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第十一章 セラザからの迎え
89. ジオルグの無謀 ①
しおりを挟む「どうしたんです、セオ!」
俺はほとんど反射的に走り、先に森を抜けていたセオたちを追いかけた。
「これは一体……!?」
急に視界が開けた場所に出た。
何が在った場所なのかはわからない。今俺の目の前にあるのは……、瓦礫の山だった。
砕けた木材や石材が、小山のように積み上がっている。折れた柱や建物の骨組みのようなものが突き出ていたりして、それを見るにかなり大きな建造物が崩れ落ちたのだとわかった。
人足たちが声をかけあって瓦礫を資材ごとに分別し、荷車に乗せてどんどん運び出していっている。その傍らでカイルは紫水晶の目を凝らし、無言で瓦礫の山を見ていた。
「魔竜の仕業かな?」
声を潜めるようにしてセオが言うと、カイルが「いや違う」ときっぱりとした口調で言い切った。
「何故わかる?」
「魔力の残滓がまだ残っているから。これは……、ロートバル閣下のものです」
「ええ? 本当か?」
「……確かに。火を噴く竜に襲われたにしては、ここには火の気が見当たりありませんね」
俺は散乱している瓦礫の一部の前に屈み込んで言った。
消しきれずに燻っている火や煙もなければ、瓦礫には焦げ跡が一つも付いていない。どう見ても業火に見舞われた痕跡はなかった。
「確かに……、ってシリル、お前それ冷静に言ってる場合か?」
「いや、でも……」
事実は事実だ。これはジオルグの魔力によるもの。カイルがそう感知したのなら、それはきっとそうなのだろう。
「ああ、そうだ。よくわかったな」
目の前に、いきなりぬうっと大柄な男が出てきた。身長は二メートルぐらいあるだろうか。筋肉質な身体に黒のシャツとボトムを纏い、その上に濃紺のフード付きのマントを羽織っている。腰には赤い革の鞘に納められた長剣を佩いており、巷でよく見かけるいわゆる『冒険者』風の出立ちだ。
毛量が多い硬そうな黒髪に鳶色の目。太い眉に無精髭、よく日に焼けた浅黒い肌。この国の人間ではないことが一目でわかる、精悍で濃い顔立ちの男だった。
俺は立上がり、彼を見上げた。
「あなたは……」
「辺境警備隊、隊長のルシアだ。まあ仮名なんだが、こっちではそれで通してる。あんたは……ひょっとしてシリル・ブライトか?」
「はい、そうですが……」
「へえー。あのちっこい痩せたガキんちょが、こんな別嬪に育つとは! 昨夜ジオの奴も脂下がって惚気けてたが、いやあ全く隅に置けねえな!」
大きな声で思いがけないことを言われて、俺はぽかんとしてしまった。
「あの……、もしかして、十年前にお会いしてますか?」
「なんだ、忘れちまってるのか。十年前のあん時、あんたを救けに行ったのはジオだけじゃねえんだぞ」
「そう……でしたか。あの時、閣下を乗せてきたグリフォンとその乗り手がいたことは覚えています。もしかして、その?」
「あのグリフォンは、俺のだけどな」
「グリフォン?」
カイルの双眸がきらりと炯った。幻獣種や魔獣の類が好きな彼としては聞き逃せないワードだったようだ。
ゴホン、とわざとらしい咳払いが割り込んできた。
「それで、この惨状については説明してもらえるのか? 宰相閣下が何をしたんだって?」
話がどんどん本題から逸れていくのに業を煮やしたらしいセオが、腕を組みながら俺たちをじとっと睨んでいた。
「そういうあんたらは? こっちはシリルと同じ騎士装束ってことは、護衛師団か」
「セオデリク。魔法士だ。セオと呼んでくれ」
「仰る通り、王宮護衛師団のカイルと申します。俺は彼らの護衛役です」
二人してずいぶんと雑な自己紹介をしてのけたが、ルシアは気に止める風もなく「よろしくな」と気さくに言った。
「本当なら、俺が明日迎えに行くはずだったんだがな。ていうか、あんたも神殿で結構な無茶をやらかしたんだって? 見た目によらねぇっつうか、いや、ある意味似合いの夫婦なのかもしれねえが……」
「おい、シリルが反応に困るようなことを言うな」
セオがぴしゃりとルシアの自由なお喋りを遮る。
「おお、悪い。……っと、この瓦礫についてだったな。こいつは、昨夜までは辺境警備隊の砦だった物だ」
「辺境警備隊の砦?」
カイルが首を傾げる。
「しかしここは、辺境伯の館の敷地内のはずでは?」
「その通りだ。全く、とんでもない話でね」
ちょうど、ゆったりとした足取りで森から歩いてきたリーヴェルトが話に加わった。
「その砦は、今通って来た森のちょうど反対側にあったのだ」
「反対側?」
「そう、『昏迷の森』の入り口近くだな」
と、ルシアがカイルに向かって苦笑いをしながら今俺たちが抜けて来た森の奥を指差す。俺たちが出てきた『扉』があった木よりも、さらに奥深い広大な森の果てを。
「え、ええと、つまり……?」
引き攣った顔で、セオがルシアが指差した方向を距離を探るように見た。
「昨夜、ジオと砦で飲んでいたところを空から魔竜に急襲されたんだが、さすがに迎撃が間に合わなくてな。せめても防御はとジオの魔法に頼っちまったんだが。いやあ、まさか防御の結界をかけた上、転移魔法で砦ごと跳んじまうとは、まあ恐れ入った!」
「「「はあ?」」」
ワハハハ! と豪快に笑うルシアの声に、俺たち三人の叫びが交錯する──。
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