誕生日に捨てられた記憶喪失の伯爵令嬢は、辺境を守る騎士に拾われて最高の幸せを手に入れる

八重

文字の大きさ
15 / 23
第一部 出会い編

第15話 もう我慢できないよ

しおりを挟む
 すっかりシロの具合もよくなり、歩くだけでなく走ることもできるようになった。
 魔獣だからなのか、動物とは違いあまり散歩などはしたがらないシロに、健康のためだからとリーズは散歩に連れ出そうとする。

「(リーズっ! わたしはそんな散歩なぞ行かなくてもよいっ!!)」
「ダメっ! 運動不足になっちゃうでしょ?!」
「(魔獣に運動不足って……)」
「ほらっ! 早くいくよっ!!」
「(まあ、良いか。もうそろそろと考えておったしな……)」

 リーズに抱えられてそのまま森まで向かう──


 ニコラに一人であまり森にはいかないようにと言われているため、リーズはシロと出会った森に週に三日ほど通って彼を散歩させていた。
 もちろんシロは散歩なぞ……と呟きながらブラブラと歩いて回るだけ。
 それでも森の奥を気にして匂いを嗅ぐ仕草を何度かして、あとはリーズの木の実採りを見守る。

「(リーズ、その木の実は人間にはちと毒がありすぎる)」
「え?! 食べられないの?!」
「(ああ、すぐに死ぬわけじゃないが、10個ほど食べれば命に関わるだろうな)」
「そ、それは困るわね……」

 そう言って、拾った付近にまた木の実を戻す。
 リーズの横をするりと通り過ぎてそのまま赤い木の実を加えると、彼女の持っているカゴに入れる。

「(これは旨い。甘くておいしいぞ)」
「本当?!」

 初めて知る情報を手に入れて嬉しくなり、ご機嫌な様子であたりを見渡す。
 カゴに入れてもらった実と同じものを見つけて拾い、スカートで軽く拭いて食べてみる。

「……あまい」

 ベリーのような甘さというよりも前にキャシーに振舞ってもらったプラムに似たような味だった。
 そしていくつか拾ってカゴに収めると、シロのほうへと戻っていく。

「物知りだね、シロは」
「(お前よりは長く生きているからな)」
「何歳なんですか?」
「(乙女に年齢は禁句だぞ)」
「シロは乙女じゃないでしょ……!」
「(バレたか……)」

(やっぱり魔獣は長生きなのかな?)

 なんてリーズは心の中で思っていたが、声に出すことはせずに優しく白い毛を撫でる。
 気持ちよさそうにする彼を見て、自然と笑みがこぼれた──


 森の出口に差し掛かった時、突然シロの足が止まったことに気づき、リーズは後ろを振り返る。

「シロ?」
「(ここまでだ、リーズ)」
「え?」

 シロは出会った時と同じように大きな魔獣の狼の姿に変化する。
 わずかに風が巻き起こり、リーズの髪がふわりと一瞬浮き上がった。

「(わたしは森に帰ってチビたちの面倒を見ないといけない)」
「チビ……?」
「(ああ、わたしが森を抜けると若い衆が不安がる。早く帰らなければならない)」

 その言葉を聞いて瞬時に彼には”家族”がいるのだと理解したが、彼からは少し違った答えが返ってきた。

「(実の、ではない。森で住むものは皆家族のようなものだ。チビは私を慕う三つ子の猫だ)」

 狼を猫が慕うと聞き、少し不思議な感覚に陥ったが、逆に言えば仲が良いということなのだと感じた。
 と同時に彼はもう帰らなければならないのだとリーズは悟る。

「(さあ、別れの時間だ。世話になった。感謝している)」
「いいえ、あなたが元気になってよかった」
「(ああ、北の森は人間を襲う魔獣で溢れているから、そちらには行くなよ)」
「うん、ありがとう」
「(木の実をとるときはここにまた来るといい)」
「ありがとう、そうする」

 別れの時にも自分を心配してくれているんだな、とリーズはあたたかい気持ちになる。

「ありがとう、シロ」

 シロはその言葉を聞き、少し頷くとそのまま大きな遠吠えをして森に駆けて行った──



 リーズが村に着いた頃にはすっかり暗くなっていた。

(少し遅くなっちゃった……)

 木の実を入れたカゴを揺らしながら、急いで家の中へと駆けこむ。
 さあ、晩ご飯の支度をしなければ、と思ったその時、リーズの腕が強く引っ張られる。

「──っ!!」

 そのままリーズはソファへと連れていかれ、押し倒される。
 口を誰かの手で押さえられてそのまま唇を首元に寄せられた──
 そこでリーズは自分の身体を拘束する犯人がわかった。

「ニコラ……?」
「遅い」

 ひどく低い声で囁かれた言葉にぞわっとするも、手つきはなんとも優しく愛おしいというような甘いもの。

「シロは?」
「……森に……帰ったの」
「そう、じゃあ今日からまた二人きりだ」

 甘く艶めかしい声で吐息交じりに囁くと、そのままリーズの唇をぺろりとなめる。

「──っ!!」

 頬を伝う手は大きくて角ばっている。
 何度も何度も上下に往復しながら愛おしそうに撫でては、唇を使って遊ぶ。

「ニコラ……!」
「もう我慢できないよ。違う男とばかりいちゃついて……お仕置きが必要だね」


 違う男というのがシロだと認識したときには、すでにまた彼女の唇は塞がれていた──
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…

ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。 一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。 そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。 読んでいただけると嬉しいです。 2/26 番外編を投稿しました。 読んでいただけると嬉しいです。 思っていたよりずっとたくさん読んでいただいていてとても嬉しいです。 とてもとてもありがとうございます!!   

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、すれ違いの末に離れ離れになった夫婦の物語。 再会したとき、二人が選ぶのは「離婚」か、それとも「再構築」か。 妻を一途に想い続ける夫と、 その想いを一ミリも知らない妻。 ――攻防戦の幕が、いま上がる。

最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました

斉藤めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。 白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。 その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。 それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。 やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり―― 白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。 身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。

円満離婚に持ち込むはずが。~『冷酷皇帝の最愛妃』

みこと。
恋愛
「あなたと子を作るつもりはない」 皇帝シュテファンに嫁いだエリザは、初夜に夫から宣言されて首をかしげる。 (これは"愛することのない"の亜種?) 前世を思い出したばかりの彼女は、ここが小説『冷酷皇帝の最愛妃』の中だと気づき、冷静に状況を分析していた。 エリザの役どころは、公爵家が皇帝に押し付けた花嫁で、彼の恋路の邪魔をするモブ皇妃。小説のシュテファンは、最終的には運命の恋人アンネと結ばれる。 それは確かに、子どもが出来たら困るだろう。 速やかな"円満離婚"を前提にシュテファンと契約を結んだエリザだったが、とあるキッカケで彼の子を身ごもることになってしまい──? シュテファンとの契約違反におののき、思わず逃走したエリザに「やっと見つけた」と追いすがる夫。 どうやら彼はエリザ一筋だったらしく。あれ? あなたの恋人アンネはどうしたの? ※小説家になろう様でも掲載しています ※表紙イラスト:あさぎかな先生にコラージュアートをいただきました ※毎朝7時に更新していく予定です→2月15日からはランダム更新となります。ご了承ください

乙女ゲームのモブに転生していると断罪イベント当日に自覚した者ですが、ようやく再会できた初恋の男の子が悪役令嬢に攻略され済みなんてあんまりだ

弥生 真由
恋愛
『貴女との婚約は今夜を持って破棄させて貰おう!』  学園卒業祝いの夜会の場に、凛と響いた王太子殿下の一声。  その瞬間、私は全てを思い出した。  私が前世ではただの手芸とゲームが好きなインドア派女子大生だったこと。そして、ゲーム世界に転生して尚も趣味は変わらず、ライバルキャラですらないモブになってしまっていたことを。  幼い頃に一度出会ったきりの初恋の彼と学園で再会出来たらなぁ、なんて淡い期待を抱いて通っていたのに、道理で卒業式までなんにも起きなかったわけだ。  ーーなんて、ひとり納得していたら。  何故だが私が悪役令嬢の断罪イベントの目撃者として名指しされ、一気に渦中の人物に!?  更に、王太子以外の男性陣は皆様悪役令嬢に骨抜き。なので自然と私には、彼女の潔白に繋がる証言が求められる。  しかしながら、私は肝心の事件の日の記憶が訳あって曖昧だったので、致し方なく記憶を呼び覚ます治療を受けさせられる羽目に。  タイムリミットは1年間。  その1年間の私への護衛につけられたのは、悪役令嬢に心奪われた初恋の彼でした。

王女様は温かいごはんが食べたい ~冷えた王宮料理を変えたら、オープンキッチンと政略婚約がついてきました~

しおしお
恋愛
異世界の王女リリアーヌは、前世の記憶を持つ転生者。 豪華絢爛な王宮で暮らし始めた彼女だったが、ひとつだけどうしても耐えられないことがあった。 ――食事が、冷めているのだ。 どれほど立派な料理でも、ぬるいスープや冷めた肉ではホッとできない。 「温かいごはんが食べたい」 そのささやかな願いを口にしたことから、王宮ではなぜか大騒動が巻き起こる。 地下厨房からの高速搬送。 専用レーンを爆走するカートメイド。 扉の開閉に命をかけるオープナー。 ついには食堂に火を持ち込むオープンキッチンまで誕生して――!? 温かさは、ホッとさせてくれる。 それは料理だけではなく、人との距離まで少しずつ変えていくものだった。 冷えた王宮に湯気と笑顔を取り戻す、 食と温かさをめぐる宮廷日常コメディ! -

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

憧れの騎士さまと、お見合いなんです

絹乃
恋愛
年の差で体格差の溺愛話。大好きな騎士、ヴィレムさまとお見合いが決まった令嬢フランカ。その前後の甘い日々のお話です。

処理中です...