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六話 おでかけ
しおりを挟む「ユーリット。研究で使うための塩はまだある?」
「ありませんね。備蓄用のものも、ちょうど切らしてるみたいです」
「そっか」
くるっ、とアルーシャは机に向かっていた椅子ごと振り返る。
「じゃあ、ちょうどいいや。一緒に買いに行こうか」
「………はい?」
♯♯
「………必要なものを言い付けてくれれば、僕だけで買ってこれるのに……」
「それじゃあつまらないでしょ。ちょうど、行きたいカフェもあったんだ」
「おひとりで行けばいいでしょう」
「ユーリットと行きたかったんだってば」
「……………そうですか」
二人仲良く並び、街を歩く。二人で出かけることは珍しくなかった。研究者らしく珍しいものが好きなアルーシャは、昔からなにかと変な噂を聞き付けてはユーリットを街へ連れ出した。おかげでユーリットは王族にもかかわらず、街歩きもお手のものだ。
「あっ、みてみて! あそこ、星のかたち!」
「あの人が食べてるもの、おいしそう。なんだろ」
「ユーリット、来て来て! 何か人が集まってるよ!」
「……先生!!」
好きにアルーシャが歩いていると、十分ほどでユーリットがキレた。
「まっすぐ前を見て歩いてください! フラフラしない、勝手にどっか行かない!!」
「えー、でも……」
「でもじゃありませんよ! 今だけで何回、人にぶつかりかけました!?」
「でも、ぶつかってないよ」
「僕が手を引いたからです!」
もうっ、とユーリットは膨れっ面になる。
「……ごめんね。でも、街は面白いものがいっぱいで………」
「街はいつもそうですよ。はあ………しょうがないなあ」
そう言って、ユーリットはアルーシャの手をとった。
「ほら、手を繋いでおけば勝手にどこか行けないでしょ。これから街を歩くときはこうしてもらいます」
「えっ………」
一方、きゅっと手を握られてそう言われたアルーシャは、ちょっと顔を赤くする。
「こ、これはちょっと…………恥ずかしいよ」
オロオロと目をそらすアルーシャ。これは珍しい、とユーリットは思う。
「大丈夫です。子供はよく手を繋いでますから」
「………僕、いちおう君より年上なんだけどなあ」
「じゃ、僕の面倒を見ると思ってください。さあ行きますよ」
「えぇ…………あ、待って!」
ユーリットに手を引かれて、街を歩く。
最初は恥ずかしいと思ったけれど、歩いてるうちにだんだん気にならなくなっていった。
最近になって背の伸びたユーリットは、速い歩調をアルーシャに合わせてゆったりと歩く。手から伝わってくる熱はジンワリあったかくて、顔も幾分かいつもより近く感じる。
その言い表せないような心地よさは、歩く時間ごとに増していって。さらに、目的地について手を離したときには、思わずこう考えてしまった。
(…………もっと繋いでいたかったなあ)
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