ヒロイン健側器

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ナタージャの力

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ナタージャはレイルとのんびり話しながら歩いていた。

趣味が似ていること。勉強の苦手な部分がお互いにかつて苦手だったこと。

ナタージャは久しぶりとも言える穏やかな時間を過ごしていた。


ナタージャが彼を信じ始めているのはとある魔法が発動していないからだった。

その魔法は、この国に生まれるものなら誰でも知っているような初歩的な魔法「危機察知」というもの。一度発動すれば半永久に発動するスグレモノ。世のゲーマー達が欲しがるタイプのスキルとも言える。

そして何度も言われる通り、ナタージャは他者を飛び抜けて美人だ。

つまり個人によって防犯を任されるこの世界にとってはナタージャは狙われまくるのが必然とも言えた。


ある日はサイコパス殺人鬼に追いかけられ、ナタージャはしばらく引きこもりになった。

「ヒヒヒ!!子どもみっけ!!」

「(こッわっっ!!せめてイケメンであれよ!!)」


ある日はロリコンクソ野郎。ナタージャは性犯罪なるものを身にしみて知った。勿論魔法をぶっ放して事なきを得たが。
「へへへ、へへ……。お嬢ちゃん一緒に遊ばない?」

「(ぎゃゃゃアァァ!!キモイキモイキモイ!)」

ある日は貴族のバカが当たり屋みたいなことをしてナタージャに話しかけてきたり。
「オイ!!俺様を誰だと思っている?!」

「え?(な、誰コイツ、これが噂の当たり屋……??)」

またある日は聖女を崇める闇宗教に出会う。やってる事はただの悪魔の生贄系だが。
「聖女様万歳!聖女様万歳!聖女様万歳!聖女様万歳((ループ」

「(無理無理ホラゲは見るのが良いんであって体験するのは無理無理無理)」



そんな事が続けばナタージャは家族以外を警戒するのが当たり前になっていた。
こんな毎日は流石にナタージャの精神が参りはじめていた。

だからといってナタージャのJK精神が折れることはなかったが。


それは学園に入学してからも変わることは無かった。だからこそナタージャは切に願った。

(こんなカンジの毎日があれば良いのに…)


しかし、そう思えば思う程トラブルがあるのは必然と言えた。


「あぁ、我が愛しのナタージャ…!」

(こ、!この声は……!!)


ナルシストことアングリッド王子である。
毎回思うが「あぁ…!」からしか喋れないのか。


ナタージャはげんなりした表情で王子を見た。
そしてカーテシーを取る。いわゆるおしゃれなお辞儀。

そして小説を見漁る人なら知ってる通り「爵位が下のものは上の者の許可がなければ話しかけてはいけない」というルールが存在する。

つまりアングリッド王子の一人劇場が開催するのであった。

アングリッド王子は独特なポーズで話しかけてきた。いや独り言の方に近いだろう。


「おぉ、ナタージャ…!相も変わらず美しいな、そなたは……」

前髪を掻き上げアングリッド王子はこちらに寄ってきた。
「そう、そして王子たるこの私こそナタージャを導くのに相応しい…!!」

「私はナタージャを愛し、またナタージャも私を愛しているだろう…!!」


ナタージャとレイルの目が死んだ。それはもうスンッとハイライトが抜け落ちた。

「さあ、私と共に王宮へ向かおう…!」

ナタージャは自身の顔の口角が引きつったのが分かった。

おそらく何度も躱し続けるナタージャに痺れを切らしたのだろう。
ナタージャは聖女扱いとはいえ、平民であることに変わりはない。

レイルもまた王子に比べると爵位が低いため無理に止める事が出来なかった。


(どうしよう、ヤバいヤバい、マジでヤバい)

ナタージャはとんでもねぇ事態に思考がぐるぐると回り始めた。
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