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2章
3 とまどい3
しおりを挟む広く綺麗なリビングで、ルームサービスによって運ばれてきた夕食をつつきながら、これまた広いテーブル越しにシロウを見つめる。
いつの間にか眼は人間のそれに戻っていた。
「ここ数日はいろいろあって疲れただろう。今日はゆっくり出来た様でよかったよ。」
そう、疲れの出る顔で笑いかけられ、全く関係無い自分の為に、この人にも大きな迷惑と面倒をかけていることに思い至り、申し訳ない気持ちになる。
「どうして、俺に構うのですか?」
迷惑をかけていると思いそう口にしたが、上手く伝わった気がしない。
リアムは怪訝な顔を浮かべた。
「いや、あの、お互いよく知らない……から。その、この食事だって、生活、身の回り、返せるものが、こんな所にそう何日も泊まれる程の蓄えが俺には無いです。」
誠実な。そうリアムは思った。この部屋に連れ込んだ夜の相手は、みんな自分の金や顔やそういったものを見て、大いに喜び、我が物顔で当たり前のように甘やかされることを享受したものだ。
「何か返して欲しいわけではないよ。金銭を支払って貰うつもりも無い。君は俺の…」
そこまで言って、言い淀む。
いきなり、メイトと言われても、人狼を知らないシロウは理解が出来ないと思い至り、言葉を探す。
「ただ、君を知りたいと思ったんだ。目の前で倒れられたしね。乗りかかった船だよ。」
そう言って、ウインクをする。
「でも、生活費の一部くらいは支払った方が……」
この生活をどのくらい続けるのかわからなかったが、いくらリアムが半ば強制しているとはいえ、全てをリアムに負担して貰う謂れもなく、気が引ける。
「良いんだ。自分がしたくてしている。」
君は俺のメイトなのだから。そう、告げることはできないが、心の中で呟いた。
メイトを守るのは自分の役目だ。
リアムの心の中の狼がそう強く告げている。
「少しずつ、人狼になる訓練をしよう。さっき、眼が狼の目に変わっていたのは気づいていた?」
そう尋ねると、シロウはキョトンとした顔をした。どうやら、無意識だった様だ。
「ほら、こうやって意識して眼を変化させるんだ。」
そういうとリアムは眼を変化させる。
アイスブルーの虹彩が目をどんどん侵食し、白目の大半が青に広がる。
白黒の視界にシロウの驚きの表情が見えた。すっと眼を人間のものに戻す。
「あ……あの……」
困惑して、リアムを眺める。
今のは……どうなって……どうやって?自分もさっきあんな風になってたのか??
「すぐにできるようになるよ。ほら、意識して」
どうやって?
混乱するが、自分では理解出来なかった。
「わからない……です。どうしたら?」
「頭で考えないで。」
そういうとリアムは立ち上がり、シロウに近づいてくる。
また、甘くエキゾチックな香りが鼻をくすぐる。するとたちまち眼にじわっとした感覚が広がり、視界の色が消えてゆく。シロウは呆然と白黒の世界でリアムを眺めた。
恐ろしく顔の良い日本人ではありえない彫りの深い表情が、白黒で陰影が強調され、思わず、彫刻かよとボケたツッコミを心の中で入れていた。
意識したかと言われると無意識に変化が始まってしまい、じゃあどうしたら戻るかと考えてもこれまたわからなかった。
シロウの淡い茶色の虹彩が瞳いっぱいに広がっている。
じっと見つめられ、リアムの欲望を刺激する。リアムの瞳もいつの間にかまた、狼のものに変わっていた。
シロウの惚けた様な顔に手を添えるとゆっくりと口付をした。
嫌がる素振りを見せないことに、これ幸いと唇に舌を這わすとびくりと肩が揺れる。
そのまま強引に唇のあわいに舌をねじ込み、歯を舌で辿る。ゆっくりと舌を進めて、そろりとシロウの舌を突いた。されるまま拒まない様子に深く歯列をなぞり、奥の舌に舌を絡めて吸い上げるとシロウの口からくぐもった声が漏れる。
「ん……んぅ……」
シロウはされるがまま、リアムに舌を吸われ、小さな喘ぎを漏らす。
その喘ぎにリアムの身体はかっと熱くなり、一気に股間が張り詰める。シロウの頸に手を添え、より口付を深くした。シロウが息苦しそうにうめき、身をよじる。唇を離すと二人の間を細い銀糸が繋いだ。
ほぅっと惚けた表情をしているままの様子にリアムは欲情を一層煽られる。このまま組み敷いて、霰もなく乱れるシロウを見たい。
牙がぬっと伸びてきた。再度唇を近づけたとき、はっとしたシロウに胸を押し返される。
シロウの欲情の香りが強く漂う。
シロウのまだ狼の眼が大きく見開かれ、彼は慌てて、身体を離す。
一体、何が起こった?唇が近づいて……
気づいたら、淫らにキスをされていた。股間に湿りを感じ、身体の変化に心臓が早まる。
シロウは無意識のうちに身体を守る様に両腕を巻き付ける。
リアムはその恥じらいの様に、より一層欲望が高まると同時にこれ以上ことを進めるべきでは無いと頭の中で警鐘を鳴らす。
自分の感情の高まりにメイトであるシロウが引きづられているのだと思い、自身を落ち着けようと深呼吸をした。
眼がすっと人間のものに変わり、先に何かを言われる前に先手を打つ。
「眼を元に戻そう。意識してごらん。」
そういうとリアムは一歩シロウから離れる。手はさりげなく、シロウの肩に載せた。
その日は結局どう頑張っても眼を戻すことが出来なかったため、寝ている間に戻るかもしれないから、と白黒の視界のまま、ベッドに潜りこむことになった。
もし、寝ている間にシロウがまた狼に変身してしまっていないか、寝静まった頃合いを見計らい、シロウにあてがっている部屋を覗くと、すうすうと寝息を立てる姿があった。
ベッドに近づき、顔にかかる前髪をよけてやる。
無垢で美しい寝顔にリアムの欲望が刺激され、むくりと股間が立ち上がるのを感じる。
こんなにも身も心も奪われる相手は初めてだ。
誰かワンナイトの相手を探しに出るか。と考えるが起きたシロウが狼に変身していないとも限らないと思い、大人しく自室に戻った。
早いところ彼にもメイトを自覚して欲しい。そう思わずにいられない。
その夜、リアムはジュニアスクール時代以来に一人で自分のものを慰めることとなった。
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