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王都の話題

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 ここは、オケアノス王国にある冒険者ギルド。

 現在、ベルとレナが受付において、今話題の人物について、話をしていた。

「私が最初に目を付けたのよ!」
 ベルは、ここ最近ずっと御機嫌斜めだ。

「はいはい。」
 リナは、そんなベルに冷たく答える。

 リナは、数時間毎に同じ事を繰り返すベルに嫌気がさしていた。

「ちょっと!?  リナ聞いてるの!?」
 そんなリナの態度に、ベルはリナの両肩を持って前後に揺さぶる。

「や、め、て、く、だ、さ、い。」
 前後に揺られている所為で、リナの言葉はロボットの様に片言だ。

「リナがちゃんと話を聞いてくれないからでしょ!?」
「いや、聞いてますよ。もう耳にタコが出来るくらい。」
「ぶーー、マルス君があんなに人気になっちゃったら、私の恋のライバル、恋敵が増えちゃうじゃない!」
 ベルは、滝の様な涙を流す。

「……ベルさん。大丈夫ですよ。」
「リ、リナ!?」
 リナの言葉に、ベルは俯いていた顔を上げる。

 その表情は、リナの優しい言葉に明るい。

「貴方にチャンスはないですから。」
 リナは最高の笑顔で、ベルに死の宣告をする。

「……。」
 ベルは無表情となり、おもむろに、下げていた手をリナの顔の左右まで上げた。

「そんな悪いことを言うのは、この口かぁ!?」
「い、いはぁい!?  いはぁいよ!」
 ベルは、リナの口に指を入れ、左右に引っ張る。

「マルス様の近くには、イリス様が居るんですよ?」
「あ!?」
 ベルは、イリスの存在を失念していたのである。

「で、でもあの二人じゃ、平民と王女なのよ?」
「それが燃えるんじゃないですか!?  身分違いの二人の恋物語!  それにマルス様もイリス様も美形ですし!  魔王を討伐した英雄同士の恋!  ……アツイです!」
 リナの力説に、ベルの身体は後ずさる。

「で、でも二人が付き合ってるなんて、私の情報網に引っ掛かって無いわよ!?」
 ベルは、受付嬢としての立場を利用して、冒険者達から色々な情報を仕入れている。

 そのベルの情報網を持ってしても、マルスとイリスが交際していると言う、情報は掴めていないのだ。

「まだ、二人の恋は始まっていないのかも知れないですね。ですが、必ず二人は結ばれると、私は確信しています!」
 リナの話には、何の根拠も無いのだが、妙な説得力が秘められていた。

「くっ!?  ま、まだ二人の恋が始まっていないのなら、私が入り込む余地がある筈よ!」
 ベルは、リナの言葉に負けず、マルスを狙うことを決意する。

「……ベルさんには、無理だと思いますよ。そんなことをしていると、婚期がどんどん遅れちゃいますよ。」
 リナの毒舌は止まらない。

「う、うぇーーん。リナが虐めるよーー!」
 リナに弄られたベルは、リナの元から去って行く。

「二人の恋が進展するように、ここはお姉さんが一肌脱ぎますかね。」
 リナは、マルスとイリスをどうくっつけようかと思いを巡らせるのだった。


                    ▽

 ここは、冒険者学校にある、乙女の溜まり場。

「では皆様、これよりいつもの報告会を行います。」
「「はい!」」
 この場に居るのは、全員が冒険者学校に在学している女性だ。

「新たに情報を得た者は、挙手して下さい。」
「はい!」
 一人の女性が声を上げて、挙手する。

「それでは、パティ報告を。」
 マルスと同じSクラスに所属している、上級白魔道士のパティが椅子から立ち上がる。

「マルス様が、また魔王を討伐し、大活躍しました!」
 パティの言葉を受けて、その場に居た者達から歓声が上がる。

「そうですね。また、のマルス様がご活躍なさいました。」
「素晴らしい活躍です。」
「戦うお姿を見たかったです。」
 女性達は、冒険者学校に存在する、マルスファンクラブのメンバーだ。

 皆、マルスの活躍ぶりを脳内で思い描く。

「マルス様は素晴らしいお方です。今回のご活躍で、益々マルス様の存在が世に知れ渡ることでしょう。」
「「おおーー!!」」

「代表!  質問があるであります!」
「何でしょうか?」
「マルス様は、どなたかとお付き合いなさっているのでしょうか?」
 その質問により、場が静まり返る。

 皆、マルスの恋愛事情には、特に興味があるのだ。

 そして、どれだけ情報を得ようとしてもマルスの恋愛事情だけは、はっきりと分からなかった。

「……交際しているかは、定かではありませんが、同じパーティーの、イリス様達と行動を共にする機会は多い様ですね。」
 パーティー内の、誰かと交際している可能性は否定出来ないが、二人で街中をデートしている姿の目撃情報は上がっていない。

((マルス様は、私が射止める))
 その場に居た者達の、心の声が重なり合う。

 マルスの知らないところで、マルスを狙うハンター達が動き出していたのだった。
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