「遺言」で結ばれた結婚~忌子である『赤い瞳』の少女は、旦那様に愛されて幸せになる~

八重

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第1話 忌子だった少女に来た結婚話

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 森のふもとにある小さな家には一人の少女がいた。
 彼女は机に向かっている五、六歳くらいの女の子の手元を見守っている。

「アネット先生! できました!」
「どれどれ……よくできています! これはもう満点です!」

 アネットと呼ばれた少女は、女の子に笑顔で告げた。
 女の子は自分の書いた字が褒められたことに満足そうである。

「じゃあ、今日はここまでね」
「はいっ! ありがとうございました!」

 アネットに別れの挨拶をした女の子は、村の方へと帰っていく。
 だんだん小さくなっていく背中を見守ると、アネットはうんと背伸びをした。

「アネット、お疲れ様。字のお稽古は終わったのかい?」

 そう尋ねてきたのは、彼女の祖母だった。
 腰を悪くしているアネットの祖母は、ゆっくりと彼女に近づく。

「おばあちゃん、晩ご飯私が作るからちゃんと休んでてね」
「いつも悪いね……」

 申し訳なさそうにする祖母にアネットは首を左右に振る。
 そして、あることに気づいた。

(あれ、おじいちゃんは……?)

 祖父の姿が見えないことを心配したアネットは、祖母に尋ねてみる。

「おばあちゃん、おじいちゃんは?」
「ああ、あの人なら丘の上だよ。そろそろ戻って来るころだよ」

 そんな話をしていると、アネットの祖父が丘から降りてきた。

「おじいちゃん、おかえりなさい。足大丈夫?」
「ああ、今日は調子がいいようだ」

 祖父の元気そうな様子を見て、アネットも安堵した。
 家のすぐ裏にある丘の上には、彼女の母親の墓がある。

 今日は母親の月命日であるため、きっと祖父は墓参りに行ったのだろう。
 そうアネットは考えた。

(お母さんが亡くなって、もう十年か……)

 アネットは母親に数回しか会ったことがない。
 それにはわけがあった──。



 十八年前の寒い朝、アネットは祖父母と暮らすこの家で生まれた。

 母親が実家での出産を希望したために里帰りして娘アネットを産んだのだ。
 無事に生まれきたアネットだったが、その瞳は赤かった。

「赤い、瞳……」

 アネットの産声が響く中、家の中は重たい空気に包まれた。
 実はアネットの母親は平民生まれであるがバルテル伯爵に見初められて、今は伯爵夫人という身分でいる。
 ゆえにアネットは由緒正しきバルテル家の長女であるのだが、そこに問題があった。

『赤い瞳を持つ者は、災いをもたらす』

 伯爵家では長年そのように信じられている。
 このままではこの子は虐げられてしまう。
 あるいは最悪、殺されてしまうのではないか……。

 そう考えたアネットの母親は娘をこのまま実家に預け、伯爵家には「死産した」と伝えることにしたのだ。

 アネットは自分の出生の秘密を知らないまま時が過ぎ、すくすく成長した。
 その間、彼女の母親は伯爵家にバレないようにたびたび実家を訪れては、娘に会いにきていた。

 そして、七回目の母娘の面会日のこと。
 アネットの母親は、ついに娘に出自のことを伝えたのだ。
 そして、その翌月に彼女は病気で亡くなったという。


 そんな過去を胸に、アネットは祖父母と共に暮らしている。
 しかし、働き手の少ないこの家での生活は決して裕福ではなかった。
 アネットは家計を支えるために、幼い頃から得意だった文字を書くことを生業として生計を立てている。

(私がもっと頑張らないと……)

 老いた祖父母を少しでも幸せにしたい。
 そう思っていたアネットにある訪問者がやって来た。

「君がアネットか?」

 名を呼ばれた彼女は振り返る。
 なんとそこには身なりの良い男が一人立っていた。

(綺麗な人……)

 アネットがそう思うのも無理はない。
 ミルクティー色の髪に良く映える青い瞳。
 ここまですらりと背が高く見目麗しい男は王国中にもそうはいない。

「私がアネットですが、あなたは……」

 アネットはそこまで口にして気づいた。
 彼の胸元に公爵紋章があることに……。

「公爵様……」
「ああ、ジルベール・オランジュ公爵という。母の遺言で君を妻にすることとした」
「え……」


 この時のアネットは、まだ知りもしなかった。
 ジルベールとの結婚が、彼女にとっての幸せの入り口だったということに──。
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