ラブレター

shoichi

文字の大きさ
2 / 121
消えた煙

レッドアイ

しおりを挟む
am.00:28

「お飲み物は、お決まりですか?」

首を締め付けていたネクタイを緩め、重たそうなスーツを脱ぎながら、一人の男性が、

「初めは、やはりビールですかね?」

と、同じような行動をしていた男性に、問掛ける。

そうだな。と、答えが返ってくると、

「じゃ、ビールで。」

声を出すのも面倒臭くて、僕に返事をした男性に、ピースをしてみる。

あっ、うん。と言ったのを確認して、かしこまりました。と、軽快に、お決まりの言葉を言う。

冷えたサワーグラスを、右手で二つ掴み、一つ目を、サーバーにセットする。
 
グラスを斜めにして、ビールを注ぐのだが、意外にも、これが難しい作業。

泡が三、ビールが七の割合が、一番ベスト。と、周りの人々は、口々に言う。

しかし、慣れたもので、サーバーが不調を訴えない限り、一分も待たすことなく、ビールを作り上げる。

「ごゆっくり、どうぞ。」

と、何度、同じ台詞を言っただろうか?なんて、考えることは無く、カウンターから、裏の方へ逃げこむ。

煙草に火をつけ、ニコチンを、体の隅々に染み込ませる。

「ゆうちゃん。」

六十歳くらいの、女経営者が、僕に話しかけてきた。
 
六十歳と言っても、見た目は、年よりかは若く見えるが、考えが古く、一人で黙々と話す。

「今、お客は何人?」
「今日の売り上げは?」
「明日の発注は?」

全ての問掛けに、相槌を打つ。

「今は、一組二人。」
「今日は、厳しいですね。」
「発注は、後でしますよ。」

いつも、裏で吸うタバコよりも、お金のことしか頭に無い経営者の方が、煙たい。

小さな灰皿に、煙草を押し付けたと同時に、

「スイマセーン。」

先程の、お客からの呼びだし。
 
はーい。と告げ、注文を、再度伺(うかが)う。

「ビール、もう一杯。」

「お二つで?」

と、聞いてみると、一度、はい。と、言ったのだが、

「一つは、レッドアイで。」

と、毎回、出遅れて言葉を発する男性。

レッドアイとは、僕が働いている店では、ビールに、トマトJを足すだけ。と言う、簡単な飲み物。

サワーグラスの中は、トマトの色で埋められているが、泡がたっているからか、少し奇妙にも思える。

レッドアイ…か。

少し前のことを思い出し、苦笑いしている自分がいることに、気が付いた。 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

堅物御曹司は真面目女子に秘密の恋をしている

花野未季
恋愛
真面目女子が、やはり真面目で堅物な御曹司と知り合う純愛もの。 サラッと読める短編です♪

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

曖昧な距離で愛している

山田森湖
恋愛
結婚4年目のアラサー夫婦、拓海と美咲。仲は悪くないが、ときめきは薄れ、日常は「作業」になっていた。夫には可愛い後輩が現れ、妻は昔の恋人と再会する。揺れる心、すれ違う想い。「恋人に戻りたい」――そう願った二人が辿り着いた答えは、意外なものだった。曖昧で、程よい距離。それが、私たちの愛の形。

処理中です...