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02 最強の剣を入手する

ウエポンコールとは

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(ヘレナ視点)

 ソリスがカルキエ道場に通うようになってから、三日が過ぎた。
 ヘレナはその間に、中洲島に戻って、いろいろな仕事の進捗を確認してから、ニックを護衛代わりに連れて戻ってきた。

 ソリスからは、いざとなったらニックを盾にしても構わないと言われている。
 けれど、ニックを生き返らせた経緯を考えると、そういう事態にはなって欲しくなかった。

「というか、武器はそれでよかったんですか? ウエポンコールに登録できるようなちゃんとした武器もあったんですけど……」

 ニックは、大振りの刀を背負っていた。
 ゴブリンが使っていた物だ。

「ダメか? これ、使いやすいんだけどな……」

「まあ、ご自由にどうぞ」

 ニックは、一度死んだのが原因なのか、ウエポンコールが出来なくなっていた。
 だからウエポンコールに登録できる武器に拘る理由はない。

 その一方で、他のスキルは発動できるらしい。
 その辺りの違いは、ソリスもよくわからないと言っていた。

 暇な時に検証しておく必要がある。

「それはそうと、なんで図書館なんかに来たんだ?」

 ニックは、辺りを見回しながら、ぼんやりとした表情でそう言う。
 ヘレナの目的は、本だ。

「ロメリアのスキルについて調べたいんです」

 ロメリアは、ヘレナたちが抱える秘密を知っている。
 今のところは黙っていてくれるようだが、完全に信用するわけにはいかない。
 そして、直接戦闘になれば勝てる要素がほぼなく、アドバイスまでされる始末だ。
 とりあえず、スキルの正体だけでも解明しておく必要がある。

 もちろん、スキル辞典は領主の館にもある。
 昨日、隅から隅まで読みなおして、目ぼしはつけてあった。

「そいつは、どんなスキルを使うんだ?」

「たぶん《人形遣い》です」

 ロメリアの護衛をしていた鎧。
 それの中身が空だった。
 ということは……あれはロメリアのスキルで動いていたはず。

《SL:人形遣い》は、人形を操って攻撃するスキルだ。
 将軍ほどではないが、かなり入手難易度が高い。
 領主の一族だから、スキルガチャに重課金しているはず。
 このスキルは、使い手の魔力が高ければ高いほど、人形の物理攻撃力が上昇する。
 操れる数や範囲も向上する。

 もちろん、ロメリア本人は魔術系のスキルも所持しているだろう。
 
「つまり、物理と魔術、両方が得意ってわけか。どうやって戦う気だ?」

「まず、人形の方から無力化するしかないですね」

 しかし、この前は鎧の左手の部分だけが、宙に浮いて動いていた。
 バラバラにしても、一つ一つの部品が動いて襲ってくる可能性がある。

 それに、あれが武器なら、ウエポンコールで追加の鎧騎士を呼び出せるかも知れない。

 ヘレナは図書館の本棚の間を歩き、一冊の本を手に取る。
 その本は、アイテムボックス系の能力の亜種についてまとめられていた。

 例えばウエポンコールは、登録した自分の武器を呼び出す能力。
 剣や槍、弓、杖などが登録できる。

 武器は、どんな物でもいいわけではない。

 例えば、木の棒などは登録できない。
 木剣は登録できるので、一定の形をしている必要があるのだろう。
 中洲島に攻めてきたゴブリンが持っていたような「粗雑な武器」もダメだ。
 ヘレナが常に持っている魔導書も、武器扱いではないのか、登録できない。

 その一方で、包丁やフライパンのような、調理道具が登録できたりする。

 刃物の包丁はともかく、フライパンは武器ではないとヘレナは思うのだが……とにかく、できる物はできる。
 その他、一部の農具や工具、釣り竿や船のオールなども登録できる。

「つまり、ウエポンコールで、鎧の形をしたものを呼び出すことはできないのです……」

「なら、今ある鎧を抑え込めばいいんだな?」

「いえ、似たような別の能力もあります」

 盾や防具などを登録できる、ガードコール。
 これはウエポンコールと大差ないけれど、やはり登録できる物とできない物がある。

 服や鎧を登録できる、アーマーチェンジ。
 単に登録出来るだけでなく、今着ている服から、丸ごとチェンジできる。
 ただし、今着ている服も、登録可能な服でなければいけない。
 あるいは下着姿で発動するか。

「……」

 このスキルで、操るための鎧を呼び出すと、二つの問題がある。

 一つは、自分の身を覆うように鎧が出現してしまうこと。
 急いで鎧を脱がなければいけない。

 もう一つは、今着ている服を消してしまうこと。
 ただ、これはもう一度アーマーチェンジを使って呼び出せば済むが……。 

「他に似たよう召喚能力は……」

「あれを呼び出すのは、エンプレイスメントコールだけど?」

 横から声がかかった。
 ヘレナとニックは同時にそちらを見る。
 本棚の列の向こうに、赤い髪の少女が立っていた。ロメリアだ。

「何? 私の能力の攻略法、調べてるの?」

 ロメリアはニヤニヤと笑う。
 ヘレナは、目を逸らした。
 正直にそうですと答えるわけには行かない。

 ロメリアは、ニックの方を指さす。

「そっちの人。もしかして、人間じゃないんだ?」

「……」

「他にもいるの? この状態の人……」

 ニックとヴァネスだけだ、今の所は。

「それを感知できるのは、人形遣いのスキルが関係あるんですか?」

「まあね。でも、人形にしてはよくできてるっていうか、私じゃなかったら見分けつかないかもね」

「……」

「その人はよくわからないけど、領主の女の子は外見はそのままみたいだね。死体を材料に人形を作っているか……あるいは、死体をそのまま動かしてるってことかな?」

「死んだ人を生き返らせるスキルなんて、ありませんよ」

「……」

 ヘレナとロメリアは、無言で睨み合った。

「そういえば、君は、ソリスを直護衛にするつもり?」

「いけませんか?」

「異性を直護衛をにするのはお勧めしないよ。お風呂の時とか、一緒に入れないじゃん」

「そうですか?」

 ヘレナは、ニックの方をちらりと見た後、ため息をつく。

「私は、ソリスさんだったら、別に構わないと思っていますけど……」

 とたん、ロメリアは少し頬を染める。

「いや、あの……。私が困るって意味だったんだけど? なんで急にラブラブアピールしたの?」

「あぅ……」
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