、気づいたのは三年前かな、圭が愛莉さんと付き合いだした頃、あの頃に圭ってママと別れたでしょ」

愛莉と付き合いだし、佳那とは関係を断っていた。同じ時期に関係を持っていた綾乃とも関係を断っていたが綾乃とはその後、復縁していた。
流石に佳那との関係を復縁させる余裕は、あの頃の僕には無かった。

「ママが不倫してたのは気づいてたんだけど、あの時に凄く落ち込んでいて、それで多分、相手は圭だったんだろうなって気づいたの」

「ゴメン……、陽菜。でも、どうして僕と?」

「ママは可哀そうだけど、ワタシはやっぱり圭が好きだもの、だから今日はどうしても、して欲しかったの」

佳那は今日、どんな気持ちで陽菜を僕の元へ行かせたのだろう?
佳那の気持ちを思うと、胸が苦しかった。

「ね、一緒に夜を明かすのって、富士山以来だね。
今日は、いっぱい甘えさせてね」

陽菜と、東京で過ごす最初で最後の夜は、静かに更けていった。




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