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更に数日が過ぎたある日の昼時、ハイムさんに尋ねられた。
「旦那様が本日、一緒に夕食でもどうかと仰っています。色々と日々の過ごし方に不備がないか直接お聞きになりたいそうです。」
不備は特にはない。
皆、こんな私に良くしてくれるし、あぁでも菜園の件を相談してみようかな。
「是非、一緒に。えぇと、そういう場合、私は妻として玄関で旦那様をお迎えするべきでしょうか?私の祖国では可能な限り妻が夫の帰りを出迎えるのが礼儀だったのですが。」
そう尋ねるとハイムさんはニコリと笑った。
「こちらでは家によって様々でございますが、お亡くなりになった大奥様はよく大旦那様を玄関でお迎えになっていらっしゃいました。」
「そうですか。では私もそうしますね。」
18時頃に帰宅予定だと聞いたので少し前に玄関で待つことにした。
どんな不可思議な関係であれ、形だけの夫婦だとしても、初めはきちんとお迎えしたいと思ったのだ。
私が玄関で立って待っているとマーガレットさんに声をかけられた。
「奥様、旦那様が戻られたらお呼びしますから、それまでお部屋で待たれてはいかがですか?」
「旦那様が帰ってきたのに、私が部屋にいて間に合わなかったら失礼だと思うので、ここで待ちたいです。お邪魔になりますか?」
「そのようなことはございません。では椅子をお持ち致しますので、せめてお座りになってお待ち下さい。」
そして18時を少し過ぎた頃にアイザックさんは帰ってきた。
「おかえりなさいませ。」
「・・・!!」
出迎えた私をみてアイザックさんが少し驚いた顔をした。
そのままチラリと視線だけハイムさんに向ける。
「奥様に、どのように旦那様の帰りをお迎えしたら良いか聞かれましたので、大奥様がどうされていたかをお伝えしました。」
「ここで、ずっと待っていたのか?」
「はい。」
「この玄関で?」
あらら?
何だかお顔が険しくなってらっしゃる。
私、また間違えた?
「私がこちらで待つと我儘を言いました。一番に旦那様をお迎えしたいと。このようにふかふかの椅子を用意していただいたので、待つ間も快適に過ごせましたよ。」
「そうか、なら良い。だが次からは出迎えは不要だ。」
険しい顔のままアイザックさんは足早に行ってしまった。
少しでも彼に気に入られて、良好な関係を築ければと思ったけれどやっぱり間違えてしまったらしい。
使用人の皆が良くしてくれるから勘違いしてしまった。
私は一度の過ちによって妻の役割を与えられただけの異物。
彼にとっては目障りな存在だ。
「奥様。」
しょんぼりしている私の横に立っていたマーガレットさんに声をかけられる。
「はい。」
「どうかお気を悪くなさらないでくださいませ。旦那様は何と言うか、女性との付き合いが不得手で。」
「マーガレットさん、ありがとう。貴女のような優しい方が側にいてくれて私は幸せです。」
「・・・勿体ないお言葉でございます。」
少し悲しいけれど、仕方ない。
好かれていないなら家には寄り付かないだろうし、そうしたらそのうち外に恋人でも作ってそちらにかかりきりになる。
それで子供が出来たら、やっぱり正妻にするために私はお役御免になるかもしれない。
彼も鬼ではないだろうから、離婚に際して僅かながらでも慰謝料はくれるだろう。
そしたら私はまた旅に出ても良いし、どこかに小さな家を買って菜園を作り薬師として生きていくのも良い。
『希望を捨てず諦めない者にだけ、チャンスと幸せはやってくる。』
母さんがいつも繰り返していた言葉だ。
私はどちらかと言うと切り替えが早い。
ひとまず私に出来ることはアイザックさんをこれ以上困らせないこと。
確かに彼に乱暴されたけれど、その後の彼の真摯な姿勢には好感が持てるし、私の今の待遇も文句のつけようも無いものだ。
食堂に案内され、席に着くとアイザックさんに何か不備や必要なものは無いかと聞かれた。
私を視界に入れたく無いのか、料理から目を離さず時折視線だけチラリと私に寄越す。
菜園の話をしようかと思っていたけれど、とても言い出せる雰囲気じゃない。
仕方がないからまた今度にしよう。
「問題ありません。十分に与えられています。」
「そうか。」
その後は何も話さない。
何だかとても居心地の悪い食事風景だ。
でも、愛の無い結婚をした夫婦なのだからこれが普通なのだろう。
互いを罵り合っていないだけマシなのかもしれない。
結局大した会話も無いまま食事を終えて、与えられた部屋に戻った。
何だか落ち着かなくてバルコニーへ続くガラスの扉を開ける。
夜風が心地よく吹き抜けていくのを感じながら、バルコニーの柵に寄りかかって庭を見渡した。
丁寧に手入れされた花達が風に揺れ、月の光を浴びて静かに揺れている。
しばらくしてトントンと誰かがノックをしたので、どうぞと声をかけた。
お風呂の準備が出来たにしては時間が早い。
「・・・ダイアナ、さっきは!?」
部屋に入ってきたアイザックさんが私を見つけるなり、顔を引き攣らせて駆け寄ってくる。
何か食事の時に彼を不快にさせるようなことを言っただろうか?
「何を考えている!」
狼狽えてその場から動けないでいると腕を掴まれて部屋の中に引き摺り込まれた。
掴まれた腕が痛い。
「旦那様、放して下さい!痛い!」
「黙れ!出ていけないから死を選ぶなど許さないからな!」
何だか盛大に誤解してらっしゃる!
とりあえず放して欲しい、腕が潰れちゃう!
「旦那様、誤解です!んぅ!?」
噛み付くようにキスされ、ぬるりと分厚い舌が口の中をメチャクチャに動き回る。
慣れているとは言い難い所作だが、呼吸が出来ない。
アイザックさんの胸を押して離れようとするけれど、固い岩のようにびくともしない。
ヤバい、死んじゃう。
「どうしても死ぬというなら無理矢理にでも孕ませる。そうすれば貴女はここにいるしかなくなるだろう?」
「だ、旦那様、話を聞いて下さい。」
「あぁ聞こう。貴女の可愛らしい嬌声をたっぷりとな。」
嫌だー!人の話聞いてくれないよー!
避妊薬も必要ないだろうと、ここに来てから飲んでない。
今、犯されたら大変なことになる。
「アイザックさん!どうか落ち着いて下さい。私はどこにも行きません。貴方の側にずっとおります!」
「女はそうやって平気で嘘をつく。」
「本当です!今だってちょっと涼んでいただけです。神に誓って死のうとしていたわけではありません。」
服を半ば無理矢理脱がされて私も必死だ。
ベッドに押し倒され、ほぼ下着だけにされて逃げ場がない。
抵抗虚しく、あらわになった私の胸にかぶりつかれた。
「ひっ!」
「あぁなんて柔らかいんだ。」
「私を信じてくれないんですか?私はそんなに信用に足らない人間ですか?」
何とか彼の顔を掴んで、視線を合わせる。
これで駄目なら打つ手が無い。
「美しいな。」
「んっ!」
また口を塞がれて口内を舐め回される。
あ、ちょっと!ショーツの中に手を入れないでぇ!
「ん!んー!!」
「はぁ、ダイアナ。貴女は慈悲深く慎ましやかで凛として美しい。まるで女神そのものだ。」
「指やだぁ、抜いてぇ!」
「この中は最高だった。ここにまた俺を入れてくれ。貴女の中に何度も出したい。」
「そんなことしたら嫌いになりますからね!二度と口もききません!」
我ながら子供のような台詞だと思うけれど、もうそれくらいの語彙力しか私には残っていない。
太くて長い指が行ったり来たりするたびに敏感な所を刺激してうっかり気持ち良くなりそうなんだもの。
あぁ、敏感な体が憎い。
でも、彼はぴたりと動きを止めて私を見つめた。
「それは、今は俺を嫌っていないということか?」
「え?ええ、貴方を嫌いになる理由が無いですから。」
「理由なら数え切れないほどあると思うが、そうか。」
そう言うと彼は私からそっと離れた。
私は慌ててシーツで体を覆う。
「嫌いでないならどうしてあんな所にいたんだ。」
「夜風に当たりたかったので。」
「それだけか?」
「はい。」
そう告げると彼は静かに床に下りて土下座した。
「旦那様が本日、一緒に夕食でもどうかと仰っています。色々と日々の過ごし方に不備がないか直接お聞きになりたいそうです。」
不備は特にはない。
皆、こんな私に良くしてくれるし、あぁでも菜園の件を相談してみようかな。
「是非、一緒に。えぇと、そういう場合、私は妻として玄関で旦那様をお迎えするべきでしょうか?私の祖国では可能な限り妻が夫の帰りを出迎えるのが礼儀だったのですが。」
そう尋ねるとハイムさんはニコリと笑った。
「こちらでは家によって様々でございますが、お亡くなりになった大奥様はよく大旦那様を玄関でお迎えになっていらっしゃいました。」
「そうですか。では私もそうしますね。」
18時頃に帰宅予定だと聞いたので少し前に玄関で待つことにした。
どんな不可思議な関係であれ、形だけの夫婦だとしても、初めはきちんとお迎えしたいと思ったのだ。
私が玄関で立って待っているとマーガレットさんに声をかけられた。
「奥様、旦那様が戻られたらお呼びしますから、それまでお部屋で待たれてはいかがですか?」
「旦那様が帰ってきたのに、私が部屋にいて間に合わなかったら失礼だと思うので、ここで待ちたいです。お邪魔になりますか?」
「そのようなことはございません。では椅子をお持ち致しますので、せめてお座りになってお待ち下さい。」
そして18時を少し過ぎた頃にアイザックさんは帰ってきた。
「おかえりなさいませ。」
「・・・!!」
出迎えた私をみてアイザックさんが少し驚いた顔をした。
そのままチラリと視線だけハイムさんに向ける。
「奥様に、どのように旦那様の帰りをお迎えしたら良いか聞かれましたので、大奥様がどうされていたかをお伝えしました。」
「ここで、ずっと待っていたのか?」
「はい。」
「この玄関で?」
あらら?
何だかお顔が険しくなってらっしゃる。
私、また間違えた?
「私がこちらで待つと我儘を言いました。一番に旦那様をお迎えしたいと。このようにふかふかの椅子を用意していただいたので、待つ間も快適に過ごせましたよ。」
「そうか、なら良い。だが次からは出迎えは不要だ。」
険しい顔のままアイザックさんは足早に行ってしまった。
少しでも彼に気に入られて、良好な関係を築ければと思ったけれどやっぱり間違えてしまったらしい。
使用人の皆が良くしてくれるから勘違いしてしまった。
私は一度の過ちによって妻の役割を与えられただけの異物。
彼にとっては目障りな存在だ。
「奥様。」
しょんぼりしている私の横に立っていたマーガレットさんに声をかけられる。
「はい。」
「どうかお気を悪くなさらないでくださいませ。旦那様は何と言うか、女性との付き合いが不得手で。」
「マーガレットさん、ありがとう。貴女のような優しい方が側にいてくれて私は幸せです。」
「・・・勿体ないお言葉でございます。」
少し悲しいけれど、仕方ない。
好かれていないなら家には寄り付かないだろうし、そうしたらそのうち外に恋人でも作ってそちらにかかりきりになる。
それで子供が出来たら、やっぱり正妻にするために私はお役御免になるかもしれない。
彼も鬼ではないだろうから、離婚に際して僅かながらでも慰謝料はくれるだろう。
そしたら私はまた旅に出ても良いし、どこかに小さな家を買って菜園を作り薬師として生きていくのも良い。
『希望を捨てず諦めない者にだけ、チャンスと幸せはやってくる。』
母さんがいつも繰り返していた言葉だ。
私はどちらかと言うと切り替えが早い。
ひとまず私に出来ることはアイザックさんをこれ以上困らせないこと。
確かに彼に乱暴されたけれど、その後の彼の真摯な姿勢には好感が持てるし、私の今の待遇も文句のつけようも無いものだ。
食堂に案内され、席に着くとアイザックさんに何か不備や必要なものは無いかと聞かれた。
私を視界に入れたく無いのか、料理から目を離さず時折視線だけチラリと私に寄越す。
菜園の話をしようかと思っていたけれど、とても言い出せる雰囲気じゃない。
仕方がないからまた今度にしよう。
「問題ありません。十分に与えられています。」
「そうか。」
その後は何も話さない。
何だかとても居心地の悪い食事風景だ。
でも、愛の無い結婚をした夫婦なのだからこれが普通なのだろう。
互いを罵り合っていないだけマシなのかもしれない。
結局大した会話も無いまま食事を終えて、与えられた部屋に戻った。
何だか落ち着かなくてバルコニーへ続くガラスの扉を開ける。
夜風が心地よく吹き抜けていくのを感じながら、バルコニーの柵に寄りかかって庭を見渡した。
丁寧に手入れされた花達が風に揺れ、月の光を浴びて静かに揺れている。
しばらくしてトントンと誰かがノックをしたので、どうぞと声をかけた。
お風呂の準備が出来たにしては時間が早い。
「・・・ダイアナ、さっきは!?」
部屋に入ってきたアイザックさんが私を見つけるなり、顔を引き攣らせて駆け寄ってくる。
何か食事の時に彼を不快にさせるようなことを言っただろうか?
「何を考えている!」
狼狽えてその場から動けないでいると腕を掴まれて部屋の中に引き摺り込まれた。
掴まれた腕が痛い。
「旦那様、放して下さい!痛い!」
「黙れ!出ていけないから死を選ぶなど許さないからな!」
何だか盛大に誤解してらっしゃる!
とりあえず放して欲しい、腕が潰れちゃう!
「旦那様、誤解です!んぅ!?」
噛み付くようにキスされ、ぬるりと分厚い舌が口の中をメチャクチャに動き回る。
慣れているとは言い難い所作だが、呼吸が出来ない。
アイザックさんの胸を押して離れようとするけれど、固い岩のようにびくともしない。
ヤバい、死んじゃう。
「どうしても死ぬというなら無理矢理にでも孕ませる。そうすれば貴女はここにいるしかなくなるだろう?」
「だ、旦那様、話を聞いて下さい。」
「あぁ聞こう。貴女の可愛らしい嬌声をたっぷりとな。」
嫌だー!人の話聞いてくれないよー!
避妊薬も必要ないだろうと、ここに来てから飲んでない。
今、犯されたら大変なことになる。
「アイザックさん!どうか落ち着いて下さい。私はどこにも行きません。貴方の側にずっとおります!」
「女はそうやって平気で嘘をつく。」
「本当です!今だってちょっと涼んでいただけです。神に誓って死のうとしていたわけではありません。」
服を半ば無理矢理脱がされて私も必死だ。
ベッドに押し倒され、ほぼ下着だけにされて逃げ場がない。
抵抗虚しく、あらわになった私の胸にかぶりつかれた。
「ひっ!」
「あぁなんて柔らかいんだ。」
「私を信じてくれないんですか?私はそんなに信用に足らない人間ですか?」
何とか彼の顔を掴んで、視線を合わせる。
これで駄目なら打つ手が無い。
「美しいな。」
「んっ!」
また口を塞がれて口内を舐め回される。
あ、ちょっと!ショーツの中に手を入れないでぇ!
「ん!んー!!」
「はぁ、ダイアナ。貴女は慈悲深く慎ましやかで凛として美しい。まるで女神そのものだ。」
「指やだぁ、抜いてぇ!」
「この中は最高だった。ここにまた俺を入れてくれ。貴女の中に何度も出したい。」
「そんなことしたら嫌いになりますからね!二度と口もききません!」
我ながら子供のような台詞だと思うけれど、もうそれくらいの語彙力しか私には残っていない。
太くて長い指が行ったり来たりするたびに敏感な所を刺激してうっかり気持ち良くなりそうなんだもの。
あぁ、敏感な体が憎い。
でも、彼はぴたりと動きを止めて私を見つめた。
「それは、今は俺を嫌っていないということか?」
「え?ええ、貴方を嫌いになる理由が無いですから。」
「理由なら数え切れないほどあると思うが、そうか。」
そう言うと彼は私からそっと離れた。
私は慌ててシーツで体を覆う。
「嫌いでないならどうしてあんな所にいたんだ。」
「夜風に当たりたかったので。」
「それだけか?」
「はい。」
そう告げると彼は静かに床に下りて土下座した。
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