夫婦日和

すいかちゃん

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第一話

心が読める旦那さんと天然なお嫁さん

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この娘は、いつまでいてくれるだろう。
男は、複雑な表情で白無垢姿の花嫁を見つめた。隣村に住むその少女は、男を見つめてニッコリと笑った。太陽のように明るく、月のように優しい微笑みだった。男は、一目で少女を気に入った。だが、同時に怖かった。男の能力を知った時に、少女の顔からは笑みが消えるだろう。そして、泣きながら去って行くのだ。これまでの花嫁と同じように。
「いずれわかってしまうから、初めに言っておく」
男は、覚悟を決めた。後で嫌われるぐらいなら、最初から嫌われた方がいい。
「俺は、心が読めるんだ」
言った瞬間。男は後悔した。1ヶ月、1週間、1日。いや、せめて半日だけでも普通の夫婦のように過ごせたらいいじゃないか。
多くの花嫁を見てきたが、こんな美しい笑顔は初めてだ。ずっと側にいたいと初めて願った。
「心が読める?それは、本当ですか?」
少女が尋ねる。嬉しそうに。
「あ、ああ。相手の手に触れると、聞こえるんだ」
「では、今私が何を考えているか当ててみてください」
少女が恐れる事なく男の手を握る。小さくて、白くて、柔らかな手だった。
「け、結婚式の最中にお腹が鳴ったらどうしようと思ってる」
男が正直に言えば、少女がキャッキャッと喜んだ。
「すごい、すごいわ。本当に心が読めるのですね」
少女は男を恐れるどころか、まるでヒーローを見るような眼差しで見つめた。
男は、きっと物珍しいだけだろうと思った。そのうち飽きて去って行くと。だが、少女はそれからも男の側にいた。普通の夫婦のように過ごした。
「俺が、怖くないのか?」
男は思い切って聞いた。少女は、すぐに首を横に振る。
「怖くはありません」
男は、次第に苛立ってきた。
「普通、気味が悪いだろ?心が読めるんだぞっ。嘘もつけないし、知られたくない事もわかるんだ」
男は、途中から訳がわからなくなっていた。せっかく自分を好いてくれる相手を見つけたのに、自分から嫌われようとするなんて。少女は、混乱する男の手に触れた。
「つまり、私が嘘をついていないという事も証明できるんですよね?」
少女が男の手を握る。
男は、初めて少女の過去を知った。幼い頃から奉公に出された少女は、どこに行っても疑われていた。その美しい笑顔が嘘くさいと。どれだけ本当の事を話しても、信じてもらえなかった。恋人ができても、すぐに捨てられた。男は、気がついたら泣いていた。
「心が読めるあなたなら、私の笑顔に嘘がない事をわかってもらえる。安心して、笑顔でいられる」
男は、少女の手をしっかり握った。
それからも、男と少女は仲の良い夫婦だった。手と手を取り合い、仲睦まじく暮らした。
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