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終章 竜と魔法の王国
105. 魔竜の作り方
しおりを挟む「シリル、そしてアイリーネ殿。今から我々が斃すのは、イーシュトールが死んだ後にもこの世に留まり続けている妄執の念だ。そういった意味では、彼奴を魔竜と呼んで差し支えない。ただし、その容れ物は別だ。アレはかつて竜種に刃向かい、そして敗れた幻獣種の骸。昏迷の森の『火蜥蜴』であったモノ」
「火蜥蜴?」
アイリーネは戸惑ったように繰り返す。
「ああ、やっぱり。そういうことか」
ようやく合点がいったとセオが頷く。
「あんなデカブツ、そもそも一体どこから連れて来たのかと思ってた。魔竜を作るにしたって、魔術的な器が必要なはずだからな。元々イーシュトールを恨んでるヤツなら、まさにお誂え向きってわけだ」
「火蜥蜴ならば、火を吐くのは納得だ。イーシュトールが使うのは、確か雷撃のはずだからな。だが、火蜥蜴が空を飛ぶか?」
ジスティが首を傾げると、飛ぶんだよな、これが、とセオが言った。
「一般的には無翼だけど、ダードウィンのヤツなら話は別。詳しく知りたかったらあとで古い伝承集でも読んどいてくれ。それが面倒ならカイルに聞いてもいいしさ」
「……ああ、後で教えとく」
目を閉じて椅子に座っていたカイルがおざなりに言った。冒険者風の服から騎士装束に眼鏡をかけたお馴染みの姿に戻っていたが、さすがに疲れているのかいつもより口数が少ない。
「推定だけど、魔竜の体長は頭から尾までの全長は最大で約三十メートルほど。としたら、翼は開いた状態で片翼十メートルほどかな。着地した形跡がどこにもなくて足跡が残ってないけど、後脚で立った場合の推定身長は最大でも約二十、全体的にイーシュトールより一回り大きいと見てる」
出現した時間帯が真夜中だったことから、その姿は闇に紛れ、目撃情報の正確性もイマイチだという話だったが、セオたちの調査のおかげで、口から吐き出した火焔の威力などから魔竜の大体の大きさは判明していた。
「解答がわかると、やり方も何となく読めてくるな。あの女、イーシュトールを射った鏃を手元に転送させて持ち帰ったんだ。そこから魔竜の魂と呪いを魔術的に培養させて……? ヤバいな。それを自分の中に取り込んで育ててたんだ。だから百年、眠ってたのか……」
セオの碧緑色の目が、異様な輝きを帯びている。カイルも目を開けて頷く。
「そして、彼女が魔竜の呪いで眠っている間に黒月党を立ち上げ、魔竜の信徒を増やした誰かがいる……? いや、帝国からの資金援助もあったかもしれない。そこはラドモンド卿に一度訊ねてみるか。彼ならば何か知っているかも」
「カイル、それこそ考えるのは後だ」
ジスティが窘めるように言った。
しかし、カイルの口から今は席を外している領主館の主の名が出たことで、俺ははっと思い出した。
「そうか。あの女が、自分の思い通りになる魔竜の贋物を作る為に、ダードウィンの手から『火蜥蜴』の骸を盗み出したのも……、十年前……?」
聖竜神殿からセラザへの転移後、領主館までの原生林を歩いたとき、リーヴェルトが言っていた。
シリルが棲んでいた草原の集落が襲われた頃、一方ではダードウィンの沽券に関わる一大事が起きていたのだと。
俺がかいつまんで説明すると、セオはなるほどなー、と感心したように手を打った。
「で、魔竜の中身をそいつに容れて完成させてから、餌を集めるための魔石をバラ撒きに王都にやって来た。そしてついでに父上を誑かしたわけか」
「彼女がスタウゼン公爵に近づいたのは、宮廷内に親帝国派の存在を定着させる狙いもあったからでしょう。何せ、いっときは宰相になるとまで言われたお方だ」
ジスティが言うと、セオは鼻を鳴らした。
「ふん、慰めてくれなくて結構。とにかく、今はあの悪食の魔竜をぶっ殺すことだけを考えてればいいんだ」
ああ、その通りだな、とジオルグが言った。
「それで、話を元に戻すが。今回の魔竜は、外側が贋物だとはいえ中身は魔竜の呪いそのもので出来ている。つまり、【聖なる竜の刻印】を額に戴く君たちは、次の襲来時には確実に狙われるということだ」
ジオルグの言葉に、アイリーネの肩がぴくっと揺れる。
「月精であるシリルには、その呪いを解くために討伐戦には必ず参加してもらわねばならない。だが、アイリーネ殿。もし望まれるのなら、あなたは王都にお戻りになっても構わない。相手が正真正銘の竜種でない以上、あなたまで彼奴の相手をする必要は全くない」
アイリーネは、大きな青い瞳を見開いてジオルグの顔を凝視した。集まっている皆も、沈黙をしたまま、ただ見守っている。
おそらく、彼女はちゃんと理解したのだ。今回の討伐戦において、少なからずこの場にいる誰かの……もしくは全員の血が流れる可能性があるということを。
そしてそれは、自分自身でさえも例外ではないのだと。
宰相閣下、とアイリーネは小さいがはっきりと通る声で言った。
「いいえ。わたしはここで、皆さまの戦いを見届けます。例え誰かが傷を負ったとしても、わたしが必ず魔法で癒します。わたしは、聖女としてこの世界に……、あの人に喚ばれたのですもの。ですから、王都には戻りません」
「……承知しました。それならば、アイリーネ殿にもやって頂かなくてはならないことがあります」
「はい、わたしにできることでしたらなんでも致します」
「無論、あなたにしか出来ぬことです」
と、ジオルグは口の端を上げて微笑んでみせる。
「が、その前に今から魔竜討伐戦の作戦について話す。決行は水曜日の未明。つまり、準備に費やせる時間は明日一日だけだが、新月の夜を待つつもりは毛頭ない」
月の満ち欠けは、魔物にとって魔力の増減を左右するほどの影響を及ぼす。百年に一度、魔竜が新月の夜にイーシュトールと入れ替わっていたのも、そうすることに意味があったからだ。
全員、宰相閣下に向けて承諾の意を示す頷きを返した。
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