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八話 似た者同士
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ユーリットが研究室を訪れるようになって半年ほど経った頃。流石のアルーシャも、この子供に国で一番高貴な血が流れていることを承知していた。
けれど、それでも別に構うことはなかった。その頃のアルーシャにとって大切なのは研究で、論文で、興味に没頭できること。王宮の隅の小さな研究室で好きなことだけをできるなら、その外の世界など栄えようと消えようとどうでもよかった。
ああ少なくとも、あのときまでは。
♯♯
ある朝、いつものように出勤すると、アルーシャの研究室に小さな子供が踞って寝ていた。
着のみ着のまま、目に涙の跡すら浮かべて床に眠る王族の姿は、浮世離れしたアルーシャにも異様だとわかる。
放っておくわけにもいかず、アルーシャは声をかける。
『………あの、あの。大丈夫? ですか?』
何度か肩を揺さぶると、ユーリットの真っ黒な瞳がパッチリと開いた。途端、アルーシャを見て正気になったようにガバリと起き上がる。
『………あ。ごめん………じゃま?』
『え………いや』
素早く答えられず会話につまるアルーシャを、言いにくそうにしてるととったユーリットは、立ち上がった。
『だよね………もう出ていくから』
そのまま立ち去ろうとしたユーリット。その腕を、アルーシャは咄嗟にパチリと捕まえてしまった。
『きみ……きみはさ、こんなところへ来て楽しいの……?』
そのまま、このところずっと考えていた疑問を口にしていた。
けれどそこまで尋ねて、いや違う、と言い直す。
『僕はじゃまとは思ってない。けれど、来ることが不思議だとはずっと思っている』
僕は口下手だし、研究は楽しいけど6、7歳の子が面白がるような内容じゃない。王族の、他に何でも楽しいことがありそうな彼が、どうしてこんなちっぽけな部屋に来たんだろう。
そういう疑問に、彼はあっけらかんと答える。
『──楽しいよ。ここは静かで、器具や本を眺めてるだけで気が紛れる』
その回答を聞いて、アルーシャはぼんやりとこの子も自分と同じなのかもしれないと思った。
『──そっか。じゃあ、きみは僕の弟子になればいいよ』
気づいたらそう口にしていた。まんまるく見開かれた目がこちらを向く。
『………え?』
『だってきみが僕の弟子になれば、ここはきみの部屋にもなるよ』
そう言って柔らかく笑うアルーシャを見て、ユーリットは胸がじわりと温かくなっていくのを感じる。
それが彼の初恋だと自覚するのは、まだまだ先の話である。
けれど、それでも別に構うことはなかった。その頃のアルーシャにとって大切なのは研究で、論文で、興味に没頭できること。王宮の隅の小さな研究室で好きなことだけをできるなら、その外の世界など栄えようと消えようとどうでもよかった。
ああ少なくとも、あのときまでは。
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ある朝、いつものように出勤すると、アルーシャの研究室に小さな子供が踞って寝ていた。
着のみ着のまま、目に涙の跡すら浮かべて床に眠る王族の姿は、浮世離れしたアルーシャにも異様だとわかる。
放っておくわけにもいかず、アルーシャは声をかける。
『………あの、あの。大丈夫? ですか?』
何度か肩を揺さぶると、ユーリットの真っ黒な瞳がパッチリと開いた。途端、アルーシャを見て正気になったようにガバリと起き上がる。
『………あ。ごめん………じゃま?』
『え………いや』
素早く答えられず会話につまるアルーシャを、言いにくそうにしてるととったユーリットは、立ち上がった。
『だよね………もう出ていくから』
そのまま立ち去ろうとしたユーリット。その腕を、アルーシャは咄嗟にパチリと捕まえてしまった。
『きみ……きみはさ、こんなところへ来て楽しいの……?』
そのまま、このところずっと考えていた疑問を口にしていた。
けれどそこまで尋ねて、いや違う、と言い直す。
『僕はじゃまとは思ってない。けれど、来ることが不思議だとはずっと思っている』
僕は口下手だし、研究は楽しいけど6、7歳の子が面白がるような内容じゃない。王族の、他に何でも楽しいことがありそうな彼が、どうしてこんなちっぽけな部屋に来たんだろう。
そういう疑問に、彼はあっけらかんと答える。
『──楽しいよ。ここは静かで、器具や本を眺めてるだけで気が紛れる』
その回答を聞いて、アルーシャはぼんやりとこの子も自分と同じなのかもしれないと思った。
『──そっか。じゃあ、きみは僕の弟子になればいいよ』
気づいたらそう口にしていた。まんまるく見開かれた目がこちらを向く。
『………え?』
『だってきみが僕の弟子になれば、ここはきみの部屋にもなるよ』
そう言って柔らかく笑うアルーシャを見て、ユーリットは胸がじわりと温かくなっていくのを感じる。
それが彼の初恋だと自覚するのは、まだまだ先の話である。
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