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第03話(2)

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 ケイトは王宮魔法陣の塔を出ると考えながら歩いていた。

 壊滅したセイルの活動拠点は、ロードストリート路地裏にあった酒場だった。
 それも店名はセイルとギルド名を堂々とそのまま使う豪胆さ。
 あの酒場は現在王宮護衛団の管理下に置かれているはず・・・。
 杖の捜索を依頼したという事は、あの酒場には宝物庫の類は無かったのでしょうね。
 てことは、ドールたちが侵入した旧倉庫も同様かも。
 旧倉庫も王宮護衛団の管理下。
 調べつくしているだろうから、ここから新たな手掛かりを得るのは無理と思った方がいいかな。
 ・・・いや、見落としがあるかも。
「まだ朝方だし、両方回ってみるか。」
 背負い袋に古文書を入れ、元酒場セイルへと向かった。

 こんな路地裏の酒場だった錆びれた場所で、意外な人物と再会する。
「あ、鉄仮面・・・じゃなくてジン!
 なんでここに?」
「聞いているとは思うが、俺は冒険者を辞めて王宮護衛団に入団した。
 管轄が西区になり、最初の仕事がここの警備というわけだ。」
 相変わらず必要事項しか話さないタイプねー。
 冒険者辞めても鉄仮面な性格は変わらずか。
 ま、護衛団にとっては都合のいい存在かな。
「酒場の中を見せてほしいんだけどいいかな?」
 すると書面を差し出された。
 あとポケットに入れていた懐中時計を見せられる。
「内覧許可の書面だ。
 ケイトなら不要(顔パス)でいいと思うが、念のためサインと日時の記帳を頼む。」
「はいはい。」
 記帳しながらついでに聞くか。
「仕事は慣れそう?」
「特に難しい仕事を任されているわけではない。
 今のところは大丈夫だ。」
「今まで、あたし以外に誰か中を見に来た人っている?」
「護衛団の関係者以外は皆無だな。
 北区の旧倉庫の一つと関連性があるからか、北区の班の者がたまに来る程度だ。」
「・・・そう、ありがと。」
 ケイトは用紙とペンをジンに返し、元酒場のセイルの扉を開けた。

 中に入ると扉を閉じ、使い魔の黒猫フレイアを召喚する。
「フレイア、会話は聞いていたわよね。」
 ニャーオ
「北区の者がたまに来ると言っていたわ。
 つまり、北区の旧倉庫で何かを見つけたけど、手掛かりが無くてこちらに足を運んでいるという仮説が立つ。
 フレイアは麻薬の生産拠点だった地下室を見てきて。
 私はこの酒場のフロアを調査する。」
 ニャーオ 
 黒猫フレイアは、開かれたままの状態になっている隠し扉から地下への下り階段を降りて行った。
「さて。」
 当時、破壊神2人が暴れて壊した椅子やテーブルは全て処分されている。
 調査出来るのは破壊されなかったバーカウンター。
 カウンター内に入り、酒瓶の並んだ棚とカウンターを覗き込むように見た。
「棚に本も数冊入っているな・・・全部料理本か。」
 そのうちの1冊だけが、そうとう使い込んでいたのかボロボロだった。
 端を折っているページが何枚かある。
「きんぴらごぼう、ピーマンのソース炒め、茄子のみそ焼き・・・ベジタリアンだな。
 地下で麻薬作っていて、地上で健康食作ってたの?
 酒のつまみにはいいかもしれないけどねえ・・・あれ?」
 よく見ると端の折り方が違うのがある。
 12ページのきんぴらごぼうと35ページの茄子のみそ焼きは手前に折っているが、23ページのピーマンのソース炒めは逆折りだ。
「たまたま?・・・もしわざとなら・・・。」
 ニャーオ
 黒猫フレイアの声が聞こえる。
 降りて地下室に入ると、余計な物は全て撤去されてガランとなった何も無い部屋の奥の壁際にちょこんと黒猫フレイアが座っていた。
 その壁には
「ポスター?」
 荒海を航海する戦船の絵が張り付けられていた。
 ポスターの裏は護衛団で調べたらしく、下は張り付けていないので簡単にめくれる。
 特に壁に怪しいところは無い。
 絵も、それほど極端に上手いというわけではないからか、額に入れずにただ壁に張り付けていた。
 その程度にしか感じなかった。
 でもフレイアが鳴いたという事は何かあるはず。
 マジマジと絵を見ていると、フレイアが『まだ分からないの?』とでも言いたげに
 ウニャ、アアア
 と欠伸のような声を出した。
 ケイトがギロリとフレイアを睨む。
「フン!今解いてみせるから待ってなさい!!」
 ん?
 ロクに絵心の無いフレイアが気付いた?
 ・・・黒猫フレイアは魔界の悪魔猫だ。
 最も敏感なのは魔力感知。
「まさか。」
 絵に魔力を流せるか試すと、船の絵にだけ流せた。
 絵の船が動く。
 荒れた海の中を、
 右に舵を切り、
 左に舵を切り、
 また右に舵を切って、最後は海中に沈んでいった。
 そして暗雲の空の絵の箇所に文字が浮かび上がる。

 B1Fー13ーB2F

「何かの位置を示す暗号かなあ・・・。
 ま、とりあえずここで得られる情報はこんなものか。
 戻るわよフレイア。」
 ニャーオ

 酒場の外に出ると、先ほどの書類に出る時間を記帳。
「ジン、これもらっていくから。」
 とボロボロの料理本を1冊見せた。
 ジンは
「分かった。」
 とだけ言い、書面に追記。
 そしてケイトを見据えるや一言。
「妹の件は世話になった。
 礼を言う。」
「気にしなくていいわよ、仕事だったんだし。」
「追加の料金はいらんのか?」
「いらないいらない、気にしなくていいわよ。」
「・・・分かった。
 なら礼として情報を1つ与える。
 御庭番が動いている。」
「え?
 まさか、またフィルが?」
「いや、全身黒づくめの男だ。
 フィルとは全く異なる異質さを感じた。
 北区の旧倉庫にも行くなら、そいつと出会う事になると思う。
 敵対は無いだろうが、一応用心しておいた方がいい。」
「分かった、ありがとう。」

 少しの緊張感を抱きながら、北区の旧貿易倉庫へと向かっていった。
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