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第二部 婚約者~妃教育編~
第23話 婚約者ではなかったの?
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天井の高い謁見の間は国王の一声がよく響いた。
自らの恋人であるニコラの婚約者が自分ではなく、他の女性だとする王命が下ると、リーズはその言葉一つで身体が動かなくなった。
戸惑いを覚えた彼女は大きく跳ねた自らの心臓を落ち着かせながら、ちらりとニコラのほうを見た。
彼も寝耳に水だったようで目を大きく開くと、一歩大きく踏み出して国王に問いかける。
「父上っ! それはどういうことですか!? 婚約者はここにいるリーズにさせていただく約束だったでは……」
「そこにいる娘は罪人であるフルーリー家の人間ではないか。そのような者を未来の妃にすることなどできはしない」
「お待ちくださいっ! 彼女もフルーリー伯爵に虐げられ、被害を受けた者。それをそのような……」
「言い訳は聞かん。そこにいるジュリアは侯爵家の長女で気概も良く賢い。妃となるに相応しい」
国王の誉め言葉に対して軽い会釈をしてジュリアは返事をする。
ニコラは右手の拳を強く握りしめ、小さく肩を震わせながら唇を噛みしめた。
「ニコラ、何をそんなに不満なの? そこにいる娘よりもこの子のほうがいいじゃない」
「母上……」
ニコラはすぐさまこれが全てこの”母親”の計略であると感じ取った。
すでに先手を打たれたことに、ニコラは自分の甘さを後悔して何か打開策はないか、と考えを巡らせる。
「──っ!」
その瞬間、ニコラは母親のある仕草に目を奪われた。
(右手で扇子を閉じた……まさか……!?)
ニコラが母親の視線の先に目を移すと、そこには柱の陰から吹き矢を構えている兵士がいた。
彼が持つの先にはニコラの隣で困惑の色を隠せないリーズが立っている。
それを確認した瞬間、ニコラはリーズの肩に手をやると、そのまま彼女に勢いよく力を込める。
「──っ!」
リーズはそのまま突き飛ばされる形となって絨毯の上に尻餅をつく。
「ニコラ……?」
何をされているのか、何が起こったのかわからずリーズは突き倒してきた彼の顔を見遣る。
なんとも冷たい表情になっており、彼女の知っているいつもの彼ではなかった。
ニコラはそのままリーズに背を向けて国王と王妃に跪くと、いつもよりも低い声色で宣言する。
「国王、王妃。わたくし、ニコラ・ヴィオネは、そちらにいるジュリア嬢を婚約者とすることをお受けさせていただきます」
「──え?」
床に倒されたままその言葉を聞いたリーズは、自分の耳に届いた情報が信じられずに小さく呟いた。
どうして彼は突然そんなことを言い出したのだろうか。
振り返ってこちらを見ることもないニコラを見つめて、頭を必死に回転させる。
(どうして……!? ニコラ、そんなことを……どうして?)
彼の真意がわからず、彼女は立つこともままならないまま這ってニコラに近づいた。
ニコラの服の裾をぎゅっと握ると、問いかける。
「ねえ、どうしちゃったの? ニコラ……」
「……ごめん」
なんで彼は私に謝っているのだろうか、そう思っていたときに玉座から高らかな声が響いて来る。
「ふふっ! 当たり前ねえ~! そんな貧相な女より、ジュリアちゃんのほうがよっぽど素敵なレディだもの」
「もったいなきお言葉にございます」
リーズとニコラの斜め後ろにいたジュリアは、王妃に向かって再度頭を下げた。
その佇まいと品の良さは確かに国で有力な侯爵家の長女とあって、ずば抜けているのがリーズにもわかった。
国王も言いたいことが済んだとばかりに立ち上がると、そのまま退室していく。
王妃はそのまま玉座から降りてニコラの元に向かうと、扇で口元を隠しながら満足そうに笑う。
「ふふ、賢い選択よ。ニコラ」
「……はい」
そうして真紅の唇を開いてその場にいた衛兵に声をかけた。
「この田舎娘を今すぐ王宮から追い出しなさい」
「え……」
「母上、それはっ!!」
「いいから、追い出しなさいっ!!」
空気が凍るような冷たく厳しい声色で衛兵に命令すると、衛兵たちは互いに顔を見合わせながらどうするか戸惑いを見せた後、リーズの元へ駆け寄って来る。
衛兵は座り込んでいるリーズの腕をとり、そのまま身体を起こす。
「リーズっ!!」
ニコラの声も虚しくリーズはそのまま大きな扉の前まで連れていかれる。
(どうしよう、このままだと、ニコラと離れ離れに……!)
そんな考えが巡るも兵士たちに取り押さえられたリーズは何もすることができるにそのままどんどんニコラから離れていく。
「ニコラっ!!」
「リーズっ!!」
扉が閉まる直前に見たのは、ニコラの悔しさと苦しさを滲ませた表情だった──
自らの恋人であるニコラの婚約者が自分ではなく、他の女性だとする王命が下ると、リーズはその言葉一つで身体が動かなくなった。
戸惑いを覚えた彼女は大きく跳ねた自らの心臓を落ち着かせながら、ちらりとニコラのほうを見た。
彼も寝耳に水だったようで目を大きく開くと、一歩大きく踏み出して国王に問いかける。
「父上っ! それはどういうことですか!? 婚約者はここにいるリーズにさせていただく約束だったでは……」
「そこにいる娘は罪人であるフルーリー家の人間ではないか。そのような者を未来の妃にすることなどできはしない」
「お待ちくださいっ! 彼女もフルーリー伯爵に虐げられ、被害を受けた者。それをそのような……」
「言い訳は聞かん。そこにいるジュリアは侯爵家の長女で気概も良く賢い。妃となるに相応しい」
国王の誉め言葉に対して軽い会釈をしてジュリアは返事をする。
ニコラは右手の拳を強く握りしめ、小さく肩を震わせながら唇を噛みしめた。
「ニコラ、何をそんなに不満なの? そこにいる娘よりもこの子のほうがいいじゃない」
「母上……」
ニコラはすぐさまこれが全てこの”母親”の計略であると感じ取った。
すでに先手を打たれたことに、ニコラは自分の甘さを後悔して何か打開策はないか、と考えを巡らせる。
「──っ!」
その瞬間、ニコラは母親のある仕草に目を奪われた。
(右手で扇子を閉じた……まさか……!?)
ニコラが母親の視線の先に目を移すと、そこには柱の陰から吹き矢を構えている兵士がいた。
彼が持つの先にはニコラの隣で困惑の色を隠せないリーズが立っている。
それを確認した瞬間、ニコラはリーズの肩に手をやると、そのまま彼女に勢いよく力を込める。
「──っ!」
リーズはそのまま突き飛ばされる形となって絨毯の上に尻餅をつく。
「ニコラ……?」
何をされているのか、何が起こったのかわからずリーズは突き倒してきた彼の顔を見遣る。
なんとも冷たい表情になっており、彼女の知っているいつもの彼ではなかった。
ニコラはそのままリーズに背を向けて国王と王妃に跪くと、いつもよりも低い声色で宣言する。
「国王、王妃。わたくし、ニコラ・ヴィオネは、そちらにいるジュリア嬢を婚約者とすることをお受けさせていただきます」
「──え?」
床に倒されたままその言葉を聞いたリーズは、自分の耳に届いた情報が信じられずに小さく呟いた。
どうして彼は突然そんなことを言い出したのだろうか。
振り返ってこちらを見ることもないニコラを見つめて、頭を必死に回転させる。
(どうして……!? ニコラ、そんなことを……どうして?)
彼の真意がわからず、彼女は立つこともままならないまま這ってニコラに近づいた。
ニコラの服の裾をぎゅっと握ると、問いかける。
「ねえ、どうしちゃったの? ニコラ……」
「……ごめん」
なんで彼は私に謝っているのだろうか、そう思っていたときに玉座から高らかな声が響いて来る。
「ふふっ! 当たり前ねえ~! そんな貧相な女より、ジュリアちゃんのほうがよっぽど素敵なレディだもの」
「もったいなきお言葉にございます」
リーズとニコラの斜め後ろにいたジュリアは、王妃に向かって再度頭を下げた。
その佇まいと品の良さは確かに国で有力な侯爵家の長女とあって、ずば抜けているのがリーズにもわかった。
国王も言いたいことが済んだとばかりに立ち上がると、そのまま退室していく。
王妃はそのまま玉座から降りてニコラの元に向かうと、扇で口元を隠しながら満足そうに笑う。
「ふふ、賢い選択よ。ニコラ」
「……はい」
そうして真紅の唇を開いてその場にいた衛兵に声をかけた。
「この田舎娘を今すぐ王宮から追い出しなさい」
「え……」
「母上、それはっ!!」
「いいから、追い出しなさいっ!!」
空気が凍るような冷たく厳しい声色で衛兵に命令すると、衛兵たちは互いに顔を見合わせながらどうするか戸惑いを見せた後、リーズの元へ駆け寄って来る。
衛兵は座り込んでいるリーズの腕をとり、そのまま身体を起こす。
「リーズっ!!」
ニコラの声も虚しくリーズはそのまま大きな扉の前まで連れていかれる。
(どうしよう、このままだと、ニコラと離れ離れに……!)
そんな考えが巡るも兵士たちに取り押さえられたリーズは何もすることができるにそのままどんどんニコラから離れていく。
「ニコラっ!!」
「リーズっ!!」
扉が閉まる直前に見たのは、ニコラの悔しさと苦しさを滲ませた表情だった──
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