この夢が醒めるまで──図書室から始まる恋の物語

蒼村 咲

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第31話 つながり

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 佐伯先輩の過去を聞いた。どうして本来の学年から二年遅らせたのか、その理由を聞いた。
 友だちからも、クラスメイトからも、誰からも無実を信じてもらえないというのは、いったいどういう気分なんだろう。

(私にはわからない……想像するしかない、けど……)

 それが佐伯先輩を変えてしまったのは間違いなかった。
 私はその一件以前の佐伯先輩がどんな人だったのかは知らないけど、佐伯先輩はきっと、信じてもらえないのは自分にも原因があると考えたのだと思う。だから今、佐伯先輩は「あんな感じ」なんだと思う。

 私が見惚れてしまったほどの品行方正さ──あれはきっと、佐伯先輩が纏う鎧なのだ。誰にも文句を言われないための、誰にも弱みを見せないための。
 犯してもいない罪がまとわりつく過去も、そのせいで失った二年も、佐伯先輩にとっては「不利」だから。それを少しでも和らげるために佐伯先輩ができたこと──それが「完璧」を追求することだった。

(端正で、品行方正……か)

 とても板についていると思う。とても似合っていると思う。でも佐伯先輩の本物は、佐伯先輩の本来は、どこにあるのだろう。どんなものなのだろう。

(あの二人なら、知ってるのかな……)

 私を拉致した二人組を脳裏に浮かべる。佐伯先輩とは昔からの知り合いみたいだった。実際、あの人と対峙した時佐伯先輩の一人称は「俺」になって──いや、戻っていた。

(あれ……? あの時って、どんな会話が交わされたんだっけ?)

 私はベッドから飛び起き、ギュッと目をつぶった。男の発言に、佐伯先輩の発言に、意識を集中する。

(男がカッターを突きつけてきて……それで……)

 そう、確か佐伯先輩に「本気になれ」というようなことを言ったのだ。でも「本気」って? そもそもどうして男はあんなにも激昂したのだろう?
 私は頭の中の時間を少し巻き戻してみる。男が私に向かってくる前だ。

 男が何度も殴りかかってきていても、佐伯先輩は決してやり返さなかった。そうだ、男はそれが気に入らなかったのだ。
 私を解放した後にも、「なんでいつもそんなに余裕なんだ」みたいなことを言っていた気がする。「犯罪者」になったあの時も余裕だった、と。
 それがきっかけで、佐伯先輩のあの過去をめぐる会話になったのだ。

(……え? ちょっと待って)

 何か、ものすごく大事なことを見落としているような気がする。確かに、私はあの時詳しい事情どころか、何が起こったのかさえも知らない状態だったけど。
 でも、当時の出来事を一通り知った今だったら?

(あの人は、佐伯先輩が自分に助けを求めなかったことを責めてた……ってことは)

 男は、自分なら佐伯先輩を助けられると思っていたのだ。それはなぜか。

(「友達」って、まさか……)

 佐伯先輩が、放火事件の現場にいた理由を証言できるとしたら、それは猫探しを依頼した本人以外にいないのではないか。

(そういえば、佐伯先輩はあの時……!)

 何かが「いなかった」と言っていなかったか?

(なんだっけ……ミャー?じゃない、ミューだ!)

 それがもし探していた猫の名前だったのだとしたら。佐伯先輩がその名前を口にしたとき、様子がおかしかったあの女性は──。

「猫の……飼い主?」

 思わず口をついて出た声が、一人きりの部屋に響く。まさか、そんなつながりがあったなんて。

(だからあんなに険悪な雰囲気だったのかな……)

 顔を合わせるなり殴り合いが──佐伯先輩からは手を出していないのだけど──始まったくらいなのだ。

(いや、ちょっと待って)

 私を使ってまで佐伯先輩にケンカをふっかけてきたのは向こうなのだ。
 せめて立場が逆だったら──放火犯だなんて噂が立って、学校に行けなくなった方が恨みを晴らそうとしているのならまだわかる。
 でも違うのだ。佐伯先輩が疑われる原因を作った側が、佐伯先輩を呼び出して喧嘩を仕掛けていた。

(どういうこと……? あの人は一体何をしたかったの……?)

 文字通り頭を抱えたところで、私はあの女性から何かを受け取っていたことを思い出した。確か、制服のポケットに入れたままのはずだ。

(あ、あったあった)

 ブレザーのポケットから一枚の紙片を取り出す。やはりそこには名前と連絡先が書かれていた。

「──え?」

 偶然の一致かもしれない。でもそこには、つい最近聞いた覚えのある苗字が記されていた。
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