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第22話 現象の正体

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 「もう魔物は来ないよ」

 耳をませたエアルが周りに伝えた。
 魔物がごった返した絶望的な状況から、見事に小屋を守り抜いたようだ。

「はあ、きっつ~。武器もたくさん使っちゃったわ」
「あはは、みたいだね」
「わふっ!」

 すでに限界が来ていたリザと共に、エアルとラフィもその場に座り込む。

「一応聞くけど、街の方は大丈夫なのよね?」
「大丈夫。魔物は倒したし、魔法で入口を塞いだよ」
「もう、相変わらずめちゃくちゃね」

 常に張りつめていた緊張から解放され、リザは安堵の表情を浮かべる。
 だがそんな中、レリアは長刀を握りしめたまま立ち尽くしている。

「みんな……」

 下唇を噛んだまま、ぐっと堪えた気持ちを言葉にした。

「ワタシは、みんなを置いて逃げたのに……」
「逃げたわけじゃないよね」
「……え?」

 エアルは小屋を指したまま、にっこりと笑みを浮かべる。

「何よりも守りたい人がいた。でしょ?」
「……っ」

 すでに小屋の中に人がいると気づいていた。
 ここまで騒ぎが大きくても目を覚まさないならば、植物状態になっていることは理解できる。
 エアルは、レリアの行動をちっとも意に介していないようだ。

「……ありがとう」

 レリアはさっと背を向けるが、チラリと見えた目は少し潤って見えた。
 “不敵のレリア”らしからぬ様だが、これが本来の姿なのかもしれない。

 また、そんな彼女を周りも責めるはずもない。

「まあ、不敵のレリアさんの謎も一つ解けたし」
「フフッ、一番知られたくない人情報屋に知られるなんてね。ぬかったわ」

 リザとレリアもほほえみ合う。
 今の二人は、共に死線を乗り越えた仲間のようだ。

 それから、ラフィに至っても。

「わふぅ!」
「……!」
「わふふ~」
「フフッ、あざとい子ね」
 
 ほっぺをすりすりするように寄ってきたラフィに、レリアは初めて手を添えた。
 彼女の浮かべた表情は、まるで今まで触ることを我慢していたかのようだ。
 可愛いとは思っていたが、彼らを利用している後ろめたさから、ちゅうちょしていたのかもしれない。

 そんな光景に、エアルは嬉し気にうなずく。

「これが一件落着ってやつ、だね!」
「もう、私が教えた言葉じゃない」
「えへへっ!」

 エアルは雰囲気をなごませる。
 彼の行動により、場が自然と温かくなるのを全員が感じていた。

 ──しかし、事態は終わっていなかった。

「……ッ!」
「エアル?」

 何かを察知したように、表情を途端に変えるエアル。
 ハッとした様子から、すぐさま声を上げた。

「みんな、その辺に手をついて!」
「え? ──きゃっ!」

 おそってきたのは、再び地震だ。

「大きい……!」
「一体何が……!」

 しかも、先ほどのよりさらに揺れが大きい。 
 地震というよりは、何か巨大なものが起き上がる・・・・・かのような。

「……!」

 そしてエアルは思い出した。
 『ダンダン丘』で自らが発した言葉を。

「僕、上から見るよ!」
「ワタシも!」

 大きな地震の中、エアルとレリアは華麗かれいな身のこなしで木を駆けあがる。

「え、ちょっ!」
「わふ!」
「ラフィ、ありがと!」

 そこまではできないが、リザもラフィに掴まって木の頂点へ登った。

「「「……ッ!!」」」

 そして、一行は目撃する。

「何よこれ……」
「ワタシも見た事ないわ……」

 『ダンダン丘』の地面が上がっていく。
 ゆっくりと、だが絶えることなく地盤が上がっていく。

 ──そしてやがて、下からは巨大な顔がのぞかせた。

「グオォ……」
 
 エアルの言っていたことが現実になる。
 “大氾濫スタンピード”どころではない。
 迫っているのは、まさに未曾有みぞうの大災害。

「グオ、オ、オ、オ、オ、オ、オ、オ……!!」

 その顔は“亀”のようだ。
 ダンジョン全体が巨大な甲羅のように見える。

「そんな、まさか……」

 リザの口から言葉がれる。
 彼女は思い出していたのだ。

 探索者たちが訪れる前、ラビリンスには原住民がいた。
 思い出したのは、原住民のとある遺跡に記されていた謎のせき
 まさかそれが現実とは思いもよらかったが。

「グオ、オ、オ、オ、オ、オ、オ、オ……!!」

 ──『かんじゅう・ダンジョンタートル』

 魔物ランクは不明・・
 探索が始まって以来、目撃されたのが初だからだ。
 つまり、セントラルの歴史よりずっと古くから眠っていたことになる。

「まずいわ……!」

 それが、ツヴァイに向かって今にも動き出そうとしている。

 エアルの【獄炎ヘル・ファイア】で入口は塞いだ。
 だが、ダンジョン以上の大きさを誇る魔物は、そんなもの意に介さないだろう。

「ここで止めないと……!」

 それどころか、ツヴァイなど簡単に踏み潰し、セントラルまで行ってしまう可能性すらある。
 もしそうなればセントラルは、文字通り“終わり”を迎えるだろう。

「「……っ」」

 誰もが「止めなければ」とは思っている。
 しかし、その圧倒的存在感の前に対抗手段など思い付くはずがない。

 ──ひとりの無邪気な少年を除いては。

「なーんだ。そんなことか」
「エアル……?」

 場にただよう重苦しい雰囲気に合わず、思わずふふっと笑ったエアル。
 強く握り直すのは伝説の剣エクスカリバーだ。

「僕に任せて」

 ツヴァイ、そしてセントラルの命運はエアルに託された──。
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