21 / 30
04 真実と向き合う時
20 問答
二十五番街の高架道路でプロトは車を止めた。
「降りろ」
プロトに言われて、フーベルトは渋々降りる。
夜風はぬるく、どこかからゴムの焼けるようなにおいが漂ってくる。
道を走る車はない。
ここは十六番街のすぐ隣。非難指示が出ている。
高架道路はビル群の上を乗り越えるように作られていた。
遠くには、十六番街に建つ時計塔も見える。そしてその隣、暗がりの中、光を放ちながら宙に浮く巨大な何かも。
「とうとうこの島にも、セベクノート体が出ましたね」
フーベルトの後ろから降りてきたヨランドが淡々と言う。
その手には拳銃を持っていて、銃口はフーベルトを向いていた。
「アイランド・グレイハイト。ダイル災害から守られた町……ということになっていた。そのお題目も今日で終わりだな」
プロトはあざ笑うように言う。
「」
「あれが、ミーナだって言うのか……」
フーベルトが思わずつぶやくと、プロトが言う。
「それは早すぎる。いくらダイル化とは言え、人間が一日が二日であの大きさにはならない。恐らくエルミーヌだろう」
「そうか……」
フーベルトは少しほっとした。
そんな様子を見て、プロトは鼻で笑う。
「どうだね。素晴らしい景色だと思うか?」
「どこがすばらしいんだ」
「私は全く素晴らしいと思わない。だが君は違う考えを持っているのではないか? なにしろ、これは君が引き起こしたとも言える」
「何の話だ?」
フーベルトは問い返す。プロトは意地の悪い笑みを浮かべる。
「昼の時点でミーナを捉えて尋問できていれば、すぐにエルミーヌにたどり着いていた。そうなれば、こんな状況にはならなかったはずだ。君がしたことは全て無駄だった。それどころか、事態をより悪化させただけに過ぎない」
「違う、俺は、ただ……」
「ミーナを助けたかった?」
プロトはバカにしたように言う。
「そうだよ。それがいけないって言うのか」
「冷静に考えれば、絶対に助からないとわかっていたはずだ。何も知らない少女を、妹の代用品みたいに扱って、楽しかったか?」
「そんなんじゃない!」
フーベルトは思わずプロトに掴みかかった。
「……フーベルトさん」
背後からヨランドの声が聞こえる。
声音は静かだが無視させない迫力あった。
「今すぐに、その手を離してください。さもないと撃たなければいけなくなりますので」
「……」
フーベルトは手を離した。
ここで撃ち殺されるのもありかと、一瞬だけ思ったが、プロトと争っても意味がない。
フーベルトは自分が何をするべきか冷静に考え、提案する。
「なあ、俺を見逃してくれないか」
「なんだと?」
プロトは目を丸くする。この交渉は予期していなかったようだ。
「俺を捕まえたことは、まだ基地に連絡してないんじゃないか? それなら黙っているだけでいい」
「私に嘘をつけと言うのかね?」
プロトはそれだけで人を射殺せそうな目でフーベルトを睨む。
「それが何を意味するのか、君はわかっていないようだが……」
「……」
フーベルトはふと、あの奇妙な尋問が、魔術に関わる常時発動型の固有能力だったとしたら? と考えた。
相手の嘘を見逃さない代わりに、自分の嘘も許されない能力。
ありそうな話だ。
プロトはフーベルトの知らない話で攻めても意味がないと思ったか、すぐに冷静さを取り戻す。
「まあいい。仮に、私が君を開放したとする。それで? 君は何をする気だ?」
「……」
「一人で逃げる気か? それともまさか、まだミーナを助けられる余地があるなどと思っているのではないだろうな?」
「やってみなきゃ、わからないだろ」
「はっ、わからないと来たか」
「状況が変わりすぎている。とにかく現場に行かないと何も判断できない。だから……」
「ダメですよ」
後ろから、ヨランドが口を挟む。
「それはよくないやり方です。確たる情報が不足し、名案もないような状態で、この人を説得するのは無理でしょう」
「ヨランド。余計なことを言わなくていい」
プロトがたしなめるように言う。
だが事実だ。
フーベルトはやり方を変える。
「俺はミーナを助けたい、そう思うことが、間違いだって言うのか?」
「思うだけなら自由だ。だが実行に移すとなると様々な制限がかかるだろう」
「実行に移したらいけない理由は何だよ!」
「ルールの外で戦おうとするのは良いやり方ではない」
「さっきから杓子定規みたいなことばかり言ってるぞ。おまえはマニュアルお化けか!」
「……君は、壊してはいけない壁を壊そうとしている。そして壁が壊れないことに苛立っている。それは私の責任ではない。私に八つ当たりしても世界は変わらんぞ!」
「黙れ! 世界なんて知るか! おまえだって、本気で誰かを助けたいと思ったことぐらいあるだろ! ないのかよ!」
「……」
プロトは気まずそうな顔で黙り込んだ。
「なんだ? どっちの理由で黙ってるんだ?」
プロトは、誰かを助けるためにルールを破ったのか、それとも、ルールを守って誰かを見捨てたのか。
フーベルトにはわからない。
答えを求めて、ヨランドの方を見るが、あいまいな笑みを浮かべているだけだった。
ヨランドが、とりなすように言う。
「二人とも落ち着いてください。ここでケンカしても状況が良くなることはありませんよ」
「わかっている。だから現場に行く必要があるんだ」
「現場に行ったところで意味がないぞ。踏みつぶされて死ぬのがオチだ」
「あんたが心配することじゃない」
フーベルトは捨て鉢になって言うが、プロトはしつこく食い下がる。
「何かの役に立つわけでもなく死んで、おまえは満足なのか? それとも、ただ死にたいのか?」
「あんたは構わないと思っているだろう。俺みたいな無価値なやつなんか……」
途端に、プロトはむっとしたように睨む。
「無価値な人間などいない。特別な価値のある人間がいないのと同じようにな」
「本気で言っているのか?」
「注釈をつけるなら、極めて愚かな人間はいる。おまえもその一人だ。だがそれは、無価値とは違う」
ぐうの音も出なかった。
フーベルトはため息をつく。
「せめてミーナと連絡を取る方法があれば……」
「スマホはダメなんですか?」
ヨランドに聞かれ、フーベルトは車の方を見やる。
「さっきおまえらに押収されたスマホの一つがそうだよ。ミーナは、ホテルの部屋に忘れたまま出て行ったらしい」
「打つ手なしですね」
ヨランドが残念そうに言う。プロトがため息交じりに言う。
「車に乗れ。ここにいても意味がない」
あなたにおすすめの小説
『イージス艦長、インパール最前線へ。――牟田口廉也に転生した俺は、地獄の餓死作戦を「鉄壁の兵站要塞」に変える』
月神世一
SF
【あらすじ】
「補給がなければ、戦場に立つ資格すらない」
坂上真一(さかがみ しんいち)、50歳。
かつてイージス艦長として鉄壁の防空網を指揮し、現在は海上自衛隊で次世代艦の兵站システムを設計する男。
背中には若き日の過ちである「仁王」の刺青を隠し持ち、北辰一刀流の達人でもある彼は、ある日、勤務中に仮眠をとる。
目が覚めると、そこは湿気と熱気に満ちた1944年のビルマだった。
鏡に映っていたのは、小太りで口髭の男――歴史の教科書で見た、あの「牟田口廉也」。
しかも時期は、日本陸軍史上最悪の汚点とされる「インパール作戦」決行の直前。
部下たちは「必勝の精神論」を叫び、無謀な突撃を今か今かと待っている。
(……ふざけるな。俺に、部下を餓死させろと言うのか?)
現代の知識と、冷徹な計算、そして海自仕込みのロジスティクス能力。
すべてを駆使して、坂上(中身)は歴史への介入を開始する。
精神論を振りかざすふりをして上層部を欺き、現地改修で兵器を強化し、密かに撤退路を整備する。
これは、「史上最も無能な指揮官」の皮を被った「現代の有能な指揮官」が、確定した敗北の運命をねじ伏せ、数万の命を救うために戦う、逆転の戦記ドラマ。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
「お前の泥だらけの手で触るな、気持ち悪い」と追放された令嬢——王宮の食器が一枚も焼けなくなった
歩人
ファンタジー
「お前の泥だらけの手で触るな、気持ち悪い」——王宮御用達の食器を焼く伯爵令嬢エルザは、婚約者の第二王子に手の荒れを嗤われて追放された。十二歳から十年間、王宮の全ての食器を手ずから焼いてきた。彼女の食器は特殊な土と焼成技術で魔力を通し、毒に触れると色が変わる。料理の温度も保つ。追放から三ヶ月後、晩餐会で新しい食器を使ったところ、毒が検知されず隣国の大使が倒れた。外交問題に発展する中、第二王子が「食器くらい誰でも焼ける」と窯に立った結果、出来上がったのは歪んだ灰色の皿だった。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
少年神官系勇者―異世界から帰還する―
mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる?
別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨
この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行)
この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。
この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。
この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。
この作品は「pixiv」にも掲載しています。
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
「お従妹様の看病で五年、夜会に出ておりませんの」
歩人
ファンタジー
侯爵令嬢イレーネは婚約者アーロンの要請で、五年にわたり彼の「病弱な従妹」クレアを看護してきた。夜会も社交も諦め、毎晩クレアの枕元で看護した。だが二十三歳の誕生日、医師会の抜き打ち健診でクレアは「むしろ同世代で最も健康」と診断される。イレーネが見せてもらった五年分の薬代明細には、存在しない薬品と架空の処置が並んでいた。アーロンは慌てる。「誤解だ。クレアは本当に弱くて……」イレーネは微笑んだ。「では、五年分の看護費と、わたくしが失った社交時間を、具体的な数字にして頂戴いたしましょう」。医師会長が断言する。「詐病誘導と医療費架空請求。司法に回します」。
私はダンジョンの中に部屋を所有しており、今はそこに住んでいます。仲間に裏切られた後、ゼロからやり直しています。
MayonakaTsuki
ファンタジー
レオは「月のダンジョン」を攻略したパーティーのエリート弓使いだった。名声、強い仲間、そして守ると誓った恋人、アンナ。しかし、一杯のジュースと「可愛い」笑顔が、彼の栄光を灰に変えた。身に覚えのない罪を着せられ、信頼していた仲間に全てを奪われたレオは、雨の中に放り出される。唯一の逃げ場は、旅が始まったあの場所――月のダンジョンの深淵だった。