遠回りな恋

すいかちゃん

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第一話

わかっていた失恋

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「ごめん。純哉を恋愛対象としては見られない」
放課後の教室。オレンジ色の夕陽がやたらと眩しかった。告白した方も、断った方も相手の顔がわからない。
フワフワッとした茶色い髪を揺らして純哉が笑う。
「何マジになってんだよ。冗談だよ、冗談」
震える声は、笑っているからなのか。それとも泣いているからなのか。賢吾には、確かめる勇気はなかった。その冗談という言葉を信じるしか、この友情を続ける事はできなかった。
「冗談って、なんだよそれ」
内心ホッとしながら、賢吾が怒ったように言う。
「だって、お前ばかりモテてるから悔しかったんだ」
「モテてるって、全部男子からだぞ?嬉しいわけないだろ」
ここは男子校ではない。なのに、なぜか賢吾は男子ばかりからモテた。細いが、決して華奢ではない身体。女子とは殆ど喋らず、黙々と部活に励む姿は男から見てもかなりカッコいい。そのため、賢吾に特別な感情を持つ者も多かった。
「昨日だって、1年の佐渡に告白されてただろ?女の子みたいに可愛いじゃん」
「あのなぁ。男だって時点でアウトなの。顔が可愛くたって、同じモノがついてるんだぜ?」
賢吾が自分の下半身を指差して、心底嫌そうな顔をする。
「男と付き合うなんて、考えただけでゾッとするよ」
「だよなー」
2人は顔を見合わせてゲラゲラと笑った。だが、この時。純哉は長年の片想いに終止符を打ったのだった。

「ねぇ。君、1人?」
バーのカウンターでマティーニを飲んでいた館林純哉は、声をかけられて気だるく振り向いた。
「だったら何?」
「それはラッキーだな」
馴れ馴れしく肩を抱かれ、純哉は露骨に嫌な顔をした。
「なんの真似?」
「わかってるんだろ?」
抱かれた肩を引き寄せられ、純哉は艶っぽく笑って見せた。同じくマティーニを注文すると、男が名刺を見せてくる。そこには、勤務している会社と共に中島敦人という名前が書かれていた。
「ヘぇ。大手に勤めてるんだね」
純哉でも名前は聞いた事がある有名企業。そこで男は営業をしているらしい。純哉は、興味なさそうに名刺を突っ返した。
「名前は?」
「ジュン」
念のため本名は名乗らなかった。中島は気にもしていないらしく、歯の浮くようなセリフで口説いてくる。ここは新宿二丁目。こんな光景は日常茶飯事なのだ。2人の様子をカウンターの中から見ていたマスターは、心の中でこっそり苦笑した。
(バカな男ね。ジュンを口説くなんて)
その可愛らしい容姿とツンデレな態度から、純哉はかなり人気があった。ゲイもノンケも、次々と彼をものにしようとアタックする。だが、純哉は誰のものにもならない。ちょっかいをかけた男は、結局泣くはめになるのだ。
「朝までいい事しない?」
「僕を満足させられる?」
中島は鼻の下を伸ばしながらホテルに誘ってきた。エレベーターの中だと言うのに、激しく身体を愛撫してくる。
(いつまで続くかな)
中島の愛撫に感じているフリしながら、純哉はほくそ笑んだ。
高校生の時に、純哉は長年の片想いを終えた。相手は幼稚園からの幼馴染みである内田賢吾。家も近所で、まるで兄弟のように育った。だが、純哉にとって賢吾は初恋の人だった。初めて会った時からずっとずっと好きだった。ひねくれものの純哉と違い、優しくてまっすぐな賢吾は誰からも好かれた。友人も多く、いつもクラスの人気者だった。だが、どんなに友人ができても賢吾は純哉を特別扱いしてくれた。期待しない方がおかしいではないか。だが、賢吾は違った。純哉に恋愛感情は持っていなかったのだ。
(バカだよな)
さっさと諦めればいいのに、純哉にはそれすら出来ない。賢吾が新しい恋人を作る度に、こうして遊び相手を探している。初めての相手は、賢吾の友達だった。甘い言葉でちょっかいをかけられ、そのまま抱かれた。気持ち良さなんてどこにもなかったが、賢吾に抱かれている妄想はできた。だが、その度に虚しくなるのだ。
妄想の中の賢吾は、いつも情熱的に純哉を求めてくれた。だが、現実では単なる幼馴染みで親友。その度に、心が凍っていく気持ちになる。
「送っていくよ」
タクシーを下りた純哉に、中島が声をかける。その声に、純哉はとびっきりの笑顔を向けた。
「親に知られるとマズイんだ。じゃね、気持ちよかったよ」
チュッと頬にキスをして、純哉はバイバイと手を振った。まぁまぁうまかったから、二・三回ぐらいは遊んでやってもいいと思った。
ふと、人影が見える。どうやら賢吾と新しい彼女だ。顔を見合わせて笑い合っている。
「前の彼女よりは美人だな」
純哉は、ここ数年で平気なフリがうまくなった。賢吾が誰と歩いていても、腕を組んでいても笑えるようになった。
「こんばんは」
「わっ。何だよ、純哉」
大学生になった賢吾は、少しだけ大人っぽく見えた。眉毛も整えて、コロンの香りがする。隣にいた女性が目を丸くした。
「…今、帰りなのか?」
賢吾が気まずそうに聞いてくる。純哉は頷くと、その横を通りすぎた。純哉がゲイだという事は、大学時代にバレた。ラブホテルから出てきたところ、バッタリ出くわしたのだ。それから、賢吾とは距離ができた。表面上は変わらないようにしているが何かが違った。
「じゃな。あ、こいつの事よろしくお願いします」
純哉がニッコリ笑うと、賢吾の恋人がポッと頬を染めた。
「純哉…っ」
「おやすみー」
酔っぱらっているフリをして、純哉は家へと帰った。両親は数年前に田舎に移住していて、今は一人暮らしだ。電気も点けずにベッドにダイブする。
「バカ野郎」
それは、自分への言葉だった。賢吾は優しい。純哉が好きだと言っても、きっと邪険にはしない。泣いてすがれば良かった。もしかしたら、ほんの少しぐらい意識してくれたかもしれない。
純哉は、意地っ張りでかわいくない自分が大嫌いだった。

「…。賢吾くんっ」
「え?」
耳元の大きな声に振り向いた賢吾に、ミニスカートの女性がムッと眉を寄せる。
「私の話聞いてる?」
ちょっと声優っぽい声が魅力だと思った彼女は、明らかに不機嫌だった。
「えっと、何だっけ?」
「もういいっ。賢吾君って噂通りね。つまんない男」
そう言って去っていく彼女を、賢吾は引き止めようとしてやめた。引き止めても、続く言葉はおそらく「ごめん」だけなのだから。
(純哉のせいだ)
せっかくできた新しい彼女に意識が向かなかったのは、純哉に出くわしたからだ。酒に酔っているのか、頬がかなり赤かった。この暑いのにタートルネックを着ている理由は、多分そういう行為をしてきた後だから。
(また、新しい男が出来たのか)
小さい頃からずっと一緒だった純哉。彼がゲイだと知った時のショックは、言葉では言い表せなかった。初めての彼女とウキウキで訪れたラブホテル。入ろうとしたら、純哉が自分の友人と腕を組んで出てきた。その光景が今でも忘れられない。
「俺には関係ないけどな」
踵を返した賢吾だが、胸の奥がモヤモヤして止まらなかった。

『賢吾の事、好きなんだ』

放課後の教室で告げてきたあの言葉。冗談だと笑っていたが、本当にそうなのだろうか。賢吾は、何度となくその事を考えていた。
純哉からの告白は、正直言って困った。これまで男からの告白は速攻で断っていた。だが、純哉は幼馴染みで親友だ。傷つけたくはない。冗談だって言ってくれた時は、本当にホッとした。だが、あれから純哉は賢吾をまともに見なくなった。
大学進学も急に止めて、デザインの専門学校に通うようになった。そして、いつもいろんな男と遊ぶようになった。
住む世界が違う。
わかっていながら、賢吾は純哉が気になって仕方なかった。





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