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第27話 夢の続き
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「少しずつ話すよ」
制服のスラックスに着いた砂埃を払いながら佐伯先輩が言う。私も半ばつられるようにしてスカートを払った。辺りはすっかり夕闇に包まれている。
「そういえば、ここってどこなんですか? 佐伯先輩は一体どこから? 鞄は? っていうか私の鞄!」
現実が一気に押し寄せてきて、私は半分パニックになりかけた。スマホは制服のポケットにあるけれど、鞄は車の中だ。
「──大丈夫、ここにあるわ」
「──!」
声がした方をはっと振り返る。するとそこにはさっきの──明美と呼ばれた女性が立っていた。そして言葉の通り、彼女の手には私の通学バッグがある。
「あ……ありがとうございます……」
取り乱して叫んだのを見られていた恥ずかしさで声が小さくなる。けれど彼女──明美さんはまったく気にしていない様子で、私のところまで鞄を届けに来てくれた。
「本当にごめんなさい。もしよければ改めてお詫びをさせて。もちろん、嫌なら捨ててくれていいから」
そう言って、彼女は名刺くらいの大きさの紙を差し出してきた。私はとっさに佐伯先輩を振り返る。けれど何も言われなかったので、とりあえずもらっておくことにした。
「それじゃあ。私が言うのもなんだけど、気をつけて」
そう言って、明美さんは去っていった。
こっそりと盗み見ると、佐伯先輩はその姿が見えなくなるまで、明美さんの後ろ姿を見つめていた。
「……あの明美さんって、いわゆる元カノですか?」
ぶしつけな質問かとも思ったが、気になったので思い切って聞いてみる。
佐伯先輩は一瞬動きを止めたが、すぐに元の調子に戻って言った。
「……違うよ」
「……そうですか。すみません」
佐伯先輩が違うと言うなら違うのだろう。今更隠す必要なんてないのだから。
「富永さんは、どうしたい?」
唐突に聞かれ、私はその質問の意図を酌みきれずに首を傾げる。
「どうって、何がですか?」
すると、佐伯先輩は私を道路の方へと誘いながら答えた。
「さっきはあんなふうに言ったけど、今回の被害者は富永さんだから。警察に届け出るなら付き合うよ」
「警察、ですか……」
言われてみれば、最初の連れ去りからして誘拐罪だ。でも正直、今日はこれでお腹いっぱいだった。私は静かに首を振る。
「今回はやめておきます。もちろん、次はないですけどね」
私が答えると、佐伯先輩はうなずいて、先に立って歩き出した。
公道に出てからも、その歩みには迷いがない。
「佐伯先輩は……この辺、詳しいんですか? 私はここがどこかもよくわかってないんですけど……」
気になって聞いてみると、佐伯先輩はある地名を口にした。私の住んでいる地区からは、学校を挟んで反対側にあたる地域だ。
「地元のそばだから。富永さんのスマホからあのメッセージを見たのは、この近くの予備校にいた時だった」
なるほど、それで制服姿だったのだ。たぶん、学校から直接通っているのだろう。
それからしばらく歩くと、佐伯先輩が急に足を止めた。
「……ごめん、ちょっと待ってて。すぐ戻ってくるから」
そう断って佐伯先輩が入っていったのは、私でも名前を知っているような有名予備校が入った建物だった。
(佐伯先輩、いつもここで勉強してるのか……)
そんなことを考えながら、煌々と明かりが点いている建物を見上げる。もしかしたら、傍からは入校を検討しているように見えるかもしれない。実際には、私がここに通うことはないだろうけど。
と、佐伯先輩が出てきた。その手には佐伯先輩がいつも通学に使っている鞄がある。
あのメッセージを見て、全て放り出して駆けつけてくれたのだと思うと、なんだか泣きそうになってきた。
「お待たせ。今日は家まで送っていくよ」
「え、でも……」
ここからだと一時間近くはかかってしまうだろう。当然佐伯先輩がここまで戻ってくるのにも、また同じくらいの時間が必要だ。
「いいんだ。送りがてら、話すこともあるから」
そう言われてしまっては、断ることはできなかった。私は、やっぱり知らないといけない。佐伯先輩の過去に何があったかを。
私がうなずくと、佐伯先輩はかすかに微笑んだ。
制服のスラックスに着いた砂埃を払いながら佐伯先輩が言う。私も半ばつられるようにしてスカートを払った。辺りはすっかり夕闇に包まれている。
「そういえば、ここってどこなんですか? 佐伯先輩は一体どこから? 鞄は? っていうか私の鞄!」
現実が一気に押し寄せてきて、私は半分パニックになりかけた。スマホは制服のポケットにあるけれど、鞄は車の中だ。
「──大丈夫、ここにあるわ」
「──!」
声がした方をはっと振り返る。するとそこにはさっきの──明美と呼ばれた女性が立っていた。そして言葉の通り、彼女の手には私の通学バッグがある。
「あ……ありがとうございます……」
取り乱して叫んだのを見られていた恥ずかしさで声が小さくなる。けれど彼女──明美さんはまったく気にしていない様子で、私のところまで鞄を届けに来てくれた。
「本当にごめんなさい。もしよければ改めてお詫びをさせて。もちろん、嫌なら捨ててくれていいから」
そう言って、彼女は名刺くらいの大きさの紙を差し出してきた。私はとっさに佐伯先輩を振り返る。けれど何も言われなかったので、とりあえずもらっておくことにした。
「それじゃあ。私が言うのもなんだけど、気をつけて」
そう言って、明美さんは去っていった。
こっそりと盗み見ると、佐伯先輩はその姿が見えなくなるまで、明美さんの後ろ姿を見つめていた。
「……あの明美さんって、いわゆる元カノですか?」
ぶしつけな質問かとも思ったが、気になったので思い切って聞いてみる。
佐伯先輩は一瞬動きを止めたが、すぐに元の調子に戻って言った。
「……違うよ」
「……そうですか。すみません」
佐伯先輩が違うと言うなら違うのだろう。今更隠す必要なんてないのだから。
「富永さんは、どうしたい?」
唐突に聞かれ、私はその質問の意図を酌みきれずに首を傾げる。
「どうって、何がですか?」
すると、佐伯先輩は私を道路の方へと誘いながら答えた。
「さっきはあんなふうに言ったけど、今回の被害者は富永さんだから。警察に届け出るなら付き合うよ」
「警察、ですか……」
言われてみれば、最初の連れ去りからして誘拐罪だ。でも正直、今日はこれでお腹いっぱいだった。私は静かに首を振る。
「今回はやめておきます。もちろん、次はないですけどね」
私が答えると、佐伯先輩はうなずいて、先に立って歩き出した。
公道に出てからも、その歩みには迷いがない。
「佐伯先輩は……この辺、詳しいんですか? 私はここがどこかもよくわかってないんですけど……」
気になって聞いてみると、佐伯先輩はある地名を口にした。私の住んでいる地区からは、学校を挟んで反対側にあたる地域だ。
「地元のそばだから。富永さんのスマホからあのメッセージを見たのは、この近くの予備校にいた時だった」
なるほど、それで制服姿だったのだ。たぶん、学校から直接通っているのだろう。
それからしばらく歩くと、佐伯先輩が急に足を止めた。
「……ごめん、ちょっと待ってて。すぐ戻ってくるから」
そう断って佐伯先輩が入っていったのは、私でも名前を知っているような有名予備校が入った建物だった。
(佐伯先輩、いつもここで勉強してるのか……)
そんなことを考えながら、煌々と明かりが点いている建物を見上げる。もしかしたら、傍からは入校を検討しているように見えるかもしれない。実際には、私がここに通うことはないだろうけど。
と、佐伯先輩が出てきた。その手には佐伯先輩がいつも通学に使っている鞄がある。
あのメッセージを見て、全て放り出して駆けつけてくれたのだと思うと、なんだか泣きそうになってきた。
「お待たせ。今日は家まで送っていくよ」
「え、でも……」
ここからだと一時間近くはかかってしまうだろう。当然佐伯先輩がここまで戻ってくるのにも、また同じくらいの時間が必要だ。
「いいんだ。送りがてら、話すこともあるから」
そう言われてしまっては、断ることはできなかった。私は、やっぱり知らないといけない。佐伯先輩の過去に何があったかを。
私がうなずくと、佐伯先輩はかすかに微笑んだ。
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