【本編完結】裏切りの転生騎士は宰相閣下に求愛される

碧木二三

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第七章 悪役令嬢の秘密

54. お茶会の顛末①

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    * * *


 ジオルグとともに、隠れ家の転移装置からロートバル邸の地下に戻ってきたのは、朝の九時頃のことだった。
 ちなみに、今日は聖女召喚の儀があった日から数えて五日目。俺が十年ぶりに目覚めた日からは、八日が経っている。
 そして、魔竜が襲来する新月の夜まではあと十日。
 王国最大の災禍が迫っているそんな重大な時期に、宰相であるジオルグの貴重な一日を奪ってしまったことが申し訳なく、謝罪の言葉を口にした俺に、

「何、そんなときの為に副宰相がいる」

 と、ジオルグはまるで取り合わなかった。

「それに、次期宰相候補には今のうちに実務経験を積ませておかないとな」
「次期宰相候補?」
「ああ、今度の事が落ち着いたら、私は宰相職を辞するつもりでいる」
「えっ? そうなんですか?」

 俺がかなり本気で驚いていると、国王陛下以外にはまだ誰にも告げていないからな、と耳元で囁くように言われた。

「……まだ秘密にしているように。いいな」


 地下からの階段を上がると、俺たちよりも先に屋敷に戻っていたクリスチャードが、サロンの扉の前に直立不動の姿勢で立っていた。

「お帰りなさいませ、旦那様。シリル様」
「ああ、今帰った。どうした、来客か?」
「はい、使者の方はつい今しがたお帰りに。シリル様。王宮より、サファイン殿下からの書状が届いております」
「え?」

 ──ルーからの手紙?

 驚いたのは、俺だけじゃなかった。

「サファイン殿下から、シリルに?」

 玄関ホールに、ジオルグの怪訝そうな声が響く。

「はい、左様でございます。実はその前にも殿下の侍従の方から、魔導通信がございまして」

 それは俺が今日、王宮に出仕するのかどうかという確認だった。昨日に引き続き今日も休暇だと伝えると、しばらくして、今度は第二王子の書状を携えた使者が屋敷までやってきたらしい。
 経緯を聞いたジオルグが振り返り、無言でじっと俺の顔を見つめる。これまで、俺とは接点がなかったはずの第二王子の意図がわからなかったのだろう。そして、クリスチャードの手から封筒を取り上げるや否や、裏返して封蝋シーリングを確認した。

「確かに、サファイン殿下の印章だな」
「……あの。読んでもかまいませんか?」

 妙な圧を感じさせる目線に晒されながら、俺は封筒を受け取り、サロンに入ってコンソール・テーブルの上に置いてあるぺーバーナイフを使って封蝋を剥がし取る。俺の後について、ジオルグもサロンに入ってきていた。
 俺はソファーに座って手紙を取り出すと、さっそくその文面を読む。

「──昨日のお茶会の件で、至急話したいことがあると書かれています。もしも都合がつくようなら、午前のうちに殿下の部屋まで来てほしいと」

 訊ねられるよりも先に手紙に書かれた内容について告げると、向かいのソファーに座ってじっと俺の様子を見ていたジオルグは眉を顰め、お茶会? と聞き返してきた。

「昨日、王妃殿下がアイリーネ様を招いてのお茶会を開かれたんです」

 そのお茶会には公爵令嬢のオリーゼも招かれたこと。しかしオリーゼの婚約者であり、場の緩衝材と成りうるエドアルド王太子の参加が見込めなかったこと。
 そんなときに、第二王子と会って話す機会があったこと。公務で多忙な王太子に代わって、アイリーネの付き添い役としてお茶会に参加してもらえるよう頼んだことなどを、当然ながら俺の前世やゲームの話は一切絡めず、差し障りのない範囲でジオルグに説明した。

「なるほど……。君がこの家を出ている間に、とあったわけだな」

 ──色々、の部分がやけに強調されていたように感じるが、気の所為だろうか。

「しかしまた……、ここでもオリーゼか」
「ええ、確かに。お茶会に行かれたルー殿下の話も気になります」
殿下?」
「あ」

 説明をしている間は注意を払っていたのだが、それで気が緩んだのか、うっかり第二王子のことをセカンドネームの愛称で呼んでしまった。

「サファインというお名前があまりお好きじゃないそうで、ルーヴェの方がまだマシだと。なので、別に深い意味はないみたいですよ?」

 慌てて言い訳をすると、ほぉ、とジオルグは半眼になった。ただでさえ怖いぐらい完璧に整いきっている美貌が、冷ややかな空気を纏ってあからさまな不満を訴えてくる。
 竜人種には馴染みのない風習だと言ったくせに、俺が誰かに対してセカンドネームで呼びかけることは気に入らないようだった。

「ジル……」

 俺を困らせるためにわざとやっているのだとはわかったが、上手く受け流す術がなくて途方に暮れていると、そんな俺の表情でようやく気が済んだのか、ジオルグが平静な顔つきに戻って言った。

「まあいい。私もそのお茶会とやらの話には興味がある」
「では、行ってもいいんですね?」
「ああ、出仕するついでに、私が君を殿下の部屋まで送ろう」

 どうせ君は、休暇だからと屋敷でじっとしているつもりはないのだろう、と勝手に決めつけられる。まあ、それはその通りだったが。

「思いつくままに動かれるよりは、所在がわかっている方がいいからな。昼食の時間になったら迎えに行く」

 ……制限がやや強いが、これで堂々と外に出かけられる理由は手に入れた。
 ただし、今日一日は護衛師団本部へ立ち入らないことも約束させられる。ヒースゲイルと彼の率いる魔法士隊が、例の魔法石にかけられている何らかの呪い、もしくは術式を解くまでは、俺をその調査には直接関わらせない為だ。
 俺としても、彼らの妨げにはなりたくないので、二つ返事でそれを了承した。
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