人が怪物化する世界だとしても、この少女だけは守りたい

ソエイム・チョーク

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04 真実と向き合う時

20 問答

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 二十五番街の高架道路でプロトは車を止めた。

「降りろ」

 プロトに言われて、フーベルトは渋々降りる。
 夜風はぬるく、どこかからゴムの焼けるようなにおいが漂ってくる。

 道を走る車はない。
 ここは十六番街のすぐ隣。非難指示が出ている。

 高架道路はビル群の上を乗り越えるように作られていた。
 遠くには、十六番街に建つ時計塔も見える。そしてその隣、暗がりの中、光を放ちながら宙に浮く巨大な何かも。

「とうとうこの島にも、セベクノート体が出ましたね」

 フーベルトの後ろから降りてきたヨランドが淡々と言う。
 その手には拳銃を持っていて、銃口はフーベルトを向いていた。

「アイランド・グレイハイト。ダイル災害から守られた町……ということになっていた。そのお題目も今日で終わりだな」

 プロトはあざ笑うように言う。

「」

「あれが、ミーナだって言うのか……」

 フーベルトが思わずつぶやくと、プロトが言う。

「それは早すぎる。いくらダイル化とは言え、人間が一日が二日であの大きさにはならない。恐らくエルミーヌだろう」

「そうか……」

 フーベルトは少しほっとした。
 そんな様子を見て、プロトは鼻で笑う。

「どうだね。素晴らしい景色だと思うか?」

「どこがすばらしいんだ」

「私は全く素晴らしいと思わない。だが君は違う考えを持っているのではないか? なにしろ、これは君が引き起こしたとも言える」

「何の話だ?」

 フーベルトは問い返す。プロトは意地の悪い笑みを浮かべる。

「昼の時点でミーナを捉えて尋問できていれば、すぐにエルミーヌにたどり着いていた。そうなれば、こんな状況にはならなかったはずだ。君がしたことは全て無駄だった。それどころか、事態をより悪化させただけに過ぎない」

「違う、俺は、ただ……」

「ミーナを助けたかった?」

 プロトはバカにしたように言う。

「そうだよ。それがいけないって言うのか」

「冷静に考えれば、絶対に助からないとわかっていたはずだ。何も知らない少女を、妹の代用品みたいに扱って、楽しかったか?」

「そんなんじゃない!」

 フーベルトは思わずプロトに掴みかかった。

「……フーベルトさん」 

 背後からヨランドの声が聞こえる。
 声音は静かだが無視させない迫力あった。

「今すぐに、その手を離してください。さもないと撃たなければいけなくなりますので」

「……」

 フーベルトは手を離した。
 ここで撃ち殺されるのもありかと、一瞬だけ思ったが、プロトと争っても意味がない。
 フーベルトは自分が何をするべきか冷静に考え、提案する。

「なあ、俺を見逃してくれないか」


「なんだと?」

 プロトは目を丸くする。この交渉は予期していなかったようだ。

「俺を捕まえたことは、まだ基地に連絡してないんじゃないか? それなら黙っているだけでいい」

「私に嘘をつけと言うのかね?」

 プロトはそれだけで人を射殺せそうな目でフーベルトを睨む。

「それが何を意味するのか、君はわかっていないようだが……」

「……」

 フーベルトはふと、あの奇妙な尋問が、魔術に関わる常時発動型の固有能力だったとしたら? と考えた。

 相手の嘘を見逃さない代わりに、自分の嘘も許されない能力。
 ありそうな話だ。

 プロトはフーベルトの知らない話で攻めても意味がないと思ったか、すぐに冷静さを取り戻す。

「まあいい。仮に、私が君を開放したとする。それで? 君は何をする気だ?」

「……」

「一人で逃げる気か? それともまさか、まだミーナを助けられる余地があるなどと思っているのではないだろうな?」

「やってみなきゃ、わからないだろ」

「はっ、わからないと来たか」

「状況が変わりすぎている。とにかく現場に行かないと何も判断できない。だから……」

「ダメですよ」

 後ろから、ヨランドが口を挟む。

「それはよくないやり方です。確たる情報が不足し、名案もないような状態で、この人を説得するのは無理でしょう」

「ヨランド。余計なことを言わなくていい」

 プロトがたしなめるように言う。
 だが事実だ。
 フーベルトはやり方を変える。

「俺はミーナを助けたい、そう思うことが、間違いだって言うのか?」

「思うだけなら自由だ。だが実行に移すとなると様々な制限がかかるだろう」

「実行に移したらいけない理由は何だよ!」

「ルールの外で戦おうとするのは良いやり方ではない」

「さっきから杓子定規みたいなことばかり言ってるぞ。おまえはマニュアルお化けか!」

「……君は、壊してはいけない壁を壊そうとしている。そして壁が壊れないことに苛立っている。それは私の責任ではない。私に八つ当たりしても世界は変わらんぞ!」

「黙れ! 世界なんて知るか! おまえだって、本気で誰かを助けたいと思ったことぐらいあるだろ! ないのかよ!」

「……」

 プロトは気まずそうな顔で黙り込んだ。

「なんだ? どっちの理由で黙ってるんだ?」

 プロトは、誰かを助けるためにルールを破ったのか、それとも、ルールを守って誰かを見捨てたのか。
 フーベルトにはわからない。
 答えを求めて、ヨランドの方を見るが、あいまいな笑みを浮かべているだけだった。

 ヨランドが、とりなすように言う。

「二人とも落ち着いてください。ここでケンカしても状況が良くなることはありませんよ」

「わかっている。だから現場に行く必要があるんだ」

「現場に行ったところで意味がないぞ。踏みつぶされて死ぬのがオチだ」

「あんたが心配することじゃない」

 フーベルトは捨て鉢になって言うが、プロトはしつこく食い下がる。

「何かの役に立つわけでもなく死んで、おまえは満足なのか? それとも、ただ死にたいのか?」

「あんたは構わないと思っているだろう。俺みたいな無価値なやつなんか……」

 途端に、プロトはむっとしたように睨む。

「無価値な人間などいない。特別な価値のある人間がいないのと同じようにな」

「本気で言っているのか?」

「注釈をつけるなら、極めて愚かな人間はいる。おまえもその一人だ。だがそれは、無価値とは違う」

 ぐうの音も出なかった。
 フーベルトはため息をつく。

「せめてミーナと連絡を取る方法があれば……」

「スマホはダメなんですか?」

 ヨランドに聞かれ、フーベルトは車の方を見やる。

「さっきおまえらに押収されたスマホの一つがそうだよ。ミーナは、ホテルの部屋に忘れたまま出て行ったらしい」

「打つ手なしですね」

 ヨランドが残念そうに言う。プロトがため息交じりに言う。

「車に乗れ。ここにいても意味がない」
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