鉄錆の女王機兵

荻原数馬

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鋼鉄の玉座

鋼鉄の玉座-03

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 ハンターオフィスで賞金を受け取り、ディアスは丸子製作所へと戻った。
 所長執務室を訪ね、デスクを挟んで対面している。そのデスクの上には賞金のうち生活費のみを残した9割にあたるクレジットが積み上げられていた。
「今回の支払いと、整備、燃料弾薬の補給をお願いします」
 白衣に身を包み、分厚い眼鏡の奥底にいつも薄笑いを浮かべた男。名をマルコという。工場を取り仕切るよりも研究者、開発者という色合いが強く、周囲の人達には博士と呼ばせていた。
 この街とその周辺に学会は無い。論文を提出したこともない。だが研究に没頭する一種の芸術家の陰を含んだ表情と、彼の開発成果である様々な兵器を見れば、博士と呼ぶことに異論を持つ者はいなかった。
 少々大人げない話だが彼は所長とか工場長と呼ばれると、それが己に対して投げかけられているのだと理解していても返事をしない。
 マルコはクレジットを摘み上げ、デスクに置かれた四角い機械に次々と放り込んだ。クレジットを数えると同時に、真贋を確める装置である。
 数え終え、数値が表示される。マルコの顔から薄笑いが消えて、クレジットの山とディアスの顔をと交互に見比べる。クレジットをいくつか選んでディアスの前へと押し返した。
 まさか偽金でも混じっていたのかとディアスが身構えていると、マルコは満面の笑みを浮かべていった。
「これ、おつりね」
「……なんですと?」
「なにって、君はローンの支払いで賞金首を狩るたびにこうして毎回、クレジットを支払っていたんじやなかったのかい? 戦車の支払いは終わりだ、お疲れちゃん」
「確かにそうですが、意外に早かったもので」
「早くもないさ。あれからもう5年だ」
 マルコは天井を見上げて過去に思いを馳せる。いかにも金に縁の無さそうな薄汚れた少年と、手足を失い虚ろな目をした少女の姿が今でもハッキリと思い出せた。
「あのときは驚いたよ。いきなりやって来て、何でもするから彼女に義肢をつけて欲しいときたもんだ」
  思い出話に笑うマルコ。ディアスは少し気まずそうにして顔を伏せた。
「博士のところで人体実験の材料を探していると聞いたもので。それなら自分が引き換えになってでも、と……」
「ひどいなあ。そんな噂、信じたのかい?」
「怪しげな噂でも、それにすがる以外に道はありませんでした」
  言葉を発するたびに、舌の奥から苦いものがにじみ出るような思いであった。
「なんの取り柄もない男です。差し出せるものは命以外にありませんから……」
 その言葉は過去か、現在か、いずれへ向けられたものであろうか。

 話は、5年前へと遡る。
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