gnikaerb

祜ヰ

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枯れぬ者

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9月  双子の姉に間違われた。私よりも出来の良い姉に間違われるのは複雑で仕方がない。今日も劣等感が積もって、歩き始めた足がまた重くなる。

10月  ある日突然議員である父に呼ばれた。事務所に入ると先に姉が部屋の中に居た。私を見るなり笑顔で手を控えめに振った。会釈を返して姿を現した父に視線を移す。

11月  定期的に送られてきていた姉からの連絡が途絶えた。呆れられでもしたのだろうか、それならそれで私にとっては好都合だった。

12月  大学の友だちと遊んだ帰りに父の事務所に寄った、机の上に置かれた注射器を眺めていると、父は不自然なほど注射器を机にしまって私をすぐに家に返した。

1月  大学の教授から姉からの連絡が途絶えたと言われた。提出するレポートやテストも今までは完璧だったため、何かあったのではないかと聞かれた。そんな事を聞かれても知らないし、私は劣等感こそあれど、関心なんて無かった。

2月  父が私を再び事務所に呼んだ。注射器を見た日から不信感が拭えずに行くか悩んだが、特に深く考えずに父の元に行った。

3月  事務所の地下に機械に繋がれた姉が居た。父は世界を救う唯一の方法だと言う。父は通称と呼ばれた姉の前に膝を着き、私に言った。人類が欲動を取り戻すための鍵になる。

4月  私は姉になり、代わりに私の葬式が行われた。母は酷く泣き崩れ、日に日に目の下のクマと疲労を濃くして数日後に入院した。私は死んだ。

5月  私とよく遊んでいた友だちが教室で静かに座っていた。ここに居ると漏らしかけた言葉を飲み込む。対称的な性格の優等生な姉になるのはまだ時間が掛かりそう。

6月  生徒会にも馴染んで少しずつ友だちも元気を取り戻しつつある。自分の席に間違えて座りそうなこともなくなり始めた。少しだけ髪が伸びてきて邪魔になってきた。

7月  姉の部屋で本を見つけた。父の異変と計画の内容が殴り書きで書かれていた。姉の字とは思えないそれは途中で途切れていた。違和感が少しずつ大きくなってきた。それと頭痛も。

8月  計画通り地下室に呼ばれた。父に打たれた注射のせいか、体が鉛のように重く固くなった。視界だけが残った意識の中で、椅子から姉が立ち上がったのが見えた。
世界が光に包まれた。

9月  「は? おっかしー。これで3人目、君たち空気読んでよね」倒れた父と妹の隣で猫目の少女が不機嫌な顔で私を見上げていた。
「あっ、ぁぁぁぁ! どうして、どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして」
「妹が死んで壊れちゃったんだ、残念だけど僕にはどうしようもない。どうせ世界は終わるんだから、ちょっと我慢してれば済むわ」

10月  ガラクタでいっぱいの山にぼんやりとした赤い光が灯った。
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