ラブレター

shoichi

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笑顔の後

ねぇ、聞いて…

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「ぼぐゎ゙、み、み゙んな゙と…」

卒業式が終わり、最後の挨拶を、一人一人していた。

皆、不細工だなぁ。なんて、僕も不細工になってしまった、一人なのだが。

そして、高校生活最後に、仲の良い友人達と、浴びるほど酒を飲み、夜を明かした。

嘔吐する奴、笑い続ける奴、泣き上戸(じょうご)、説教しだす奴、寝る奴。

僕は、一番早くに眠った奴だが。

『卒業、おめでとう!!』

私服の高校だったため、卒業式は、スーツを着こなした。

あいに、見せたかったのだが、その願いが叶わないのも、仕方無かった。

『ありがと。』
 
就職先は、決まっていた。

大手会社の、下請の会社。

何かに焦っていた僕は、勝手に就職を決めて、自立しようとした思いを、親に猛反対された。

本当は、あいと一緒に暮らす為と結婚したい思いで、自分勝手に焦っていたことを、子供のようだね。と否定されたように感じ、気持ちを整理できないでいた。

何かから逃げたくて、僕は家を出る計画を立てた。

『マジ、ムカつく!!最後に、会おう!!』

季節外れの雪が、まだ、散らついていた夜。

あいが、夜中に、車を出してくれた。

「どうしたの?」

本当に心配してくれている、あいだったのだが、

「家出する。」

僕は、自分のことで精一杯だった。

「あのさ、教会に連れて行って。」

宗教上。とか言いつつ、年を重ねるに連れ、深く信仰しなくなった僕の、都合の良い、神頼み。
 
教会の外で笑っている、聖なる母。

教会の近くで車を降り、ちょっと、待ってて。と、あいに呟いた。

積もる程ではないが、僕の足跡を、降り続く粉雪が、消していく。

像の前で祈りを掲(かか)げ、沢山の願いを、片膝を地面に着け、その片膝へ片肘を乗せ、両手を強く握り締めて心で…。

流れ星の時と同じようなことを、願ってる自分が、あの時から、何も成長していないな。と、一人で情けなくなった。
 
「終わったの?」

車に戻り、親友の家へ、走ってもらった。

「頑張ってね。」

何故か、走る車の中、あいの他人事のような言葉に、悲しさが生まれ、形ある物…全てに、イライラしていた。

小さな窓越しから、街のイルミネーションを、ただ、僕は見つめていた。

「あっ、ここ。ありがと。ゴメンね。気を付けて、帰ってね。」

正直、もっと、何かを言ってほしかったけれど、

「うん。メールするね?」

その言葉が、欲しい訳じゃないけれど…。

今の自分に力がなくて、未来が怖くて、何かから逃げたくて…。

僕は、一人、旅に出た。 
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