夕暮れ

gy0804

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「ここのお店好きだよな。」
黒いスーツを着こなして、右手にハイボールを持ちそう言った。ジョッキの氷が揺れカランという心地良い音が響いた。
彼はネクタイを緩めハイボールを一気に喉に流し込む。
「雰囲気がね。一見怪しいホストのようなお店に見えるんだけど入ってみると全然そんな
ことなくて。」私は周りを見渡して言った。
同時に甘い香りが私の鼻につく。甘ったるいものではないなにか。私がこのお店に来る理由はそれが好きだからかもしれない。
「レモンサワー一つ。」
目の前にいる30代前半位のハンサムな男性バーテンダーさんに注文をした。
もう1人居たのだが1番近い彼に頼んだ。
一緒に呑んでいるのは半年くらい前に逆ナンしたシュウというサラリーマンで、それから日が経つにつれ気付いたら付き合っていた。
バーテンダーさんが「どうぞ」と言いながらチューハイを置いてくる。ジョッキを、少し揺らすと氷がまた鳴って口に運んだ。
「こういうの久しぶりな気がする」
「前は烏龍茶だけだったよな」
そう言ってからソフトパックの煙草を振りながらこう言った。
「女性がお酒飲むところ、キュンとくるな」
たばこをくわえライターで火を付けた。シュウのその言葉に思わず笑いそうになりながらもチューハイを口にして返事をする。
「たばこを吸う男性って魅力的。」
匂いがキツイ。強いからなのかとても独特で甘い匂いとそのけむりが混ざった。嫌じゃなくとても好きな匂いだ。
「私にもたばこ頂戴」
彼は新品のたばこではなく自分の吸っているたばこを私の口に当てがった。呼吸が合わず思わず咳き込む。しかし再度吸い直す。
「ケチだね。」
「間接キス。」
呟いたように言って、その煙草をまた吸い始めた。
「そういうこと、まだしてなかったよね」
と、サラッと私は言ったけど恥ずかしくて穴があったら入りたい。
「…酔った?」
シュウは私の顔を伺ってニヤリと笑うとそう聞いてきた。
「かもね。……すいません、梅サワー1つ。」
気付かれてるとか気付かれてないとかもうどうでもいい。恥ずかしさなんてほんの一瞬だから。
私達は付き合って半年にもなったのに性行為にまで至っていない。先ほどの煙草の間接キスだけ。
私がそういう気持ちにならないのは、あの出来事があったから。
                 *
「お前酔いすぎ」
barを出ておぼつかない足で歩いていた。時刻は深夜の1時を回ったところで、人通りもあまりない。
「私強いはずなんだけどな」
「ピッチ早いんだよ、後半からハイボールガブ飲みするから…」
後半から自分の嫌なことを思い出してたくさんたくさん呑んでしまっていた。
シュウは近くの自販機から水を買って私に渡すとまた煙草を取り出した。
水はひんやりとしていてとても冷たい。
シュウの煙草を吸う姿をチラ見しながら水をゴクゴクと飲む。
「ねぇ、シュウ。元カノってどんな人だった?」
突然聞きたくなった。シュウは驚いた顔をしていたけどすぐ煙草を捨てて足で潰した。
「単純に、可愛い人だった…、俺にはもったいないくらい。高3の冬に彼女が俺に一目惚れしたらしくて。俺さ高校んとき結構モテてたんだけど最後の最後まで断ってて。でも進路決まってから少し余裕ができたていうか…恋がしたくなってその子と付き合うことにしたかな、1年も続かなかったけど」
「それって、何で?」
「浮気?卒業した年の夏か秋くらいに別の男がいるとかって言われて」
「シュウイケメンなのに。」
「顔だけだっつーの。それから今まで彼女無し。しのってこういう話聞けるんだ?」
「嫉妬しないからかな?」
右手に持っていた水を喉に流し込み話を続ける。
「今、私の事好き?」
「……好きていうか…愛してる?あ、今言う事じゃない?……俺さ逆ナンとか正直どうなんだって話だったけど…しのに出会えてよかったと思うよ。しのはさ~今まで付き合って来た人とは違う感じで。放っておけなくて。俺っていつも冷たく思われるけど意外にしのにゾッコン。
で、しのは?」
「愛してる…?かな。」
本当にそうなのかという自分の言葉を疑う。
シュウはそれに気付き「なんだそれ」と笑う。
「愛してるのは…俺だけか~」
「…ごめん、そうじゃなくて」
下を向いたまま持っていたペットボトルをぎゅっと握りしめ、メキメキと音が鳴った。
私の言葉にシュウは鼻で笑って私の頭に手を置いてポンポンと触った。
ゴツゴツした大きい手が当たった。
「今日はもう帰ろう。明日も仕事でしょ。おくってくよ」
黙って頷くことしかできず、そのまま足を進めた。






私の仕事は憧れていたOLで、当時は楽しかったけれど今じゃ大変で忙しい。だけれど安定しているからそんな簡単に辞めることができない。
そのストレスでほぼ毎日シュウと飲みに行くことが多い。私達は恋人だからそれしかシュウといれる時間がない。シュウはサラリーマン。
「先輩…大丈夫ですかー?」
「え?」
「最近ずっと体調悪そうですよ」
話しかけてきたのは今年入社したばかりの二つ下の後輩の相田美子ちゃん。
昨日の二日酔いからか表情に出ているらしい。自分でも分かる、頭重いし、体はだるくフラフラする。
「昨日呑みすぎちゃってさ、」
「またですか!お昼どうします?最近この近くに新しい定食屋できたんですよ、行きます?」
「んー、また今度にする。ごめんね、同僚だちと行きな。」
さすがにこの具合の悪さだと食事は食べれない。だけど何か食べないとと思い、私は会社の近くにあるコンビニに向かうと決めた。
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