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shoichi

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僕の隣で笑う人

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『今から、ドライブしよう?』

頭が悪い僕だけど、運転免許証を無事に取れた。

『今から?』

こんな無器用な気持ちに、小さなメッセージに、早く気付いてほしいな。

『どうしても、行きたい。』

この我が儘、あいだけの物だ。ってこと。

『分かった。』

まだ、少し肌寒い、春先の夜だった。

初めての運転だから、あいを一番最初に乗せたくて、車のキーを握り締め、家の玄関を急ぎ足で、その運転席に座った。

久しぶりの運転に、少しの戸惑いがあったけれど、アクセルを踏み、ゆっくり進み始めた車と、慌ててつけらた音楽と。
 
いつも、歩いて来ていた、あいの家の前。

気付けば、二分もかからない内に、着いていた。

『着いたよ。』

顔文字なんかを、入れるほど…。

会えることに、いつも愛しさを感じているから。

『待ってて。』

その返事を見て、シートを倒し、横になり、先程つけた、英語の音楽を聞いていた。

トントン…。

と、ノックされ、開いた助手席。

「よう。久しぶり。」

「久しぶり。」

可愛い笑顔の持ち主の、僕の彼女。

あいが、ドアを閉めると同時に、倒していたシートを、元に戻した。

「初めて乗せる人、決めてたから。」
 
この言葉に、その笑顔は、僕の気持ちは届いている。と思っていいのかな?

「よし。どこか、行こう!!」

うん。の返事に合わせ、再び、踏み込んだアクセル。

「あっ。シートベルトは、してくださーい。」

はーい。の返事にも、恋をしてしまう僕だけど、まだ、隣を見れる余裕すらなかった。

楽しく弾む会話と、自分の運転に酔いしれてしまい、見慣れた景色を通り越し、見知らぬ土地へ、車を飛ばした。

「迷ってしまったか?」

同じ所を、グルグル回っていることに気付いた時、少し心に余裕が無くなっていた。
 
だけど、それも笑ってくれる、あいだったけれど、

「危ない…。」

ダサいところを見せたくなくて、道を探すのに精一杯だった。

遠くから聞こえるクラクションも、耳に入っていなかった。

「危ないってば!!」

慌てて踏まれたブレーキと、目の前で、キキッー!!と、止まった大型トラック。

何事もなく、また、進み始めた、目の前の車。

「…もう。あい、まだ、死にたくないよ!!」

その帰り道、僕の隣りで笑ってくれていた、あい。

このまま、時を止めて、あいの全てを奪い去りたい。と思った。

そんな、僕の小さな願い。 
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