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03 ダンジョン攻略
封印穴のカタコンベ(前)
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案内された詰め所は、木造の、どこか狭苦しい建物だった。
部屋の中央に大きなテーブルがあり、壁一面に書類棚があるせいで、なおさらそう感じる。
ロクスポンは、テーブルに地図を広げ、端が丸まらないように重しを置く。
これはダンジョンの見取り図のようだ。
線がごちゃごちゃと書かれていて、わかりづらい……。
「封印穴のカタコンベは、未踏破の地下ダンジョンでゲス。今の所、15層まで確認されているでゲス」
「15層まで?」
俺が聞くと、ロクスポンは頷く。
「昔、探検隊がそこまで降りてから引き返してきたって話でゲス」
なるほど……。
「つまり、それより下もあるけど、状況は判明していないってことですか?」
「そういうことゲス。オラも昔は最下層を目指したいと思っていたでゲス」
「今は?」
「……7層ぐらいの敵でも結構強いから、油断したらいけないでゲス」
諦めたのか。
まあ、俺もそんな深くまで行きたいとは思わないけどな。
「この地図には、一ヶ月ぐらい前にまとめられた調査報告が反映されているでゲス」
「それは、最新情報じゃないってことですか?」
ヘレナが聞くと、ロクスポンは苦笑いする。
「そんな急に変わったりしないから心配いらないでゲス。ただ、我々は普段5層までしか降りないでゲスから、そこより下に関しての情報は、保証できないでゲス」
「多少の誤差は仕方ないわね。で? 肝心のオーガはどこにいるの?」
ロメリアが呆れたように言うと、ロクスポンは、ふむ、と眉を上げる。
「確か……カオスオーガの目撃情報があるでゲス。二か月前に、この辺りにいたらしいでゲス」
ロクスポンが地図を指さす。……4層か。
「本来は、もうちょっと下の層にいるはずの魔物でゲス」
「イレギュラーってやつか。そちらとしても、早く始末して欲しい、ってことかしら?」
「そういうことでゲス」
ターゲットが近くにいるなら、こちらとしてもやりやすい。
ロクスポンは、報告書の束を取り出し、その中から何かを探す。
「それと、確か二週間前の報告で……あった。このあたりに移動していたらしいでゲスね」
ロクスポンが指さしたのは、5層……。
俺とヘレナは顔を見合わせる。
「これ、ダンジョンの奥に戻ってるよね?」
「でも、一ヶ月半での移動距離としては少なすぎますよ。この辺りを縄張りとしているのでは?」
「だとすると……こことか怪しいよね。袋小路みたいなところを巣にしているのかも」
「そうですか? 何か目的があって動きまわっているなら、交差点のようなこの辺りとか……」
俺たちは、いろいろ推測を口にしてみるが、どれも決定打に欠ける。
「よし、決めた」
ロメリアが言う。
「この4層26番っていう通路。これでオーガが目撃された地点まで行く。それから、29番通路を通って、縦穴。そして5層の38番通路、47番通路を経由して、ここまで行く。どうかな?」
俺から見ても、妥当なルートに思えた。
エルーラからは意見がなかったけれど、たぶんロメリアの決定には文句を言わないのだろう。
「さっそくですが、ダンジョンはどこから入りますゲス?」
「入り口はたくさんあるんだ? ここが近そうだけれど?」
「では、ちょっと待ってくださいゲス」
ロクスポンは、再び戸棚の書類をごそごそと探す。
そして、両手で広げられるぐらいの大きさの地図を出してくる。
「これが探索用の地図でゲス。あまり広い範囲を写していないから、地図の範囲外に出ないように気を付けて欲しいでゲス」
***
詰所から少し離れた森の中、岩壁に穴が開いていて、そこがダンジョンの入り口だった。
穴の奥から、オォォォォンと呻くような音が聞こえる。
「な、何かいるんでしょうか?」
ヘレナが少し怯えたように俺の腕をつかむ。
「そりゃ、魔物がいるんじゃないの? ダンジョンだし……」
「そう言う感じじゃないと思うんですけど」
「……入る前から何怯えてるの? 」
ロメリアは俺たちをくすくす笑った後、ロクスポンの方を振り返る。
「最速だと夜までに戻って来れるかな……明日の朝になっても戻って来なかったら、捜索隊を出して」
「わかったでゲス」
***
俺たちは、ダンジョンの中に踏み込む。
ダンジョンの中は暗い。
ごつごつした岩肌のトンネル。
空気は、どこかねっとりとした温かさがある。
エルーラが浮遊カンテラを出す。
これは空中に浮いて、俺たちの後をついてくる。
片手が塞がらないから、戦闘中も都合がいい。
「あ、みんなは武器出しといてね」
ロメリアに言われて、俺はジルコニア・ソードを、ヘレナは角柱ベリルの杖を、ウエポンコールで呼び出す。
エルーラは、常に腰に刀を下げているからいいとして……
「私の人形は、何時間も動かすのってちょっと疲れるから……ボス戦までは温存させてもらおうかな」
人形遣いにも、意外と弱点があるようだ。
俺たちは、エルーラを先頭に洞窟の奥へと進む。
分かれ道にくるとロメリアが地図を開いて方向を指示して……また歩く。
俺とヘレナは後ろをついていくだけだ。
「思ったより、敵が少ないんだな」
「ダンジョンって、そんな、入ったとたんに襲われるような所ではないですよ」
「ここはロクスポンがちゃんと管理してるんじゃないかな。敵が外に出てこないように、定期的に狩ってるんだと思う」
ヘレナとロメリアが教えてくれる。
「警戒を怠らないでください。こちらは明かりをつけて進んでいます。敵は常に暗がりの中を行動しているから、必ずこちらに気付いていますよ」
エルーラに警告された。
そう言われると、そこらにある、ちょっとした岩の影とかにも、敵が潜んでいるような気がする。
***
何度か坂道を降りて、そろそろ第三層も終わりかと思う頃。
「キシャアアアアアッ」
暗がりから叫び声が上がった。
木の棍棒を持ったゴブリンが飛び出してくる。
「てやっ!」
エルーラが素早く剣を抜いて、首を斬り落とした。
鮮やか、と思う間もなく、エルーラは前を見たまま俺たちに言う。
「後ろ! 奇襲に気を付けて!」
振り返ると、背後から、湾曲した刀を持ったゴブリンが走ってくるところだった。
俺は剣を抜いて、攻撃を受ける。
ゴブリンが持っていた剣は、あっけなく吹き飛んだ。
俺はそのゴブリンを切り捨てる。
……この感じなら戦えそうだ。
「大群です! ロメリア様、加勢を!」
「《エンプレイスメントコール:ネーロ・アルマトーラ》」
ロメリアが黒い鎧を呼び出す。武器はなし。
黒い鎧は、前から来たゴブリンの群れに飛び込み、片っ端から拳で殴り倒していく。
一方、後ろからも、さらにゴブリンの群れがやって来た。
挟み撃ち?
「《サンダー・アロー》」
ヘレナが雷を放ち、何体かのゴブリンが感電してひっくり返る。
それを超えて来たゴブリンを俺が斬り倒す。
そんなことを続けて、何匹倒したかもわからなくなった頃に、生き残っていたゴブリンは暗闇へと逃げて行った。
「残りは逃げたようです……」
「そっちは無事?」
「ええ、なんとか……ソリスさん?」
「大丈夫。まだいける」
俺は少し息が上がっていた。
やっぱり、ダンジョンは結構ハードだな。
部屋の中央に大きなテーブルがあり、壁一面に書類棚があるせいで、なおさらそう感じる。
ロクスポンは、テーブルに地図を広げ、端が丸まらないように重しを置く。
これはダンジョンの見取り図のようだ。
線がごちゃごちゃと書かれていて、わかりづらい……。
「封印穴のカタコンベは、未踏破の地下ダンジョンでゲス。今の所、15層まで確認されているでゲス」
「15層まで?」
俺が聞くと、ロクスポンは頷く。
「昔、探検隊がそこまで降りてから引き返してきたって話でゲス」
なるほど……。
「つまり、それより下もあるけど、状況は判明していないってことですか?」
「そういうことゲス。オラも昔は最下層を目指したいと思っていたでゲス」
「今は?」
「……7層ぐらいの敵でも結構強いから、油断したらいけないでゲス」
諦めたのか。
まあ、俺もそんな深くまで行きたいとは思わないけどな。
「この地図には、一ヶ月ぐらい前にまとめられた調査報告が反映されているでゲス」
「それは、最新情報じゃないってことですか?」
ヘレナが聞くと、ロクスポンは苦笑いする。
「そんな急に変わったりしないから心配いらないでゲス。ただ、我々は普段5層までしか降りないでゲスから、そこより下に関しての情報は、保証できないでゲス」
「多少の誤差は仕方ないわね。で? 肝心のオーガはどこにいるの?」
ロメリアが呆れたように言うと、ロクスポンは、ふむ、と眉を上げる。
「確か……カオスオーガの目撃情報があるでゲス。二か月前に、この辺りにいたらしいでゲス」
ロクスポンが地図を指さす。……4層か。
「本来は、もうちょっと下の層にいるはずの魔物でゲス」
「イレギュラーってやつか。そちらとしても、早く始末して欲しい、ってことかしら?」
「そういうことでゲス」
ターゲットが近くにいるなら、こちらとしてもやりやすい。
ロクスポンは、報告書の束を取り出し、その中から何かを探す。
「それと、確か二週間前の報告で……あった。このあたりに移動していたらしいでゲスね」
ロクスポンが指さしたのは、5層……。
俺とヘレナは顔を見合わせる。
「これ、ダンジョンの奥に戻ってるよね?」
「でも、一ヶ月半での移動距離としては少なすぎますよ。この辺りを縄張りとしているのでは?」
「だとすると……こことか怪しいよね。袋小路みたいなところを巣にしているのかも」
「そうですか? 何か目的があって動きまわっているなら、交差点のようなこの辺りとか……」
俺たちは、いろいろ推測を口にしてみるが、どれも決定打に欠ける。
「よし、決めた」
ロメリアが言う。
「この4層26番っていう通路。これでオーガが目撃された地点まで行く。それから、29番通路を通って、縦穴。そして5層の38番通路、47番通路を経由して、ここまで行く。どうかな?」
俺から見ても、妥当なルートに思えた。
エルーラからは意見がなかったけれど、たぶんロメリアの決定には文句を言わないのだろう。
「さっそくですが、ダンジョンはどこから入りますゲス?」
「入り口はたくさんあるんだ? ここが近そうだけれど?」
「では、ちょっと待ってくださいゲス」
ロクスポンは、再び戸棚の書類をごそごそと探す。
そして、両手で広げられるぐらいの大きさの地図を出してくる。
「これが探索用の地図でゲス。あまり広い範囲を写していないから、地図の範囲外に出ないように気を付けて欲しいでゲス」
***
詰所から少し離れた森の中、岩壁に穴が開いていて、そこがダンジョンの入り口だった。
穴の奥から、オォォォォンと呻くような音が聞こえる。
「な、何かいるんでしょうか?」
ヘレナが少し怯えたように俺の腕をつかむ。
「そりゃ、魔物がいるんじゃないの? ダンジョンだし……」
「そう言う感じじゃないと思うんですけど」
「……入る前から何怯えてるの? 」
ロメリアは俺たちをくすくす笑った後、ロクスポンの方を振り返る。
「最速だと夜までに戻って来れるかな……明日の朝になっても戻って来なかったら、捜索隊を出して」
「わかったでゲス」
***
俺たちは、ダンジョンの中に踏み込む。
ダンジョンの中は暗い。
ごつごつした岩肌のトンネル。
空気は、どこかねっとりとした温かさがある。
エルーラが浮遊カンテラを出す。
これは空中に浮いて、俺たちの後をついてくる。
片手が塞がらないから、戦闘中も都合がいい。
「あ、みんなは武器出しといてね」
ロメリアに言われて、俺はジルコニア・ソードを、ヘレナは角柱ベリルの杖を、ウエポンコールで呼び出す。
エルーラは、常に腰に刀を下げているからいいとして……
「私の人形は、何時間も動かすのってちょっと疲れるから……ボス戦までは温存させてもらおうかな」
人形遣いにも、意外と弱点があるようだ。
俺たちは、エルーラを先頭に洞窟の奥へと進む。
分かれ道にくるとロメリアが地図を開いて方向を指示して……また歩く。
俺とヘレナは後ろをついていくだけだ。
「思ったより、敵が少ないんだな」
「ダンジョンって、そんな、入ったとたんに襲われるような所ではないですよ」
「ここはロクスポンがちゃんと管理してるんじゃないかな。敵が外に出てこないように、定期的に狩ってるんだと思う」
ヘレナとロメリアが教えてくれる。
「警戒を怠らないでください。こちらは明かりをつけて進んでいます。敵は常に暗がりの中を行動しているから、必ずこちらに気付いていますよ」
エルーラに警告された。
そう言われると、そこらにある、ちょっとした岩の影とかにも、敵が潜んでいるような気がする。
***
何度か坂道を降りて、そろそろ第三層も終わりかと思う頃。
「キシャアアアアアッ」
暗がりから叫び声が上がった。
木の棍棒を持ったゴブリンが飛び出してくる。
「てやっ!」
エルーラが素早く剣を抜いて、首を斬り落とした。
鮮やか、と思う間もなく、エルーラは前を見たまま俺たちに言う。
「後ろ! 奇襲に気を付けて!」
振り返ると、背後から、湾曲した刀を持ったゴブリンが走ってくるところだった。
俺は剣を抜いて、攻撃を受ける。
ゴブリンが持っていた剣は、あっけなく吹き飛んだ。
俺はそのゴブリンを切り捨てる。
……この感じなら戦えそうだ。
「大群です! ロメリア様、加勢を!」
「《エンプレイスメントコール:ネーロ・アルマトーラ》」
ロメリアが黒い鎧を呼び出す。武器はなし。
黒い鎧は、前から来たゴブリンの群れに飛び込み、片っ端から拳で殴り倒していく。
一方、後ろからも、さらにゴブリンの群れがやって来た。
挟み撃ち?
「《サンダー・アロー》」
ヘレナが雷を放ち、何体かのゴブリンが感電してひっくり返る。
それを超えて来たゴブリンを俺が斬り倒す。
そんなことを続けて、何匹倒したかもわからなくなった頃に、生き残っていたゴブリンは暗闇へと逃げて行った。
「残りは逃げたようです……」
「そっちは無事?」
「ええ、なんとか……ソリスさん?」
「大丈夫。まだいける」
俺は少し息が上がっていた。
やっぱり、ダンジョンは結構ハードだな。
応援ありがとうございます!
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