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5話 少女の涙

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 安心したのか、ペタンと座り込んでしまった女の子達2人に駆け寄る。
「大丈夫ですか?」
2人が立ち上がるための支えになろうと、2人に手を差し伸べると、赤い髪をした女の子が
「ひっ。」
と声を漏らした。
何故だろうと私が首を傾げると、もう1人のまるで透けているかのような美しい透明な髪をした女の子が
「助けてくださり、ありがとうございます。」
と、立ち上がりながら私にお礼を言ってきた。彼女がもう1人の女の子を立ち上がらせると、2人とも少し落ち着いたようで私に頭を下げてくる。
「さ、先ほどは申し訳ありませんでした。助けてくださった方に、恐れを抱くなんて。」
赤い髪をした女の子が申し訳なさそうに私に謝った。その顔は、恐怖に怯えている。無理もない。盗賊は私が倒したとはいえ、心の傷はすぐにはいえないだろう。
透明の髪をもった女の子も、落ち着いたような表情を見せてはいるものの、その肩は震えていた。
「そっ、そうだ!護衛の彼らは……。」
そういえば男の人の悲鳴も聞こえていたな、と先ほどのことを思い出す。あたりを見渡すと、男の人の死体があちこちに倒れていた。一人一人近づいて確認してみたものの、全員、息はなかった。
「……そんな。」
ポロポロと、2人の目から涙がこぼれ出る。彼女達にとって、きっと彼らは大切な存在だったのだろう。
もう少しはやく助けれやれていれば、彼らの命も助かったのだろうか?……私のせい、なのだろうか?
そうではない、と分かってはいても、なんだか悔しい気持ちになる。悔しく、悲しい。
全員の遺体が、盗賊に向かって倒れていた。きっと彼らはその息の止まる最後の瞬間まで2人を守ろうと戦ったのだろう。
「……私が来るまで、持ち堪えてくださりありがとうございました。おかげさまで、守ることができましたよ?」
この声は、果たして彼らに届いたのだろうか?
届けばいいなあ。
今の私には、冥福を祈ることしかできなかった。

 彼女達が泣き終えた頃には、もう日が登り始めていた。本当に、長い夜だった。
「よければ、家までお送りしましょうか?」
男の人たちや盗賊の遺体を異空間にしまいながら、2人に尋ねる。
「えっ。」
2人は驚いたような表情で私をみた。
送ってあげること自体はなにも不自然じゃないと思うんだけど……。
「その、異空間魔法、使えるんですか?」
赤髪の女の子が訪ねてくる。
「え?はい。……あ。」
しまった。この魔法は、勇者にしか使えないんだっけ……。それがバレたら、勇者の家系の王女だとバレてしまう!平民として暮らしたいのに!
「すごい……勇者様だったんですね?」
はあ、これからどうしよう……?
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