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第3章

倭国での出来事

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 ゲッケイジュは、サクラ王子誘拐の主犯として、捕らえられ、地下牢に閉じ込められていた。

 倭国内の国王の兄による、この誘拐事件は公にすれば、自国に大きな不利益と判断され、箝口令が敷かれた。

 ゲッケイジュを処刑しようとする意見が多かったが、リュウオウ国王が反対したため、処刑は行われず、地下牢で生きながらえることとなった。

 ゲッケイジュの妻であるスミレと、息子のザクロは取調べを受け、今回の誘拐騒動とは無関係と判断されたが、監視が付くこととなった。

 スミレとザクロは、問題を起こすことなく生活していた。

 ザクロは、サクラが兵達と訓練していると知って、同い年の奴に負けたくないと子供ながらに思い、母親の指導で魔法や武術を学んだ。

 そして、魔人襲撃が起きた。

 幸い、ザクロとスミレは難を逃れ、魔人が立ち去ってから、再び王都へ戻った。

 王都には、あちこちに遺体が転がり、建物は崩れ落ちているものが殆どであった。

 ザクロとスミレが生活していた城の別棟へ足を運ぶと、一人の痩せた男が立っていた。

「……あなた!?」
 スミレは、その男へ駆け寄った。

「……父上?」
 ザクロは首を傾げた。
 何故、父上はと母上から聞いていたのに。

「……スミレか?」
 ゲッケイジュは、スミレへ視線を向けた。

「はい。よくぞご無事で。」
 スミレは、泣きながらゲッケイジュに抱きついていた。

「……何が起きたんだ?」
 ゲッケイジュは、周りに目を向けて、スミレに質問した。

「……魔人です。魔人が竜を引き連れて襲って来ました。」
 スミレは、この惨状を作り出した魔人のことを考え、恐怖で声が震えていた。

「……魔人か。……お前は……ザクロか?」
 ゲッケイジュは、現状を引き起こしたのが魔人と知り、納得した。
 そして、後ろを振り向き、昔の面影から、自身の子供であるザクロと判断した。

「……はい。……父上なのですか?」
 ザクロは、恐る恐る尋ねた。

「そうだ。お前の父親だ。」
 ゲッケイジュは、ザクロの言葉を肯定した。

「ごめんなさいザクロ。……あなたには、死んだと伝えていたけれど、あなたのお父さんよ。」
 スミレは、ザクロに今まで嘘を付いて騙していたことを謝った。

「……俺は死んだ事になっていたのか?」
 ゲッケイジュは、スミレに目を向けた。

「……あの事件は、箝口令が敷かれています。知っている者も、今回の件で殆ど亡くなったと思います。」
 スミレは、気まずそうに答えた。

「……そうか。俺の事を知っている者が生存している可能性があるならば、俺は姿と名を変える。」
 ゲッケイジュは、そう言うと変化属性を使用して、姿を変えた。

「今から俺は、と名乗る。ゲッケイジュとリュウオウには、表に出ていなかった弟が居たと伝えよ!」
 ローリエへと姿と名を変えた、ゲッケイジュは、リュウオウよりも少し若く、の頭髪をしていた。

「俺には王族の血が流れている。俺が国王になり、倭国を再建する!」
 ゲッケイジュは、目に黒い光を宿していたのをスミレとザクロは気付かなかった。

「あなた!」
「父上!」
 二人は、ローリエに抱きついた。
 二人には、この絶望から救ってくれる神様に思えてしまった。


 《倭国は、俺様のものだ!》



 こうして、ローリエへと名を変えたゲッケイジュによる倭国再建が行われた。

 倭国の民達は、新たに現れた国王に期待を寄せていた。

 実際、王都が復活し、倭国が国としての機能を取り戻していく様子を見せられ、民達は、国王の手腕に信頼を寄せていた。

 しかし、王都周辺は恵まれていたが、その皺寄せは王都から離れた村々に広がっていた。

 辺境の村では、納められない程の税を課せられ、反乱を起こそうものなら、倭国の裏組織に村ごと壊滅させられていた。

 村の壊滅は山賊によるものとされ、王都周辺では、裏組織により壊滅させられたと知る者はおらず、結果として、他国には《新たな国王ローリエにより、倭国再建》として報告されていたのだ。


 そしてザクロが入学する数ヶ月前に、倭国王子として、国の情勢を把握しようと資料を見ていて違和感に気が付いた。

「……な、なんだこれは!?……父上に報告しなければ!」
 ザクロは急ぎ、ローリエ国王の下へ向かった。

「……ローリエ国王様。お話があります。」
 ザクロは、真剣な表情でローリエ国王の前に出た。

「どうしたのだザクロよ。そんな真剣な顔をして。……大事な話なら人を下げよう。」
 ローリエはザクロの顔を見て、只事ではないと判断し、大臣や兵を部屋から出した。

「これでよいか?」
 ローリエは、ザクロが話し出し易いよう声を掛けた。

「……心遣い感謝します。……先程、国の情勢を把握しようと資料を見ていたのですが、明らかに辺境の村に課していた税が異常です。それだけじゃない、同じような村が全て山賊に滅ぼされている!  誰かが何か企んでいるようです!」
 ザクロは、自分が調べて思い至ったことをローリエ国王に伝えた。

「……成る程。その話は誰かにしたのか?」
 ローリエは、顎に手を当てて考える仕草をした。

「いえ。まだ誰にも伝えていません。まずは父上の……国王様の意見を伺いたいと思い、こちらへ参りました。」
 ザクロは、ローリエ国王に頭を下げたまま、正直に答えた。

「……流石は、我が息子だザクロよ。よく気が付いた。」
 ローリエは、笑みを悟られないよう手で口を覆った。

「あ、ありがとうございます!」
 ザクロは、尊敬する父上に褒められたことで舞い上がってしまった。

「こっちに来なさいザクロ。」
 ローリエは、ザクロを手招きして、自身の横に立たせた。

「は、はい!」
 ザクロは、急ぎローリエ国王の側に近づいた。

「全く。優秀な息子だよ。……今日からお前は、俺の言いなりだ!」
 ローリエは、ザクロの頭に手を乗せ、精神属性の忘却を発動し、更に操作属性の傀儡を発動した。

「あぁーーあぁーー!」
 ザクロは、ピクピクと痙攣して倒れた。

「やれやれ。後で魔法付与した魔法具を身に付けさせるか。」
 ローリエはそう言って、兵を部屋に戻し、ザクロを寝室へ運ばせた。

 こうしてザクロは、ローリエ国王の操り人形と化し、ローリエ国王から与えられた、魔法具を身に付けるようになった。
 与えられた魔法具に付与された魔法が、精神属性のものと知らずに、ローリエ国王から言われるがまま、一日一回の発動と魔力の補充行うようになった。
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