あなたと思い出の曲を

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Mr.フォリーノが帰ってから、私はこれからの事について考えていた。

便利な道具兼、性欲処理係として使ってくれたら良かったのに、彼はボスに私の存在を隠そうとした。
隠し切れるはずもないと分かりそうなものだが、ダニエルは危険をおかしてそれをしたのだ。

「何を考えているのか分からないわ。」

私はため息をついて自分の部屋のソファに身を沈めた。

このままここを出て行く事は造作も無い。
ただし、Mr.フォリーノに存在を知られた今、私が誰にも何も告げずに出て行ってダニエルがあらぬ疑いをかけられる危険が無いとは言えない。
私は組織の内部について知ってしまった人間だ。

どうしたものかと考えあぐねていると、ダニエルから渡されたスマホから着信音が流れてきた。
この番号はダニエルしか知らないので、必然的に彼からの電話だ。

「もしもし。どうしたの?」
「今、何処にいる。」
「貴方の家のゲストルームにいるわ。」
「そうか、あと数時間で戻る。それまで部屋から出るなよ。」

確か帰りは明日のはずだった気がする。
何かあったのだろうか?

「分かったわ。でも何かあったの?」
「黙って俺の帰りを待ってろ。部屋から出たら殺すぞ。」

恐ろしく低い声で言い捨てられ、電話はそこで切れた。
首を傾げながらデスクに移り、パソコンの画面を開いて彼の予定を確認する。
やはり、帰りは明日になっている。
ちょっと外のネットワークから探りを入れてみるが、大きな動きは無い。
ますます訳がわからなくなった。
しかし、彼が待てと言うなら待つしか無い。
私は立ち上がると2、3冊本を手に取りソファに座った。

ちょうど選んだ本を読み終わる頃、ドアがやや乱暴に開かれた。
今日は皆、礼儀正しくノックをして部屋に入ってくる気は無いらしい。

視線を上げるとダニエルと目が合った。

「おかえりなさい。」

私がそう言うのに彼は無言で、はぁっとため息をついた。
何かあったのか彼が纏う空気が若干ピリピリしているような気がする。
私がソファに座ったまま、何と声をかけようかと悩んでいるとダニエルが大股で私に近づき、顎を掴んで見下ろした。

「ボスと何を話した。」
「・・・何も。ただ、貴方の隠し事が気になっただけだと言っていたわ。」
「本当にそれだけか?」
「えぇそれだけ。出ていけとも死ねとも言われなくて拍子抜けよ。」

彼はまた、大きなため息をついて私の隣にドサッと腰を下ろした。

「・・・護衛から、ボスがお前に会いに来たと聞いて血の気が引いた。」
「そう。」
「カールの件は、いくらアイツが生粋の馬鹿野郎だったとは言え、最期のとどめはお前が集めた証拠だった。ボスも少なからずお前の事を憎らしく思うだろうと、そう考えてお前の事は黙っていた。」
「そうみたいね。随分とハイリスクな選択をしたものだわ。」

彼が隣の私を見ずに前を向いて話すので、私も彼と同じように前を向いて話す。

「ハイリスク、確かにそうだな。いつもなら絶対に選ばない選択だ。どうもお前相手だと調子が狂う。」
「ダニエル、あまり期待させるような事を言わないで。勘違いしそうになるわ。」

私がそう言うとダニエルは少し驚いた顔をして私を見た。
私も彼を見つめる。

「勘違い?何を言ってるんだ?」
「それはこっちの台詞よ?貴方が私に好意を抱いているなんて残酷な勘違いさせないで。死ぬのが惜しくなるから。」
「・・・俺に好かれるのがそんなに嫌か?」

ダニエルが私の腕を力強く掴んだ。
ミシッと音がなりそうなほど強い力に眉間に皺がよる。

「分からない人ね。私は貴方が好きなのよ。でも貴方から同じ気持ちを向けて貰えないのは分かってる。それでも良いから、私は貴方の道具としてここにいるの。いつ死ねと言われても良いように覚悟をして。ねぇ、ちょっと痛いから離して。」
「俺がいつお前を道具にしたって?」
「貴方がそう言ったのよ。自分のために私の才能を使えと。」
「あぁ、最初は確かにそう言った。だが、俺がお前と同じ気持ちじゃ無いってのは聞き捨てならないな。」
「え?」

私が微かに首を傾げるとダニエルは私の腕を掴んだまま舌打ちをした。

「あれだけ可愛がられて自覚無しか?」
「セックスの事?あれは処理係としての役割でしょ?」
「俺は好きでも無い女を自分の家に住まわせないし、時間を作ってまで抱かない。そもそも最初にお前を抱いた日に言ったろ?好きだって。」

信じられない言葉がダニエルの口から飛び出たので一瞬固まるが、必死で記憶を呼び起こす。
しかし、私の反応が鈍いのに痺れを切らしたのか、ダニエルがイラついた口調で言葉を続けた。

「お前が好きだと言ったから、俺もだと答えた。忘れたのか?」
「え?あれは気持ちいいって言ったから、そうだなって意味じゃなかったの?」
「お前は頭が良いのか、悪いのかどっちだ。」

随分と失礼な言い方じゃないだろうか。
確かに頭が良いと自惚れる気は無いが、悪いと言われるのは心外だ。

「ええと、つまり貴方も私が好きだって事?便利な道具としてではなく恋人とかそういう意味で?」
「だからそう言ってるだろう。確かにお前の才能は買っているが、それだけで抱かない。一体、お前は俺を何だと思ってるんだ。」

何だと言われても困る。
そもそも、彼がなぜ私を好きになるのだろうか?

「確認させて、貴方はいつ私の事を好きになったの。」
「俺が15の時にはもう良いなと思ってた。どう見たって街のチンピラの俺に堂々と『暇なら付き合って』と言って慣れないワルツ踊らせたガキなんてお前くらいだぞ。」
「背丈が丁度良いと思ったし、嫌がられなかったから。」
「最初は気まぐれだ。でも次からはお前を待ってた。それなのにいきなり現れなくなって俺の前から消えたろ。」

それはその時の里親の夫の方にレイプされかけたのを妻に見られて警察沙汰になったからだ。







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