狼の憂鬱 With Trouble

鉾田 ほこ

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11章

2嘘をつかれていたのか

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 嘘をつかれていたのか──。
 激しい動揺がシロウを襲い、パーティの真っ最中だというのに、周りの雑音が一切聞こえなくなる。
 
 そんなシロウから束の間、動揺と混乱、傷ついてる匂いが漂ったことに気づき、慌ててリアムは弁解した。
「シロウ、君と初めて会ったのはあの時、大学で会った時だ」
 リアムはシロウの肩に腕を回し、自分の方を向かせてまっすぐに瞳を覗き込む。アイスブルーの美しい目が射抜くようにシロウを見た。
 リアムの視線を正面から受け止める。
 その瞳には混乱はあるが、嘘はないと思う。その強い眼差しに深い愛情を感じて、シロウの心は少しだけ落ち着きを取り戻す。
 
 リアムの瞳を見つめ返し、「うん。信じよう──」と心の中で思ったが、あまりにも安易に信じすぎかという考えが一瞬だけ頭によぎる。だが、惚れた弱みなのだろうか、「どちらだろうと気にしない」、シロウにはそう思えた。
 
「リアム、お前最近ロスのペントハウスに可愛い男の子を囲っているらしいじゃないか?」
 向き合う二人の横から軽い口調でノエルが口を挟む。
 リアムはノエルがいきなり何を言い出したのかと驚き、慌てて抗議の声を上げた。
「はぁ?!なんだって?」

(やめろ!それ以上何も言うな!!)
 リアムは心の中でノエルに叫ぶ。

「こっちの会社で噂になってるよ。男も女もとっかえひっかえしてた遊び人のリアムが今は一人を部屋に住まわせて、えらくご執心だって……」
 そこまで言ってノエルは見つめあっているように向かい合うシロウとリアムを交互に見る。
「というか……二人は知り合いなのか?」
「あぁ……」
「どういうことだよ?……まさかお前、シロウに手を出したんじゃないだろうな?」
 リアムの返事に被せるように詰問する。
 自分のメイトのことに部外者から口出しをされたうえ、謂れのない遊びの関係のような言いっぷりにリアムは一気に頭へ血が上った。

 リアムの目の前で自分を見つめていたシロウも今は顔を真っ赤にして俯いている。
シロウは周りからそのように思われていたことを知り、それを義理の兄となる人から指摘されたことが恥ずかしく、この場から逃げ出したくなった。
 
 リアムはシロウがメイトであることを隠しているわけでも、隠したいわけでもない。
 まして、遊びで手を出しているなどという軽い関係ではない。何も後ろ暗いことはないのだ。
リアムは気を落ち着かせて、シロウの肩に腕を回し、抱き寄せる。シロウがまとう混乱の空気も少しだけ和らいだ気がした。
 
 シロウの心の準備が整ったら、メイトであることを公表し、盛大にパーティでも開こうと考えていた。
 だが、それにはまだ早いとも思っていた。シロウは人狼のコミュニティについてあまりにも無知だ。今まで人狼がこの世に存在することすら知らなかった。群れのあれこれに巻き込むのはもう少しシロウが落ち着いて状況を受け入れたらと考えていたのに。
 今回、ここに連れてきたのだって、群れの集まりに少しずつ顔を出させて慣れさせようとそんな考えからだった。
 その矢先に──。
 
 何か二人の絆は面倒事の星の元にあるのではないかと疑いたくなるほど、次々に状況を引っ掻き回す厄介事が舞い込んでくる。
 
 ノエルとシロウが知り合いだなどとどうしたら想像がつくというのか……。
 
──ありえない。
 そう、普通ならあり得ないだろう。
 人はあまりにあり得ないことだと考えるとその可能性に目を向けない。だが、この世に絶対なんてものはないのだ。
 よくよく考えてみたらわかることでもあった。
 年若いシロウが学生としてではなく、研究者として、レナートの研究グループに入って来る予定だというのだ。誰かの推薦か縁故でもなければ、相当優秀な研究者でない限り難しい。
 リアムも何か強力な推薦があってのことだとは思っていた。
 
 では、誰が世話をしたのか──。
 レナートの知り合いだ。
 だが、それがこのノエルだとは誰が想像できるというのか。
 一難去ってまた一難。
 なんだってこう、次から次へと状況がややこしくなるのか。
 
 なんとも頭の痛い──。
 リアムはシロウを連れてこの場を去り、さっさと部屋に引き上げたいと思った。

 
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