その蒼き檻の中のイソラ

濃子

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第7話 怪鳥の背に乗ってーー。

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 コンコンコンッ!

「失礼します!王都北のはずれに、デスアントの群れです!」
 ドアが叩かれ慌ただしく兵士が駆け込んでくる。
「俺がでよう」
 エンシスが言うとバタルが頷いた。
「何人行く?」
「若い奴に勉強させる。二十人。巣の駆除に三十人」
「わかったーー」
 バタルが兵士に指示をだす。

「私も同行したい」
 イソラの申し出をイオスはとめる。
「いきなり!まだ実戦はーー!」
「私は一度決めると意見を変えん」
「そう……。じゃあ、離れて見学しようーー」
「イオス様も行くんですか?」
「行くよ。後はよろしく」
 バタルとバーシーが胸を叩いた。
「わかりました!」
















「ーーなんと」
 イソラが驚きに目を丸くする。
 彼が驚いているのは、軍の使う移動手段のひとつ、赤い羽根をもつ怪鳥だ。これの背に乗って、モンスターの出現地に向かう。ただし、怪鳥は貴重種であまり数がないらしい。飼養にも手間と費用がかかるため、急を要する場合ではないと使えないそうだ。
 
 イオスは自分専用の怪鳥にイソラを乗せ、エンシスの後を飛んだ。怪鳥には大の大人が五人は乗れる。四羽の訓練された怪鳥が、大空に並んで飛行するのだ。

 そのはじめて見る光景に、イソラの目はくぎ付けになっている。身を乗りだして落ちそうになり、何度かイオスは慌てた。

「イソラ、動かないでーー」
「すまない」
 前に座るイソラを愛しく見守りながら、イオスは手綱を握る。注意をしても、イソラは下界を唖然とした顔で見続けた。

「また、ゆっくり案内するからね」
「本当か!」
 そのうれしそうな顔に、イオスは微笑みを返す。

 ーーもっとそんな顔をさせたいな……。









 怪鳥から飛びおりたエンシス達が、巨大なアリと戦闘を開始する。残った一人は怪鳥使いだ。

「下りないのか?」
「見るだけって言ったよ」
「そうだがーー。何と大きな蟻だ」
 スズハより大きいぞ、とイソラが言う。

「あれがでると厄介なんだ。いまいるアリを退治しても巣に残っている場合があるからーー」
「後から来る兵士は巣の駆除をするのか」
「そう。彼らは魔法使いと空飛ぶ絨毯で来たりするよ」
 陸移動ならムーブドラゴンがメインかな、と言うとイソラが首を傾げた。
「絨毯が、飛ぶのか?」
「うん。魔法使いの必須アイテム」
 文明が違いすぎる、とイソラが息を吐く。
「星藍国には魔法使いはいないの?」
「術師がいた」
「術師ーー」
「似たようなものだろうーー。エンシスは強いな。あの数ならひとりでも大丈夫そうだ」
「そうだね、中将達はひとりでも百人を相手にできる強さを誇っているよ」
「さすがだ」
 エンシスを褒めるイソラの姿に、イオスの胸が少し痛くなる。
 

「イオス、腰を押さえていてくれ」
 イソラが眼下での戦闘をよく見たいのか、急くように言った。
「……」
 しっかりと腰を抱くと、イソラがぐっと下に身体を倒した。
「イソラ……」
 彼が自分の腕をもつ。

 これではまるで、昨晩のーー。

 イオスは赤らむ顔を振り、怪鳥の手綱を握り直した。








「何あれ~~~!」
 魔法の絨毯であらわれたルチルは悲鳴をあげた。
「落ちないように押さえてるみたいですね」
 若い兵士が答える。
「あんなの、やっちゃってるじゃん!」
「まさかーー。ルチル様は想像力豊かだなぁ」
 兵士達にばかにされ、怒りが湧きでるルチルは、隣りに座る兵士を杖で叩いた。

 地表にいたデスアントとの戦闘が終わると、自分達の出番になる。デスアントの巣を見つけ、徹底的に潰すのだ。
 
 エンシスが戦闘を終わらせ、ルチルに合図を送る。
「よし、みんな行くよ~」
「はい!」

  他の魔法使い達が降下する中、ルチルはイオスの怪鳥に近づく。
「ダーリン~♡ごきげんいかがぁ~?」
 絨毯に乗る兵士達が吹きだした。
「……」
「ちょっと無視しないでよ!」
「ーー戦闘中だよ」
「イオスだっていちゃついてるじゃん!ラディにいってやるんだからね~~~~!」
 キャンキャンわめくルチルには目をやらず、イオスが告げる。
「イソラ、戻るよ」
「ーーわかった」
 身体を戻すイソラの顔をはっきり見て、ルチルは唇を噛んだ。

「ーー結婚したって聞いたけど~」
「ーーうん」
 ルチルから顔を背けてイオスが答える。

「全然、似合ってないね~~~!似合わなすぎてウケる~~~!どっちが妻なの~~~~?まさかイオスが、旦那様~!?合わない合わない!見た目子犬とイケメン飼い主だよね~、アモルのほうがよっぽど合ってるよ~!いや、ラディのほうがいいんじゃない~~~!」
 手を叩いてルチルははしゃいだ。
「ルチル様、行きますよ!」
「ちょっと~~~!」
 兵士達が強引にルチルを誘導する。

「騒がしいな」
 イソラの苦笑に、ルチルは眉を寄せた。
「何~?ケンカうってるの~~?」
「いや、そんな気はない」
「ちょっとくっつきすぎ~~~!」
 声を尖らせたルチルを、美麗な顔に笑みを浮かべてイソラが見る。
「足りないぐらいだ」
 イオスに背を預け、自身の腰にあった彼の手をつかむ。
「すまない、戻ろう」
「ーーうん。じゃあ、みんな気を付けて」
「はい!お疲れさまでーす!」

 兵士達がイオスに敬礼をする中、ルチルはギリギリと歯を噛み締めた。


「~~~~~っ!ムカつく~~~!」
「もう、行きますよ!手柄がなくなります!」

「うるさい~~!ボクのイオスがぁ!」
「もとから違いますよ」
「だからルチル様と来るの嫌なんだよー」
 ブーイングを無視してルチルは叫ぶ。

「異国人め!覚えてろ~~~!」 



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