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【8】
「寝る前に、夜襲、復讐は必ずしなさい/弐の章」②
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「シェードの魔馬は普通の魔馬とは違う……かぁ~。乗ってみたいよなぁ~」
「そのためには私たち、もっと努力しなきゃなんないってことよね」
「ナウ。お前は乗ったことがあるからいいよなぁ。コイツらとは比較にならねえんだろ?」
またがっている軍魔馬の頭をなでながら、セカンドシェードの少年は、リーダーのナウントレイに声をかけた。
「ああ……まあ……でももう忘れたよ」
チョセコポアの街――
ルースを見つけ出すべくセカンドシェード達は三人ひと組となり手分けして、街全体をくまなく探していた。
ナウントレイは、シェードの少年ニックと、シェードの少女ロッサと共に捜索にあたっていた。
「しっかしゼスタフェさんはいつ見てもカッコいいよなぁ~」
「当然じゃない。俗に言う『絶対的エース』なんだから」
「エースかぁ。だからゼスタフェさんの魔馬は“ゼース”って名前なのか? “ゼーゼー”だの“ゼスゼス”だのじゃないところが憎らしいよなぁ~」
「“ゼーゼー”なんて聞くだけで息苦しくなっちゃうわよっ」
「とにかくゼスタフェさんは外見も中身も男前すぎだぜっ。俺たちセカンドにもファーストと同じように接してくれるしな。
本来なら、俺たちなんかそばに寄ることすらかなわない身分ある方だってゆうのにさ。
あ、でも、お前たち二人もそうだったっけなぁ~」
ナウントレイ=ギアと、ロッサ=ホワイト。
仲間でありながら自分とは違い上流階級の血筋であるこの二人を、ニックは横目で見て言った。
「よせよ、ニック。シェードの間ではそういうのはいっさい関係ないはずだろ? 実力だけが物を言う世界なんだから」
「それでも俺たち一般人からすれば、たとえ仲間でも貴族や資産家の出身者には多少なりとも引け目を感じてるもんなんだぜ?」
「バカげてるわ。王子のシェード達をごらんなさいよ。資産家の出身なのはドゥレンズィだけよ? ナウの言う通り私たちシェードに家柄なんて関係ないんだから。
ニック、つまらない事でひがんでぼやいてんじゃないわよっ」
「別にひがんでるワケじゃねえってば。今の今まで忘れてたくらいだしよ」
ロッサに手厳しく叱られ、ニックはばつが悪そうに口元をゆがめた。
「私がぼやきたいのはむしろ、ナウだってホントならゼスタフェさんみたくエースになってたはずなのにってところだわ」
ナウントレイをチラ見しながら、今度はロッサが不満をもらした。
ナウントレイはゼスタフェの弟子の一人であり、予備のシェードの中でもずば抜けて優れているため、セカンドシェードのリーダーを任されている。
実はこのナウントレイ、一時は第一王子のシェードに任命され、ギリザンジェロに直接仕えていた過去がある。
おそらく現、第一王子シェードのマキシリュ達よりも実力が勝っているであろうナウントレイは頭脳においてもトップクラスで、
ただひとつの欠点をのぞけば、シェードの資質は限りなくパーフェクトに近かった。
そんな優秀なナウントレイを第一王子のシェードからセカンドシェードに降格させた唯一の欠点とは……
それは、戦いにおいて必要な全ての能力を持ちながら、戦いにおいて何より重要な戦意が著しく欠けている点だった。
ナウントレイは子供の頃からひどく臆病で、貴族である彼の父は長男として家督を継承する息子の弱い精神を鍛えたい一心と、
王子のシェードになればギア家にとってこの上ない名誉になるという俗念、
その二つの思いから、まだ年端のいかない息子をシェード養成所に預けたのだ。
しかし、シェードの過酷な訓練を受けて育っても、ナウントレイの性格はまるで変わらなかった。
変わるどころか逆に、数多くの戦いを経験し傷ついた者たちを目の当たりにする度に士気が下がり、ますます戦いが嫌いになっていったのだ。
性格が臆病でさえなければ、才能はさる事ながら容姿も申し分のないナウントレイは、ロッサが言ったように第二のゼスタフェになり得る可能性は大いにあったのだが――
「無駄口たたいてる場合じゃないだろう? 二人とも、ここからは歩いて行くよ」
ナウントレイはロッサの視線から逃れるように素早く魔馬から下りると、広場の端に設置されてある杭に魔馬をつないで路地裏へと向かった。
「お、おいおいっ」「待ってよ、ナウッッ」
ニックとロッサ二人も慌てて下馬するや、魔馬を杭につなぎナウントレイの後を追う。
「なんだよ、この街は。路地がやたらと多いなぁ……」
広場の奥で何本も枝分かれしている、迷路のごとく入り組んだ数々の路地。
たくさんの店が軒を連ねている路地裏もあればひっそりしている路地裏もあり、店や家、人通りの多寡、広さや長さなどはさまざまだ。
「ルースより先に、ガアス=パラスって奴とはち合わせる可能性もあるよなぁ。気を付けて行こうぜ、ナウ」
「ナウ、怖くない? 大丈夫?」
ナウントレイの性格を知り尽くしているニックとロッサは、何かと気にかけ声をかける。
「……ありがとう。僕は大丈夫だから……
とりあえず、店を軒並みあたって行こう。特に奥まった裏路地に面した店が怪しいな」
「そーとーな数だぜ。ルースの奴、見つけたらぜってえ晩飯7日分おごらせてやるよ」
「ホント、軽率なんだから。気持ちは分からないでもないけどファーストの自覚あんのかしら。」
ロッサはサファイア、ルースに次いで有能な女子シェードだ。
ルースよりさらに気が強く負けず嫌いでプライドも高いため、ライバルであるサファイアやルースとは決して仲良くなろうとはしない。
そんなロッサは、自分の顔と髪には少しばかりの劣等感があった。
(ナウの髪、あんなに急いで出て来たってのにいつも通りサラッサラに輝いててキレイだな……)
目の前にある、ナウントレイの後ろ姿。
ロッサは彼のストレートな金髪に見とれていた。
ナウントレイの種はサルファーのイメージで、目と髪は噴気を従える硫黄のように鮮明なサルファーイエローだ。
ロッサは、うらやましかった。
特に直毛の髪は憧れだった。
ロッサの髪はフニャフニャしたクセ毛がところどころ浮いてまとまりがなく、湿気を帯びるとますます広がってしまう。
それが一番の悩みだった。
おまけに種のイメージはブラウンムーンストーンで、ライトブラウンの髪色には華やかさがなく、同世代の女子、サファイアやルースと比べ見おとりする事が二番目の悩みだった。
「男は暗い色の種でもそれがカッコ良かったりするけどさ。女の子はもっと明るい色の方がもてるのよね、きっと……」
そしてもうひとつ。三番目の悩みは、鼻にうっすらとあるそばかすだ。
目はパッチリと大きく長いまつ毛はカールしており、鼻や口も形良く整った可愛らしい顔立ちなのだが、
そばかすがそれら良い部分を台無しにしている……と、ロッサ本人は思いこんでいた。
「ひと昔前、そばかすなんて気にしないってヒロインが居たようだけど、私はやっぱり気になるのよね」
「なにブツブツ言ってんだよ、ロッサ。こっからどうなるか分からねんだぞ。もっと気を引き締めろよなっっ」
さっきとは反対だ。他ごとに気をとられ油断しているロッサをニックが叱ると、今度はロッサがばつが悪そうにして口を一文字に結んだ。
「……ルース。いったいどこに居るんだ……」
ナウントレイは、日が落ち、紺色の空が降りてきそうな街を見回しながら、もともと泣きそうな面差しをいっそう泣き顔にしてつぶやいた。
追う者、ルースと、追われる者、パラス。
そして、追いも追われもしないが、巻きぞえとなる者が必ずしも存在する。
ナウントレイ達三人が曲がった路地とは逆方向にある、裏路地の目立たない店。
その店で行われようとしている“報復”のカウントダウンは、すでに始まっていた。
「そのためには私たち、もっと努力しなきゃなんないってことよね」
「ナウ。お前は乗ったことがあるからいいよなぁ。コイツらとは比較にならねえんだろ?」
またがっている軍魔馬の頭をなでながら、セカンドシェードの少年は、リーダーのナウントレイに声をかけた。
「ああ……まあ……でももう忘れたよ」
チョセコポアの街――
ルースを見つけ出すべくセカンドシェード達は三人ひと組となり手分けして、街全体をくまなく探していた。
ナウントレイは、シェードの少年ニックと、シェードの少女ロッサと共に捜索にあたっていた。
「しっかしゼスタフェさんはいつ見てもカッコいいよなぁ~」
「当然じゃない。俗に言う『絶対的エース』なんだから」
「エースかぁ。だからゼスタフェさんの魔馬は“ゼース”って名前なのか? “ゼーゼー”だの“ゼスゼス”だのじゃないところが憎らしいよなぁ~」
「“ゼーゼー”なんて聞くだけで息苦しくなっちゃうわよっ」
「とにかくゼスタフェさんは外見も中身も男前すぎだぜっ。俺たちセカンドにもファーストと同じように接してくれるしな。
本来なら、俺たちなんかそばに寄ることすらかなわない身分ある方だってゆうのにさ。
あ、でも、お前たち二人もそうだったっけなぁ~」
ナウントレイ=ギアと、ロッサ=ホワイト。
仲間でありながら自分とは違い上流階級の血筋であるこの二人を、ニックは横目で見て言った。
「よせよ、ニック。シェードの間ではそういうのはいっさい関係ないはずだろ? 実力だけが物を言う世界なんだから」
「それでも俺たち一般人からすれば、たとえ仲間でも貴族や資産家の出身者には多少なりとも引け目を感じてるもんなんだぜ?」
「バカげてるわ。王子のシェード達をごらんなさいよ。資産家の出身なのはドゥレンズィだけよ? ナウの言う通り私たちシェードに家柄なんて関係ないんだから。
ニック、つまらない事でひがんでぼやいてんじゃないわよっ」
「別にひがんでるワケじゃねえってば。今の今まで忘れてたくらいだしよ」
ロッサに手厳しく叱られ、ニックはばつが悪そうに口元をゆがめた。
「私がぼやきたいのはむしろ、ナウだってホントならゼスタフェさんみたくエースになってたはずなのにってところだわ」
ナウントレイをチラ見しながら、今度はロッサが不満をもらした。
ナウントレイはゼスタフェの弟子の一人であり、予備のシェードの中でもずば抜けて優れているため、セカンドシェードのリーダーを任されている。
実はこのナウントレイ、一時は第一王子のシェードに任命され、ギリザンジェロに直接仕えていた過去がある。
おそらく現、第一王子シェードのマキシリュ達よりも実力が勝っているであろうナウントレイは頭脳においてもトップクラスで、
ただひとつの欠点をのぞけば、シェードの資質は限りなくパーフェクトに近かった。
そんな優秀なナウントレイを第一王子のシェードからセカンドシェードに降格させた唯一の欠点とは……
それは、戦いにおいて必要な全ての能力を持ちながら、戦いにおいて何より重要な戦意が著しく欠けている点だった。
ナウントレイは子供の頃からひどく臆病で、貴族である彼の父は長男として家督を継承する息子の弱い精神を鍛えたい一心と、
王子のシェードになればギア家にとってこの上ない名誉になるという俗念、
その二つの思いから、まだ年端のいかない息子をシェード養成所に預けたのだ。
しかし、シェードの過酷な訓練を受けて育っても、ナウントレイの性格はまるで変わらなかった。
変わるどころか逆に、数多くの戦いを経験し傷ついた者たちを目の当たりにする度に士気が下がり、ますます戦いが嫌いになっていったのだ。
性格が臆病でさえなければ、才能はさる事ながら容姿も申し分のないナウントレイは、ロッサが言ったように第二のゼスタフェになり得る可能性は大いにあったのだが――
「無駄口たたいてる場合じゃないだろう? 二人とも、ここからは歩いて行くよ」
ナウントレイはロッサの視線から逃れるように素早く魔馬から下りると、広場の端に設置されてある杭に魔馬をつないで路地裏へと向かった。
「お、おいおいっ」「待ってよ、ナウッッ」
ニックとロッサ二人も慌てて下馬するや、魔馬を杭につなぎナウントレイの後を追う。
「なんだよ、この街は。路地がやたらと多いなぁ……」
広場の奥で何本も枝分かれしている、迷路のごとく入り組んだ数々の路地。
たくさんの店が軒を連ねている路地裏もあればひっそりしている路地裏もあり、店や家、人通りの多寡、広さや長さなどはさまざまだ。
「ルースより先に、ガアス=パラスって奴とはち合わせる可能性もあるよなぁ。気を付けて行こうぜ、ナウ」
「ナウ、怖くない? 大丈夫?」
ナウントレイの性格を知り尽くしているニックとロッサは、何かと気にかけ声をかける。
「……ありがとう。僕は大丈夫だから……
とりあえず、店を軒並みあたって行こう。特に奥まった裏路地に面した店が怪しいな」
「そーとーな数だぜ。ルースの奴、見つけたらぜってえ晩飯7日分おごらせてやるよ」
「ホント、軽率なんだから。気持ちは分からないでもないけどファーストの自覚あんのかしら。」
ロッサはサファイア、ルースに次いで有能な女子シェードだ。
ルースよりさらに気が強く負けず嫌いでプライドも高いため、ライバルであるサファイアやルースとは決して仲良くなろうとはしない。
そんなロッサは、自分の顔と髪には少しばかりの劣等感があった。
(ナウの髪、あんなに急いで出て来たってのにいつも通りサラッサラに輝いててキレイだな……)
目の前にある、ナウントレイの後ろ姿。
ロッサは彼のストレートな金髪に見とれていた。
ナウントレイの種はサルファーのイメージで、目と髪は噴気を従える硫黄のように鮮明なサルファーイエローだ。
ロッサは、うらやましかった。
特に直毛の髪は憧れだった。
ロッサの髪はフニャフニャしたクセ毛がところどころ浮いてまとまりがなく、湿気を帯びるとますます広がってしまう。
それが一番の悩みだった。
おまけに種のイメージはブラウンムーンストーンで、ライトブラウンの髪色には華やかさがなく、同世代の女子、サファイアやルースと比べ見おとりする事が二番目の悩みだった。
「男は暗い色の種でもそれがカッコ良かったりするけどさ。女の子はもっと明るい色の方がもてるのよね、きっと……」
そしてもうひとつ。三番目の悩みは、鼻にうっすらとあるそばかすだ。
目はパッチリと大きく長いまつ毛はカールしており、鼻や口も形良く整った可愛らしい顔立ちなのだが、
そばかすがそれら良い部分を台無しにしている……と、ロッサ本人は思いこんでいた。
「ひと昔前、そばかすなんて気にしないってヒロインが居たようだけど、私はやっぱり気になるのよね」
「なにブツブツ言ってんだよ、ロッサ。こっからどうなるか分からねんだぞ。もっと気を引き締めろよなっっ」
さっきとは反対だ。他ごとに気をとられ油断しているロッサをニックが叱ると、今度はロッサがばつが悪そうにして口を一文字に結んだ。
「……ルース。いったいどこに居るんだ……」
ナウントレイは、日が落ち、紺色の空が降りてきそうな街を見回しながら、もともと泣きそうな面差しをいっそう泣き顔にしてつぶやいた。
追う者、ルースと、追われる者、パラス。
そして、追いも追われもしないが、巻きぞえとなる者が必ずしも存在する。
ナウントレイ達三人が曲がった路地とは逆方向にある、裏路地の目立たない店。
その店で行われようとしている“報復”のカウントダウンは、すでに始まっていた。
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