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第一話
お見合い相手の正体
「私、見合いするから」
澤木陸哉は、自分が今聞いた言葉がすぐには理解できなかった。
「へ?」
これからコトに及ぼうとシャツを脱いで、デニムと下着をずり下げたというマヌケな状態でしばし固まった。そんな陸哉に、恋人の島野麻里花は呆れたような溜息を吐く。
「聞いてなかったの?見合いよ、み・あ・い」
バスローブのままベッドに腰掛けた麻里花は、優雅に足を組んでみせた。肩まで伸びた栗色の髪を、指先にクルクルと絡める。
「社長から頼まれたの。知り合いのIT社長が独身だから、見合いでもしてやってくれって。きっと、彼女を作る暇もないんだろうなぁ」
よくセックスをする前にそんな事が言えるなぁと、陸哉は思った。そんな話を聞かされたら、勃ちかけたものも萎えてしまうというものだ。
「ここで断ったら、会社での立場が悪くなるでしょ?」
その言葉に、陸哉はいくぶんホッとした。つまり、見合いは上司の顔を立てるためであって本気ではないという事だ。
「そ、そうだよな。上司の頼みじゃ断れないものな。それに、今時見合いなんて…」
ヘヘッと陸哉が笑えば、麻里花もニッコリと笑った。そして、堂々と言ってのけたのだ。
「お見合い相手の条件がよかったら、すぐに乗り換えるからね」
と。
結局、陸哉の息子はその夜元気になる事はなかった。
「麻里花のバカヤローッ」
バイト先のカラオケボックス。陸哉はついつい大声で叫んでしまった。ここは、従業員でさえほとんどこない屋上。叫んだところで、誰も気には留めないだろう。
「俺って彼氏がいながら、見合いするなんて、何考えてんだーっ」
陸哉の声が夜空に響き渡る。麻里花との交際は、大学時代から始まった。
「この浮気者ーっ」
喉が枯れるぐらい叫んだ後、後ろからクスクスと笑い声が聞こえてきた。振り向けば、背広姿の男が楽しげに笑っている。
「あ、あの?」
陸哉が声をかければ、男がニッコリと微笑む。優しげだが、何を考えているかわからないそんな笑みだった。
「ごめん、ごめん。迷子になっちゃってね。君、お店の人?」
「は、はい」
客の前で醜態を晒した事に動揺していれば、男が近寄ってくる。細身のフレー厶眼鏡が、なんともインテリっぽく見えてちょっと鼻についた。
「喫煙ルームまで案内してくれる?」
「は、はい。こちらです」
陸哉はいつもの営業スマイルを浮かべると、エレベーターへと案内した。が、男がエレベーターに乗る気配は全くしない。
「あ、の?」
「なるほど。確かに、お人好しそうな顔をしているな」
男が値踏みするように、陸哉の全身をジロジロと眺める。あまりにも不躾な態度に、陸哉は内心カチンと来ていた。男は、そんな心情がわかったかのように「ごめん、ごめん」と謝った。もっとも笑顔で言われても、ちっとも真剣さを感じないが…。
「僕は、こういう者だよ」
出された名刺には、久住隆一と書かれていた。横には、誰もが知っている有名IT会社の名前。
「代表取締役?あなたが?」
隆一は頷くと、楽しそうに続けた。
「そして、君の恋人のお見合い相手だよ」
陸哉は、名刺を握り締めたまま隆一の顔を凝視した。
澤木陸哉は、自分が今聞いた言葉がすぐには理解できなかった。
「へ?」
これからコトに及ぼうとシャツを脱いで、デニムと下着をずり下げたというマヌケな状態でしばし固まった。そんな陸哉に、恋人の島野麻里花は呆れたような溜息を吐く。
「聞いてなかったの?見合いよ、み・あ・い」
バスローブのままベッドに腰掛けた麻里花は、優雅に足を組んでみせた。肩まで伸びた栗色の髪を、指先にクルクルと絡める。
「社長から頼まれたの。知り合いのIT社長が独身だから、見合いでもしてやってくれって。きっと、彼女を作る暇もないんだろうなぁ」
よくセックスをする前にそんな事が言えるなぁと、陸哉は思った。そんな話を聞かされたら、勃ちかけたものも萎えてしまうというものだ。
「ここで断ったら、会社での立場が悪くなるでしょ?」
その言葉に、陸哉はいくぶんホッとした。つまり、見合いは上司の顔を立てるためであって本気ではないという事だ。
「そ、そうだよな。上司の頼みじゃ断れないものな。それに、今時見合いなんて…」
ヘヘッと陸哉が笑えば、麻里花もニッコリと笑った。そして、堂々と言ってのけたのだ。
「お見合い相手の条件がよかったら、すぐに乗り換えるからね」
と。
結局、陸哉の息子はその夜元気になる事はなかった。
「麻里花のバカヤローッ」
バイト先のカラオケボックス。陸哉はついつい大声で叫んでしまった。ここは、従業員でさえほとんどこない屋上。叫んだところで、誰も気には留めないだろう。
「俺って彼氏がいながら、見合いするなんて、何考えてんだーっ」
陸哉の声が夜空に響き渡る。麻里花との交際は、大学時代から始まった。
「この浮気者ーっ」
喉が枯れるぐらい叫んだ後、後ろからクスクスと笑い声が聞こえてきた。振り向けば、背広姿の男が楽しげに笑っている。
「あ、あの?」
陸哉が声をかければ、男がニッコリと微笑む。優しげだが、何を考えているかわからないそんな笑みだった。
「ごめん、ごめん。迷子になっちゃってね。君、お店の人?」
「は、はい」
客の前で醜態を晒した事に動揺していれば、男が近寄ってくる。細身のフレー厶眼鏡が、なんともインテリっぽく見えてちょっと鼻についた。
「喫煙ルームまで案内してくれる?」
「は、はい。こちらです」
陸哉はいつもの営業スマイルを浮かべると、エレベーターへと案内した。が、男がエレベーターに乗る気配は全くしない。
「あ、の?」
「なるほど。確かに、お人好しそうな顔をしているな」
男が値踏みするように、陸哉の全身をジロジロと眺める。あまりにも不躾な態度に、陸哉は内心カチンと来ていた。男は、そんな心情がわかったかのように「ごめん、ごめん」と謝った。もっとも笑顔で言われても、ちっとも真剣さを感じないが…。
「僕は、こういう者だよ」
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