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制裁

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 今回、バラキエルのしたことは大事である。

 マルスは、訓練場で未だ伸びているバラキエルを、収納箱ボックスから取り出したロープで縛り上げた。

 丁度そこへ、エイル先生達を引き連れたクレイが到着する。

「おっ!?  間に合ったみたいだな。」
「助かったよクレイ。イリスを助け出してくれてありがとう。」
 マルスは、クレイ達が居なかった、バラキエルに勝つことが出来ず、イリスもどうなっていたか分からなかった為、本当に感謝していた。

「気にすんなよ。」
「頼りになる仲間が居てくれて良かった。」
 マルスとクレイは、固い握手を交わした。

「マルス君。今回の件は、クレイオス君から聞きました。詳細を確認したいので、バラキエル君の身柄を預かります。」
 マルスは、縛り上げたバラキエルを引き渡す。

「それと、アイテール校長先生が呼び出していた件も、おそらくバラキエル君の仕業ね。」
「どういうことですか?」
「アイテール校長が戻られたから、マルス君を呼び出していた件について尋ねたら、呼び出していないと言っていたのよ。」
「成る程。俺が校長室へ行っている間に、イリスを攫う為ですね。」
「ええ。それじゃ、疲れているだろうけど、いいかしら?」
 エイル先生に、今回の詳細を説明する為、マルスはエイル先生と共に、訓練場を後にしたのだった。



 事件の詳細について、マルスとイリスから聴取したエイル先生は、バラキエルの手下二人からも話を聞き出し、事件の概要が判明した。

 因みに、バラキエルについては、未だ気絶している。

 昔からイリスに迫っていたバラキエルだが、一向にイリスに振り向いて貰えず、そんな中、下級職業でも屑扱いされている白魔道士であるマルスが、イリスと仲良くしていると耳にする。

 そして、そんなマルスが、イリスとパーティーを組んで、魔王討伐まで果たしてしまい、英雄扱いされたことに激怒したのだ。

 何故、白魔道士のような屑が、英雄と呼ばれているのか、きっと何かの間違いであると決め付けたバラキエルは、マルスのことを偽りの英雄と呼び始め、バラキエルがマルスの評判を陥れようと、王都中に嘘の情報をばら撒いていたのだ。

 バラキエルを暴走に駆り立てたのは、マルスとイリスが王都でデートをしていたのを目撃したのが原因だ。

 二人の甘い空気を纏う雰囲気を目にしたバラキエルは、今回のイリス誘拐とマルス殺害を企てた。

 先ず、イリスを誘拐する為に、邪魔なマルスを他の生徒を利用して校長室へと呼び出し、イリスが一人になったところで誘拐した。

 イリスを誘拐したことは、禁止薬物である、記憶を消す薬を使用する予定だった。

 そして、イリスを人質として抵抗出来ないマルスを痛め付け、最後には事故扱いでマルスを亡き者にするつもりだったのだ。

 しかし、クレイ達の活躍によりイリスは救出され、自身はマルスに気絶させられてしまったのが、今回の顛末となる。

「ってのが、取り調べた結果ね。バラキエル君、本人からは、意識を取り戻してから確認することになるけど、国王様にも報告しなければいけないわね。」
「バラキエルって、公爵家の人間なんだよな?」
「そうなのよ。困ったわね。」
 マルスの言葉に、エイル先生は頭を悩ませていたのだった。


                     ▽

「……っう。ここは。」
 気絶したバラキエルが目を覚まし、ベッドから身体を起こす。

「しまった!?  気絶させられていたのか!  一体どれくらい寝ていたんだ!?  早くイリスの記憶を消さねば手遅れに!」
 バラキエルは、慌ててベッドから抜け出す。

「その必要は無いぞ?」
「き、貴様は!?」
「お前のやったことは、既に広まっている。イリスの記憶を消したところで、もうどうにもならないんだよ!  お前は終わりだ!」
「くっ!?  馬鹿な馬鹿な馬鹿な!」
 マルスの後ろに控えていた兵士達が、バラキエルの身柄を拘束し、連行する。

(聞き出す前に、起きて早々自供するとは思わなかったな。)

 マルスは、バラキエルが今回の件について聞き出す為に、バラキエルが起きるのを待っていた。

 バラキエルが素直に話をするか分からなかったが、目覚めて直ぐに、イリスの記憶を消すなどと口にしたことから、バラキエル自身が今回の騒動の首謀者で間違いないことが確認出来たのだ。

「貴様だけは、絶対に殺してやる!」
 殺意の篭った瞳を、マルスに向けていたのだった。


                     ▽

「許さん!」
 今回の事件について、報告を受けた国王は激怒していた。

「公爵家の人間が、このような非道な行いをするとは。」
 テュールも、幼き頃よりイリスの面倒を見ていた為、我が子のように怒っていた。

 そんな怒りに満ちた王の間にて、王の前には身を小さくさせて、頭を下げている人物がいた。

 それは、バラキエルの父だ。

 自分の息子が仕出かしたことで、呼び出されたのである。

 そして、事件の経緯を聞いたバラキエルの父は、顔面を蒼白にさせ、頭を下げ続けていた。

「国王様、公爵家の人間が仕出かしたことは、国家を揺るがしかねない重罪です。処分は、如何されますか?」
 大臣の一人が、国王へと意見を求める。

 バラキエルの父は、国王によく仕えており、国王からの信頼も厚い人物であった。

 それだけに、国王の受けたショックは大きい。

 しかし、自分の最愛の娘を攫ったことは許すことは出来ない。

「……公爵から伯爵への降格とする。」
 本来なら、このような大事件を起こした家の爵位を完全に剥奪するものだが、国王は、過去の業績を鑑みて、降格することで手を打つ。

 そのことに対し、大臣らが軽過ぎると声を荒げるのだが。

「まだ、処分は終わっておらん。今回の事件を引き起こした張本人であるバラキエルは、死刑とする。」
 国王は、バラキエルを許すつもりは無かった。

「……くっ。」
 国王の言葉に、バラキエルの父は、諦めた表情を浮かべる。

 しかし、バラキエルの処分は、どうすることも出来ないと分かっていたのだ。

「もう下がって良いぞ。」
「はっ!」
 国王は、バラキエルの父が立ち去るのを見届けると、深い溜息を吐く。

「……友の子を、死刑にしなければならないとはな。」
 国王は、複雑な表情を浮かべていたのだった。
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