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shoichi

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ミッシングユー

酒のせいにしてみたり

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何故か、家族全員と居酒屋に来た。

久しぶりに家族揃って、焼き鳥なんかを食べる。

親父と酒を飲み、妹と、あの従業員が格好良い。みたいな話をする。

帰りの車は、母が運転する。

決まり事に厳しい親だから、母は酒を飲まなかった。

帰りの車の中で流れた音楽は、あの映画のシーンで流れた歌だった。

結婚式の時に、主役がヒロインを奪い去る、物語りのやつ。

親父が酔っていて、うるさい。

家の近くになった所で、

「ごめん。降ろして。」

と、母に告げる。

飲んでいた際に、あいとメールをしていた。
 
夜の公園で、先に待っていてくれたあいに、近寄る。

「よっ。」

「飲んだの?」

「少し。」

あいを見ると、

「ねぇ。キスしよう?」

と、言っていた。

いつもの、え~。の返事。

冗談か、本気なのか自分にも分からないが、酒のせいか、素の自分をさらけ出していた。

「嫌ならいい。」

駆け引き。と言われたら、それで終わりなのだが、それが僕の甘え方。

少し、そっぽを向いて言うと、あいが口を開く。

「嫌じゃないけど…。」
 
困った顔をするあいだったが、ぽー。とした頭は、それも無視して、次々と言葉を吐いていく。

「なら、しようよ。」

柔らかい風が通り過ぎた後に、いいよ。と耳の奥へ、言葉が木霊する。

「目を閉じて。」

再び、え~。と言うあいと、目と目が合うと、あいは、静かに目を閉じた。

それを見ていた僕じゃない僕が、あいの両肩に腕を乗せ、体と体が寄り添った。

ほんの数秒だけ、冷たい風に、自分の名前を呼ばれた。

臆病者が、じわじわと足音を、忍ばせて来る。
 
そいつが、戻ってくる前に。と、目を瞑ったあいの髪に触れ、うつ向いた顔に、唇を近付けた。

「あい…。」

名前を呼んだ声も、誰にも聞かれないように、君だけに聞こえるように、小さな声で呟いた。

頭の中では、言葉の変わりに、今日の帰りの車で聞いた、歌が流れていた。


あいと…


初めてのキスをした。


ずっと、鈴虫が照れた顔で、僕らを見つめていた、夜の公園。 
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