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小笠原雅

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男女同修

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二十四、男女同修

 その日は来た。咲子はとても美しく輝いて見える。女の喜びを知り世界が広がっていると言っている。

 そして功を重ねその時が来た。

 村上は宇宙に掘り出された。
 身体が宙に浮きこの世ではない所だとハッキリ分かる。

 闇と光の世界の間で村上は浮いている。

 光の玉の中に照美の声で助けてと呼んでいる

「助けてください」
「助けてー」

「光男さん」
 照美が村上の名前じゃない男の名を呼んでいる。

 村上は違う世界に飛ばされた。その光りの玉が遠くなる。

 遠くで照美が見える、泣いている

 まるで映画のようにシーンが流れている。

 ここはプロポーズした時照美が座っていた
河原の土手だ、また照美は1人の男の名を読んだ。

「光男」

 鱗雲が高い空に広がり、遠い空から遠い空に突き刺す様に飛行機雲が流れて行く。
 映画のシーンの様に、若い頃の照美は泣いていた。

 そこから場面は変わり、映画を見てる様に目の前が動く。
 照美は古いアパートの階段を登り、二階の一室に入ろうと、持っている鍵でドアを開けた。玄関に女の靴、部屋の奥に声がする。布団の中で男女が抱きあっている。

 知らない女と男は光男だ。
大学時代の親友で照美とも学生時代一緒に遊んでいた。

「この女だれ!」と叫び、布団の中から光男が起き上がる。
裸で股間も隠さず照美を宥めようと近づいて来る。
「嫌!」って顔を背け、アパートから逃げ出す照美。

 そのまま夜まで街を彷徨う照美。
 駅のベンチで一人で泣いている照美。
 下腹の強い痙攣が起きる。
 膣からの出血、自力で近くの病院に行き照美は流産を知る。
 家族にも父親の名前は隠し通し、何事も無く日々を過ごしている。

「光男」と「赤ちゃん」を思い1人で河原で空を見上げている照美。

 鱗雲が赤く染まる。
 ゆっくりと空にジェット機が飛び鱗雲を突き刺す様に飛んでゆく。
 そんな秋の空を眺めていたら村上が現れた。

 村上が泣きそうな顔をしてプロポーズして来た。
「なんで私なんかで泣いたりするの」
 それから村上と結婚する照美。

 見慣れたショッピングセンターの屋上駐車場、ショッピングセンターの駐車場で男とキスしている照美。
 もう子供は望めないと医者に言われ笑ってる照美。
 ホテルのベットで光男に跨り、コンドームを外し自ら腰を振る照美。


 事故が起こる。
 身体が車がぶつかる瞬間照美が叫んでる。
「光男」
 村上じゃない男の名前。

 そう言えば照美の葬式で大泣きしていたなあいつ。
 大学からの親友だったけど。
 うちにも来てた。

 照美はあいつが忘れられず時間を作っては会ってやがった。
 子どもが出来ないもあの流産のせいだったんだ。

 笑える笑える。あんなに苦しんで。眠れない時間を過ごしてたのにあれは何だったと思える。

 赤く染まった鱗雲に突き刺さる様にジェット機が飛んでいる。その飛行機から、俺は今飛び降りた気持ちだ。

 目が覚めると咲子が心配そうに村上を見ていた。

 咲子の顔が照美の顔に一瞬変わり、
 「ありがとう」と言った

 死んだ死んだ。
 俺も死んだ。涙が出る
 悲しいのかうれしいのかもわからない。

 ただ流れている。あったかい優しい涙だ。
 照美が可哀想だった。どんなに泣いてもあいつの涙の一滴にしかならないだろう。
 全てが納得出来る。でも恨む気持ちもない。こうして照美の事を思えるのも幸せだと思える。
 照美も道を踏み外してたんだろう。
 どんなに悲しかった事だろう。
 1人で抱えていたなんて悲しい、悲しすぎる。
 俺は真実を見たのか妄想を見たのかわからない。

 でも俺は俺を殺す事が出来た。それがうれしい。

 だから新しい今を生きれると思える。

 頬に咲子の胸が心臓の音を鳴らせている。
 咲子も同じ映像を見ていた様だ。
 この確実な音が全てを許してくれそうだ。
 この柔らかい女神を大切にしたいと思う。

 村上はいつもの公園で。
 テラスのあるベンチで笑っている。
 咲子が手を握って横で笑ってる。
 繋がりたいと思う事こそ未来のエネルギーなんだと。

高山は言う。

この世にある物、全ては空です。
いつ書き消えてしまうかもわからないこの一瞬を確かに生きてるからこそ尊い。

そうこの世は空で出来ている。


「完」
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