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15章
4 寝るの意味について
夕方にメッセージを受け取ったとき、今日は寝ずにリアムを待とうとシロウは決めていた。
それこそ何時に帰ってくるかわからない。途中で寝てしまったら……、睡魔になかなか抗えない自分の意志の弱さを恨む。苦手なブラックコーヒーを飲んでみたり、夕飯を少なくしてみたりとささやかな対抗策を取ってみた。だが、それもどこまで効果があるものか、甚だ疑問だった。
風呂にも入って寝巻姿になったあとで、これは寝る気になってしまうのでは?と手近にあったTシャツを着なおす。
自分の寝室に入ってしまえば、手持ち無沙汰に本を読み、そのまま寝てしまいそうで、失礼かとは思ったが、リアムの寝室で待つことにしたのだ。これなら万が一寝てしまっても、リアムが帰って来たら、起きられるかもしれない……と。
部屋に入るくらいで怒られたりはしないと思う。先週はほぼ毎日リアムの寝室で寝起きをしていた。そんな言い訳を自分にして、廊下の突き当りにある、マスターベッドルームの扉をそっと開く。
部屋の中は暗いが、カーテンの開いた広い窓から、ロサンゼルスの摩天楼のあかりが入り込み、家具に薄く影を作る。主人のいない部屋に勝手に入る後ろめたさ半分、扉を開けた瞬間に漂ってきた主の残り香に安らぎを感じる気持ち半分だった。
最初は緊張して、部屋の中を無駄にうろうろとソファに座ったり、ベッドに腰掛けたり、本棚の本を触ったりしていた。
部屋の時計が十二時をさした頃、今度は「今日は帰ってこないのではないか」という疑問が頭に浮かび、ベッドの端に腰をかけてなんとなしに携帯を眺める。待ち受け画面はなにも表示されていない。やがて暗くなった画面にはしょぼくれた自分の顔が映っていた。
手から滑り落ちた携帯が出した、ごとりという音にハッと意識を戻した。
(はぁ……寝そうになった……)
床に落ちた携帯を拾い上げて、画面を見ると待ち受け画面が十二時二十分を表示していた。
(なんて思うだろう……なんて言われるだろう……)
まだ帰らぬ相手のことを考えながら、コーヒーか紅茶でも飲もうかと思った時、かちゃっという音が聞こえた気がした。
耳を集中させると、廊下を歩く足音が聞こえてくる。心臓がだんだんと騒ぎ始めた。
(帰ってきた……どうしよう)
ここまできて、シロウは臆病風に吹かれる。
だが、この部屋から自分の部屋に戻るにしても、その間でリアムと鉢合わせることは明白で、もうどうしようもない。
ベッドから立ち上がろうとするより前に部屋の扉があいて、リアムが入ってくる。
あからさまに値段の張りそうな上等なスーツ姿で、首元を緩めたリアムは左手にジャケットを持って、驚いた顔をして、こちらを見ている。
疲れた顔をしているが、くたびれたようには全く見えない。仕事着に身を包むリアムを初めて見た。ぴったりと身体を包み込む白いワイシャツが厚い胸板と広い肩幅を強調している。ネクタイを緩めた首回りすらセクシーさを際立てるアクセントにしかならない。
(色気……の暴力)
部屋の中に微かに残っていたリアムの魅力的でスパイシーな香りは扉を開けた瞬間から一段と強く叩きつけるように部屋を満たす。
シロウは自分の体温が上がるのを感じた。
会話もそこそこに リアムはシャワーを浴びにバスルームへと行ってしまった。
『今日は一緒に寝よう』その言葉をシロウは何度も頭の中で反芻して、その意味を考えた。
「sleep with」を直訳するなら、「一緒に寝る」だ。だが、シロウとリアムの関係性で言うなら、本当にただ「寝るだけ」と言い切れるのか、それとも……。
起きて待っていることは「寝る」に含まれた性的なニュアンスを肯定することになるのだろうか。いっそのこと、寝たふりをしてやり過ごそうという考えが頭をよぎる。
(やりすごしたいのか……?)
起きて帰りを待っていた理由は「ただ顔を見たい」とそれだけだったはずだった。
だが……。会えたうれしさはシロウが思っている以上に胸を躍らせている。
起きて、このあとの成り行きに任せるべきか。薄暗いベッドルームでシロウは一人頭を悩ませていると、心做しか、部屋続きのシャワールームから聞こえてくる水音すら生々しく感じられた。
(寝室まで来ておいて、なにかまととぶってんだ)
頭の片隅の冷静な自分が、弱気な自分を詰ってくる。シロウだって少しは期待していたのではないか。起きて待っていれば、リアムに触れてもらえると。
(そんなこと……)
これっぽっちも考えていなかったか、と言われれば嘘になる。連日触れ合っていた日々から、まったく触れ合わないどころか、顔すら合わせなくなった。寂しいと感じる気持ちは誰にも責められるものではない。
ベッドの端に腰かけたまま、リアムがバスルームから出てくるのをそわそわと落ち着きなく待った。
それこそ何時に帰ってくるかわからない。途中で寝てしまったら……、睡魔になかなか抗えない自分の意志の弱さを恨む。苦手なブラックコーヒーを飲んでみたり、夕飯を少なくしてみたりとささやかな対抗策を取ってみた。だが、それもどこまで効果があるものか、甚だ疑問だった。
風呂にも入って寝巻姿になったあとで、これは寝る気になってしまうのでは?と手近にあったTシャツを着なおす。
自分の寝室に入ってしまえば、手持ち無沙汰に本を読み、そのまま寝てしまいそうで、失礼かとは思ったが、リアムの寝室で待つことにしたのだ。これなら万が一寝てしまっても、リアムが帰って来たら、起きられるかもしれない……と。
部屋に入るくらいで怒られたりはしないと思う。先週はほぼ毎日リアムの寝室で寝起きをしていた。そんな言い訳を自分にして、廊下の突き当りにある、マスターベッドルームの扉をそっと開く。
部屋の中は暗いが、カーテンの開いた広い窓から、ロサンゼルスの摩天楼のあかりが入り込み、家具に薄く影を作る。主人のいない部屋に勝手に入る後ろめたさ半分、扉を開けた瞬間に漂ってきた主の残り香に安らぎを感じる気持ち半分だった。
最初は緊張して、部屋の中を無駄にうろうろとソファに座ったり、ベッドに腰掛けたり、本棚の本を触ったりしていた。
部屋の時計が十二時をさした頃、今度は「今日は帰ってこないのではないか」という疑問が頭に浮かび、ベッドの端に腰をかけてなんとなしに携帯を眺める。待ち受け画面はなにも表示されていない。やがて暗くなった画面にはしょぼくれた自分の顔が映っていた。
手から滑り落ちた携帯が出した、ごとりという音にハッと意識を戻した。
(はぁ……寝そうになった……)
床に落ちた携帯を拾い上げて、画面を見ると待ち受け画面が十二時二十分を表示していた。
(なんて思うだろう……なんて言われるだろう……)
まだ帰らぬ相手のことを考えながら、コーヒーか紅茶でも飲もうかと思った時、かちゃっという音が聞こえた気がした。
耳を集中させると、廊下を歩く足音が聞こえてくる。心臓がだんだんと騒ぎ始めた。
(帰ってきた……どうしよう)
ここまできて、シロウは臆病風に吹かれる。
だが、この部屋から自分の部屋に戻るにしても、その間でリアムと鉢合わせることは明白で、もうどうしようもない。
ベッドから立ち上がろうとするより前に部屋の扉があいて、リアムが入ってくる。
あからさまに値段の張りそうな上等なスーツ姿で、首元を緩めたリアムは左手にジャケットを持って、驚いた顔をして、こちらを見ている。
疲れた顔をしているが、くたびれたようには全く見えない。仕事着に身を包むリアムを初めて見た。ぴったりと身体を包み込む白いワイシャツが厚い胸板と広い肩幅を強調している。ネクタイを緩めた首回りすらセクシーさを際立てるアクセントにしかならない。
(色気……の暴力)
部屋の中に微かに残っていたリアムの魅力的でスパイシーな香りは扉を開けた瞬間から一段と強く叩きつけるように部屋を満たす。
シロウは自分の体温が上がるのを感じた。
会話もそこそこに リアムはシャワーを浴びにバスルームへと行ってしまった。
『今日は一緒に寝よう』その言葉をシロウは何度も頭の中で反芻して、その意味を考えた。
「sleep with」を直訳するなら、「一緒に寝る」だ。だが、シロウとリアムの関係性で言うなら、本当にただ「寝るだけ」と言い切れるのか、それとも……。
起きて待っていることは「寝る」に含まれた性的なニュアンスを肯定することになるのだろうか。いっそのこと、寝たふりをしてやり過ごそうという考えが頭をよぎる。
(やりすごしたいのか……?)
起きて帰りを待っていた理由は「ただ顔を見たい」とそれだけだったはずだった。
だが……。会えたうれしさはシロウが思っている以上に胸を躍らせている。
起きて、このあとの成り行きに任せるべきか。薄暗いベッドルームでシロウは一人頭を悩ませていると、心做しか、部屋続きのシャワールームから聞こえてくる水音すら生々しく感じられた。
(寝室まで来ておいて、なにかまととぶってんだ)
頭の片隅の冷静な自分が、弱気な自分を詰ってくる。シロウだって少しは期待していたのではないか。起きて待っていれば、リアムに触れてもらえると。
(そんなこと……)
これっぽっちも考えていなかったか、と言われれば嘘になる。連日触れ合っていた日々から、まったく触れ合わないどころか、顔すら合わせなくなった。寂しいと感じる気持ちは誰にも責められるものではない。
ベッドの端に腰かけたまま、リアムがバスルームから出てくるのをそわそわと落ち着きなく待った。
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