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缶コーヒー
君に涙
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気が付けば、窓の外は白くなっていた。
助手席に座るあいと、車の中で話をしていた。
路上の隅っこに隠れ、ハザードは点けないまま、
「もうすぐ、この街とも、お別れだな。」
少しの寂しさを交えながら。
「頑張ってね。」
うん。としか言えないまま、曇ったサイド硝子に、あい。と書いていた。
自分で決めたことだから、あいの言葉は正しいことなのだろうが、行かないで。寂しいな。そんな、言葉を期待していた自分。
「別れよう。」
いつも、自分の弱さに負け、嫌われてサヨナラしたり、距離のせいにしたりしたくなくて、心と反対の言葉達が零れてしまう。
「…嫌。」
困らせたい訳でもなく、当たり前のように、嫌いになったり、好きな人ができた訳でもないけれど。
次の言葉が見つからなくて、長い沈黙が包み込んだ後、
「なんで」
「あのさ」
涙目をしたあいと、僕の言葉が重なった。
「あのさ、幸せのまま、終わりたいんだ。」
きっと、それは僕の、ただの小さな我が儘だ。と、言った後に気付いた。
「…嫌だよ。絶対、ゆうくんといるから。」
「一緒に行こうよ。付いてきてよ。」
答えは、知っていたけど、言葉だけでも、今は欲しかった。
「無理だよ。それくらい、分かってるでしょ?」
教科書に書いてあるくらいの返事に、僕は答え合わせをしたくなかった。
「じゃ、俺が浮気したら?」
「奪いにいくよ?」
自分も必死な形相で、あいに聞いていたけれど、あいも必死なのが伝わる。
「喧嘩して、連絡取れなかったら?」
「会いに行く。」
「あいを嫌いになったら?」
「また、好きになってもらうもん。」
全速力で走った後のように、漏れる息が聞こえるようだった。
「なんで…。」
見えない明日に、歯がゆい毎日に、戻ってこない昨日に、僕は怖かった。
「なんで、そんなにあいは強い…」
「ゆうくんが、好きだから。」
声を遮り、精一杯張り上げた声を聞いた僕は、訳も分からないまま、泣いていた。
シートベルトを外し、あいの小さな胸で、声を出して泣いていた。
「俺は、嫌だよ。あいと会えないだけで、怖いよ。幸せなまま、残していたいよ。」
普段は、ポジティブ思考だけど、あいのことになると、ネガティブになる。
それだけ、自分でも抑えきれないくらいな気持ちに、大きく育ったハートの木。
「今以上に、幸せになろうよ。ある物語では、白馬の王子様が、迎えに来てくれるんだよ?」
笑いながら、泣きながら話すあいが可愛くて、愛しくて、僕は壊れるくらい、少し狭い車の中で抱きしめ、
「ありがとね。」
あいの唇が、腫れるくらい、強引なキスを、
「俺、頑張るからさ。」
ずっと、していたんだ。
静寂に包みこまれていた空に、淡い光が差し込んだ肌寒い夜明け。
情熱の向こう側を、信じてみたかった。
いや。
君となら、いつか見れると思ってるんだ。
助手席に座るあいと、車の中で話をしていた。
路上の隅っこに隠れ、ハザードは点けないまま、
「もうすぐ、この街とも、お別れだな。」
少しの寂しさを交えながら。
「頑張ってね。」
うん。としか言えないまま、曇ったサイド硝子に、あい。と書いていた。
自分で決めたことだから、あいの言葉は正しいことなのだろうが、行かないで。寂しいな。そんな、言葉を期待していた自分。
「別れよう。」
いつも、自分の弱さに負け、嫌われてサヨナラしたり、距離のせいにしたりしたくなくて、心と反対の言葉達が零れてしまう。
「…嫌。」
困らせたい訳でもなく、当たり前のように、嫌いになったり、好きな人ができた訳でもないけれど。
次の言葉が見つからなくて、長い沈黙が包み込んだ後、
「なんで」
「あのさ」
涙目をしたあいと、僕の言葉が重なった。
「あのさ、幸せのまま、終わりたいんだ。」
きっと、それは僕の、ただの小さな我が儘だ。と、言った後に気付いた。
「…嫌だよ。絶対、ゆうくんといるから。」
「一緒に行こうよ。付いてきてよ。」
答えは、知っていたけど、言葉だけでも、今は欲しかった。
「無理だよ。それくらい、分かってるでしょ?」
教科書に書いてあるくらいの返事に、僕は答え合わせをしたくなかった。
「じゃ、俺が浮気したら?」
「奪いにいくよ?」
自分も必死な形相で、あいに聞いていたけれど、あいも必死なのが伝わる。
「喧嘩して、連絡取れなかったら?」
「会いに行く。」
「あいを嫌いになったら?」
「また、好きになってもらうもん。」
全速力で走った後のように、漏れる息が聞こえるようだった。
「なんで…。」
見えない明日に、歯がゆい毎日に、戻ってこない昨日に、僕は怖かった。
「なんで、そんなにあいは強い…」
「ゆうくんが、好きだから。」
声を遮り、精一杯張り上げた声を聞いた僕は、訳も分からないまま、泣いていた。
シートベルトを外し、あいの小さな胸で、声を出して泣いていた。
「俺は、嫌だよ。あいと会えないだけで、怖いよ。幸せなまま、残していたいよ。」
普段は、ポジティブ思考だけど、あいのことになると、ネガティブになる。
それだけ、自分でも抑えきれないくらいな気持ちに、大きく育ったハートの木。
「今以上に、幸せになろうよ。ある物語では、白馬の王子様が、迎えに来てくれるんだよ?」
笑いながら、泣きながら話すあいが可愛くて、愛しくて、僕は壊れるくらい、少し狭い車の中で抱きしめ、
「ありがとね。」
あいの唇が、腫れるくらい、強引なキスを、
「俺、頑張るからさ。」
ずっと、していたんだ。
静寂に包みこまれていた空に、淡い光が差し込んだ肌寒い夜明け。
情熱の向こう側を、信じてみたかった。
いや。
君となら、いつか見れると思ってるんだ。
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