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当て馬王子 アディオン 編
第25話 与一、のいない間にーー。
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「そこの馬車ー!とまれーー!」
銀髪の美青年が、馬車の横に張り付きながら馬を走らせる。それを見ていたセディランは、小さく息を吐いた。
「ーーこんなとこかな……」
「どうするんです?処罰されますよ!」
白い髪のスノウが悲鳴をあげる。
「こんなことやめるべきだったのにーー」
これから自分達はどうなるのかーー、項垂れた彼を見て、青髪のカーレルが肩を叩いた。
「ぼく達はセディラン様の近衛兵。命令に従うのは当たり前のことだ」
真面目を絵に描いたようなカーレルが、当然とばかりに言い切る。
「だから罪に問われないと?そんなわけないだろうーー」
残念ながらスノウにはそこまでの忠義心はない。これから次第では、近衛兵を辞してもいいぐらいだ。
「もう、おしまいだ……」
あの方の耳には入っただろうかーー、スノウの脳裏には美しく輝く少年がいる。幼い頃からほのかな恋心を抱いてきた相手だ。
たとえ、この想いがかなうことはなくても、想い続けたいあの方ーー。
「……ふ」
カーレルの側で小さな少年が、胸を押さえていた。
「ーーふぅ、苦しいーー」
「大丈夫か?」
心配するカーレルに、テレゼが頷いた。
「ーーイリスが感情をぶつけて来てるんだよ。厄介だよね、アザ花種ってーー。近くにいれば相手の感情を共有してしまう……」
「イリス様はどんな感情をーー?」
面白くなさそうな顔でセディランは言う。
「よくも昼寝の邪魔しやがって、だってーー」
カーレルが吹きだした。肩を揺らして大笑いをする。その部下の表情に、セディランがつらそうな顔をした。
「こんなことに巻き込んでごめんねーー」
「何を言いますかーー」
悲しげに眉を寄せた主を、カーレルが優しい眼差しで見つめる。
「スノウなど、イリス様に会えるとウキウキしているんですよ」
「ーーばかが!会えるわけがないだろ!」
「どのみち、ルーカスがいるんだ。どうにもならないさ」
「うちの方が、金はあるのにーー」
「イリス様がそんなことを気にされると思うか?」
御者は諦めたのだろう。
車輪の音がゆっくりになっていき、その内に動きがとまる。
「テレゼ!」
扉をちぎるように開け、銀髪の美貌の騎士が叫んだ。
「お父様ーー!」
うれしそうにテレゼが顔をあげる。
「貴様ら、切り刻んで野犬のエサにしてやる!!」
「お父様の方が悪役です!」
「悪役顔には定評があるーー」
何こいつーー。
ドアを壊したイケメンに、セディランは言葉をなくした。スノウとカーレルも同じ気持ちだろう……。
怖いなんてものじゃない、恐ろしい、という表現がぴたりとくる男だ。
「わたしはこの通り、大丈夫です!」
「ーーよかった……。おまえの婚約者も来ているぞ」
「えっ!」
そんなはずはないーー。幼くてもテレゼはリディアンが王太子なのを理解している。その身がどれだけ高貴であり、その身は一番に守らなければならないはずなのにーー。
「リディアン様が……」
「テレゼ!!」
声に、テレゼの目からは涙がこぼれていく。そこには、テレゼだけの王子になる、と言ってくれたリディアンが、質素な幌馬車から飛び出してきた。
「り、リディアン様ーー」
駆け寄り、固く抱き合ったふたりを見て、エドアルドが眉をひそめる。
「ーーなぜ、来られたのです?」
「来なくてどうするのだーー、テレゼが不安でいるのにーー」
「リディアン様ーー!」
テレゼをお姫様抱っこしたリディアンを、まわりにいた騎士団の隊員達が冷やかした。冷やかされても、リディアンはうれしそうな顔をする。
「さあ、城に戻るぞーー。セディランを連れてな」
「はっ!」
「ーーまるで、絵物語みたいだね」
「そうですね」
リディアンの白毛の愛馬白凰に跨るイリスは、それを巧みに操るルーカスにもたれた。恋人の身体を受け止めながら、複雑そうな顔をルーカスがする。
「ーーどうしたの?」
久しぶりに会ったというのに、彼の様子がおかしいーー。父には死んだと聞いていた彼だ。奇跡の再会を充分に味わいたかったのに、それよりも恩人の子供を助けるのに協力をしていただきたい、などと他人行儀に言われ、イリスは傷ついている。
「ーーいえ……」
小さく、ルーカスがつぶやいた。
「無事でよかった……」
「僕に言うことは?」
「……」
黙ってしまった恋人に、イリスの胸がざわめく。魔ドラゴンを退治に行くまでは、ぴったりと合っていた心が、急に添わなくなってしまった。
これはどういうことなのだろうーー。
何が原因なのか……。
イリスは俯いた。
……王太子の婚約者誘拐事件は、未遂のまま終わることになる。しかし、城ではまた違う事件が起きていることを、このときは誰も知らないでいたーー。事件を起こした、セディラン以外は……。
銀髪の美青年が、馬車の横に張り付きながら馬を走らせる。それを見ていたセディランは、小さく息を吐いた。
「ーーこんなとこかな……」
「どうするんです?処罰されますよ!」
白い髪のスノウが悲鳴をあげる。
「こんなことやめるべきだったのにーー」
これから自分達はどうなるのかーー、項垂れた彼を見て、青髪のカーレルが肩を叩いた。
「ぼく達はセディラン様の近衛兵。命令に従うのは当たり前のことだ」
真面目を絵に描いたようなカーレルが、当然とばかりに言い切る。
「だから罪に問われないと?そんなわけないだろうーー」
残念ながらスノウにはそこまでの忠義心はない。これから次第では、近衛兵を辞してもいいぐらいだ。
「もう、おしまいだ……」
あの方の耳には入っただろうかーー、スノウの脳裏には美しく輝く少年がいる。幼い頃からほのかな恋心を抱いてきた相手だ。
たとえ、この想いがかなうことはなくても、想い続けたいあの方ーー。
「……ふ」
カーレルの側で小さな少年が、胸を押さえていた。
「ーーふぅ、苦しいーー」
「大丈夫か?」
心配するカーレルに、テレゼが頷いた。
「ーーイリスが感情をぶつけて来てるんだよ。厄介だよね、アザ花種ってーー。近くにいれば相手の感情を共有してしまう……」
「イリス様はどんな感情をーー?」
面白くなさそうな顔でセディランは言う。
「よくも昼寝の邪魔しやがって、だってーー」
カーレルが吹きだした。肩を揺らして大笑いをする。その部下の表情に、セディランがつらそうな顔をした。
「こんなことに巻き込んでごめんねーー」
「何を言いますかーー」
悲しげに眉を寄せた主を、カーレルが優しい眼差しで見つめる。
「スノウなど、イリス様に会えるとウキウキしているんですよ」
「ーーばかが!会えるわけがないだろ!」
「どのみち、ルーカスがいるんだ。どうにもならないさ」
「うちの方が、金はあるのにーー」
「イリス様がそんなことを気にされると思うか?」
御者は諦めたのだろう。
車輪の音がゆっくりになっていき、その内に動きがとまる。
「テレゼ!」
扉をちぎるように開け、銀髪の美貌の騎士が叫んだ。
「お父様ーー!」
うれしそうにテレゼが顔をあげる。
「貴様ら、切り刻んで野犬のエサにしてやる!!」
「お父様の方が悪役です!」
「悪役顔には定評があるーー」
何こいつーー。
ドアを壊したイケメンに、セディランは言葉をなくした。スノウとカーレルも同じ気持ちだろう……。
怖いなんてものじゃない、恐ろしい、という表現がぴたりとくる男だ。
「わたしはこの通り、大丈夫です!」
「ーーよかった……。おまえの婚約者も来ているぞ」
「えっ!」
そんなはずはないーー。幼くてもテレゼはリディアンが王太子なのを理解している。その身がどれだけ高貴であり、その身は一番に守らなければならないはずなのにーー。
「リディアン様が……」
「テレゼ!!」
声に、テレゼの目からは涙がこぼれていく。そこには、テレゼだけの王子になる、と言ってくれたリディアンが、質素な幌馬車から飛び出してきた。
「り、リディアン様ーー」
駆け寄り、固く抱き合ったふたりを見て、エドアルドが眉をひそめる。
「ーーなぜ、来られたのです?」
「来なくてどうするのだーー、テレゼが不安でいるのにーー」
「リディアン様ーー!」
テレゼをお姫様抱っこしたリディアンを、まわりにいた騎士団の隊員達が冷やかした。冷やかされても、リディアンはうれしそうな顔をする。
「さあ、城に戻るぞーー。セディランを連れてな」
「はっ!」
「ーーまるで、絵物語みたいだね」
「そうですね」
リディアンの白毛の愛馬白凰に跨るイリスは、それを巧みに操るルーカスにもたれた。恋人の身体を受け止めながら、複雑そうな顔をルーカスがする。
「ーーどうしたの?」
久しぶりに会ったというのに、彼の様子がおかしいーー。父には死んだと聞いていた彼だ。奇跡の再会を充分に味わいたかったのに、それよりも恩人の子供を助けるのに協力をしていただきたい、などと他人行儀に言われ、イリスは傷ついている。
「ーーいえ……」
小さく、ルーカスがつぶやいた。
「無事でよかった……」
「僕に言うことは?」
「……」
黙ってしまった恋人に、イリスの胸がざわめく。魔ドラゴンを退治に行くまでは、ぴったりと合っていた心が、急に添わなくなってしまった。
これはどういうことなのだろうーー。
何が原因なのか……。
イリスは俯いた。
……王太子の婚約者誘拐事件は、未遂のまま終わることになる。しかし、城ではまた違う事件が起きていることを、このときは誰も知らないでいたーー。事件を起こした、セディラン以外は……。
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