Loading”OperateZeal"2

meishino

文字の大きさ
59 / 83

58 木漏れ日の研究所

しおりを挟む
  ジェーンがお泊まりをした夜に、彼に手伝ってもらってナイトフットの歩行練習をたくさんした。その足は腕と同様に、私の動きを完全に支えてくれた。


 足のない悲しみはやはり胸の中にあるけれど、生きてるだけで儲け物だと考えることにした。……本当によくあの教官から逃げ切れたものだ。


 翌日、私は外出許可を貰って、ジェーンと一緒に帝国研究所へと向かった。受付にいる職員さんはジェーンを見るなり、ハッと青ざめた表情になった。


 そんなに緊張するとは……。昔、彼がここで一体どんな運営をしていたのかをよく表していると思った。


 ジェーンの案内で私は医務室へと向かった。改めて通路も研究室も設備も全てがドデカい。羨ましいものだ。ケイト先生がここで力を発揮したいと思っているのも頷ける。


 彼女を止めようにも、ここの細部を見る度に、ソーライの方が優れている部分が見えてこない。ピカピカの金属製の廊下、天井は高く窓は上まで続いていて太陽の光を惜しげもなく注いでいる。


 観光スポットに勧めたくなるほど美しい場所で、設備も良ければ環境もいい。ケイト先生だってこっちの方がいいに決まってる。


 彼女のことを応援した方がいいかもしれないなぁと思いながら真っ白な天井を見つめて通路を歩いているうちに、医務室の前に着いた。


 その時、私達のそばを制服姿の研究員が通り過ぎて行った。真っ白な洗練されたデザインの制服のコートは、以前ジェーンが写真の中で着ていたのものと同じだった。


 へえ、制服だって。うちだってあることはあるけど、白衣に毛が生えたようなものだし。


「キルディア、ここが医務室です。……キルディア?何を見ていますか?どうしてあの男の後ろ姿をじろじろと見つめているのです?」


「……え?」


 私はハッとしてジェーンを見た。彼は眉を顰めて腕を組んで不満顔だった。ちょっと誤解された?誤魔化すか。私は頭をポリポリかきながら答えた。


「いや、なんでもない。はは、ははは。」


 ジェーンはより一層の不満顔になってしまった。そして早口で話し始めた。


「あの男は研究開発部のオペレーションエンブレイシステム科主任のアーロン・イザベラ・マッケイです。帝国大学院を首席で卒業しており、在学中から得意としているのはマロイチップを始めとした可動的結合システムの開発です。それのどこがセクシーですか?」


「待って、落ち着いてよ。何も別にセクシーとか思って「セクシーだと思ったから見ていたのでしょう?確かに彼の身体つきは逞しいですね。ジムに通って体づくりをしている成果が現れています。だからと言って彼の研究の素朴さを帳消しには出来ません。言うなれば彼は、ロボットの関節部分を専門としているのです。あなたは関節に詳しい人間をセクシーだと思えるのでしょうか?「待ってってば」いいえ待ちません。あなたに伝わりやすいように例えてみましょうか。私が専門としているのは鶏もも肉のジューシーな唐揚げですが、彼は軟骨の唐揚げです。誰が好き好んで軟骨の唐揚げを選びますか?」


「私は軟骨の唐揚げ好きだから頼むけど。」


「……。」


 そろそろジェーンがお怒りの表情になってきたので、私は少し笑ってから彼の腕をさすった。


「だから、別に彼がセクシーだから見てた訳じゃないよ!それに、ジェーンは貶すけど私は関節は大事だと思う。この腕だって脚だって関節あってのものだし。違う違う、そうじゃない!私が気になっていたのは彼の着ていた制服だよ。あの制服がいいなぁと思って。」


「……ならば今日帰宅した後で、あの制服を着て差し上げます。私の所持しているのは所長用のものですから、いささか豪華です。」


「え。……なんでまだ持っているの?退職するときに返却しなかったの?」


「急いで退職したものですから返却しておりません。ソーライ研究所が募集していたのは一名のみでしたし、転職には勢いが大事でしょう?」


「ああそう……確かに勢いは大事かもね。それに別にあの制服でいちゃつきたいとかじゃない。もういいよ、中に入ろう。」


 遠慮せずとも後で私が……とか言ってる人を置いておいて、私は医務室のドアをノックしてから開けて入った。


 白い部屋の中、窓際には大きな机があって、そこに白衣姿のバーバラが座っていた。


 彼女は看護師さんと話をして盛り上がっていて、我々に気づくと手を振ってからこちらに来てくれた。両手を広げて近づいてきたので、私も両手を広げて彼女とハグをした。


「キルディア、もう歩けるようになったの!?早いこと!」


「おかげさまで順調に回復しています!ヴァルガの体調はどうですか?」


 バーバラはハグをやめると私の腰に手を当てて、奥の部屋へと案内してくれた。バーバラがドアを開けると、カーテンで仕切られた奥から、ヴァルガのガハハとした笑い声が聞こえてきた。それだけで少し安心した。


 バーバラはそこで別れて、私とジェーンでカーテンの部屋へと向かった。足音に気付いたヴァルガが笑うのをやめたので、私は話しかけた。


「ヴァルガ、キルディアだよ。まだ安静にしていたい?」


 するとカーテンの奥から彼の声が聞こえた。


「いや、丁度話したいと思っていたところだ。兎に角、こっち来い!」


 お言葉に甘えて、私はカーテンをめくって中に入った。ベッドに寄りかかってヴァルガが座っていて、足は布団の中に隠れていた。にっこり笑ってくれたが、目が鋭いままなので何とも言えない表情だった。


 首にも上半身にも包帯が巻かれていて、点滴の針が腕に刺さっている状態だった。


 ベッドのそばの椅子にはステイシーが座っていて、私は彼女に挨拶をした。それからヴァルガに視線を戻すと、彼は今までの笑顔を消して、私の後方をじっと見つめていた。


「……ヴァルガ、悪いことをしたと思っている。特にジェーンの件で。」


 私はジェーンの背中をヴァルガの方へと押した。押されてヴァルガに急接近したジェーンはビクッと体を震わせたが、すぐに深々と頭を下げた。


「ヴァルガ、あなたの仰った通りです。私は暴走しました。とても酷いことをしたと思います。」


 ヴァルガは少し笑った。


「ジェーン、お前らしいことだとは思ったよ。確かに今回の件については良い行いだとは言えないが、でもあの時、教官を爆破してくれたじゃないか。結果として俺は助けられた。別にお前が俺に言わなくても、俺は元々ギルバートを助けるつもりだったからな。何があっても、彼女はこの世界に必要だから。」


「そんな事はない。」


 私の言葉に、ヴァルガは首を振った。


「皆がお前を必要としている。ニュースだって、今でもLOZの特集は絶えず、ギルは英雄のままだ。映画化だってされるようだし。……はっはっは!まさか恋愛映画とはな!あっはっは!」


 私はムッとした。それを見てヴァルガは余計に笑い始めた。するとステイシーも笑って、ジェーンも何故か笑い始めた。


 この空気は嫌いじゃないから私も笑みを零すと、ヴァルガが私をじっと見つめて何か言いたげになった。


「ん?」


「……ギル、頼みたいことがある。」


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

再婚相手の連れ子は、僕が恋したレンタル彼女。――完璧な義妹は、深夜の自室で「練習」を強いてくる

まさき
恋愛
「初めまして、お兄さん。これからよろしくお願いしますね」 父の再婚によって現れた義理の妹・水瀬 凛(みなせ りん)。 清楚なワンピースを纏い、非の打ち所がない笑顔で挨拶をする彼女を見て、僕は息が止まるかと思った。 なぜなら彼女は、僕が貯金を叩いて一度だけレンタルし、その圧倒的なプロ意識と可憐さに――本気で恋をしてしまった人気No.1レンタル彼女だったから。 学校では誰もが憧れる高嶺の花。 家では親も感心するほど「理想の妹」を演じる彼女。 しかし、二人きりになった深夜のキッチンで、彼女は冷たい瞳で僕を射抜く。 「……私の仕事のこと、親に言ったらタダじゃおかないから」 秘密を共有したことで始まった、一つ屋根の下の奇妙な生活。 彼女は「さらなるスキルアップ」を名目に、僕の部屋を訪れるようになる。 「ねえ、もっと本気で抱きしめて。……そんなんじゃ、次のデートの練習にならないでしょ?」 これは、仕事(レンタル)か、演技(家族)か、それとも――。 完璧すぎる義妹に翻弄され、理性が溶けていく10日間の物語。 『著者より』 もしこの話が合えば、マイページに他の作品も置いてあります。 https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/658724858

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

還暦妻と若い彼 継承される情熱

MisakiNonagase
恋愛
61歳の睦美と、20歳の悠人。ライブ会場で出会った二人の「推し活」は、いつしか世代を超えた秘め事へと変わっていった。合鍵を使い、悠人の部屋で彼を待つ睦美の幸福。 しかし、その幸せの裏側で、娘の愛美もまた、同じ男の体温に触れ始めていた。 母譲りの仕草を見せる娘に、母の面影を重ねる青年。 同じ男を共有しているとは知らぬまま、母娘は「女」としての業(さが)を露呈していく。甘いお土産が繋ぐ、美しくも醜い三角関係の幕が上がる。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

処理中です...