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救出活動 前編

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 マルス達は、案内役の男の身体を縄で拘束し、先頭を歩かせていた。

 男は、ロートの仲間については、アジトに連れて行ったと説明した。

 更に、ここ最近捉えた冒険者の女についても、同様にアジトに幽閉していると口にした。

 彼らのやり口は、新たなダンジョン目当てで来た冒険者を、最寄りの村の宿で下見し、その際に相手のクラスなどを確認して、襲うというものだった。

 人攫い達は、自分達の性欲を満たす為に女を攫い、男は殺し、持ち物は全て奪い去り、金目の物は換金していた。

 ロート達も、食堂にて自分達のクラスを口にしてしまっていた為に、男達に標的にされたのだ。

 男から話を聞きながら、マルス達は迷いの森を進んで行く。

 男は、アジトにしている場所は、遺跡型ダンジョンの側にある洞窟内だと説明した。

「女性以外は、どうしたんだ?」
 これまで、女については、幽閉していると男が口にしていたことから、マルスは女性と一緒に居た男性達がどうなったのかを尋ねた。

「あーー、女を人質にして、野郎はその場で斬り殺してお終いだ。」
 男は、言いにくそうに、そう説明した。

 この一言で、マルス達から自分も殺されてしまうかも知れないと思ったからだ。

「アスール。……くそっ殺してやる!」
 男の言葉に、仲間のアスールが殺された場面を思い出したロートは、男に摑みかかる。

「ロート!?  気持ちは分かるが、こいつをここで殺したら、他の仲間を救い出せないんだぞ!」
 マルスが、今にも男を殺しそうなロートを何とか引き剥がし、落ち着かせる。

(俺だって、ロートの立場だったから、冷静でいられないだろうな。)
 マルスは、クレイが目の前で殺され、イリス達が攫われたらと思うと、ロートの行動は分からないでも無かった。

「くそっ!  ……悪い。」
 ロートも頭では理解しているが、気持ちが抑えきれなかったのだ。

 しばらく迷いの森を進んでいたマルス達は、遂に迷いの森にある、遺跡型ダンジョンに辿り着く。

「あれが遺跡型ダンジョンか。で、アジトはどこですか?」

「ダンジョンの裏手側だ。(ここは仲間が常時見張っているから、この状況をお頭に報告してくれている筈だ。人質を盾にすれば、こいつらは手も足も出せまい。)」
 男は、笑いたい気持ちを抑えながら、アジトへと案内して行く。



                     ▽

 アジト内では、人攫いグループによって幽閉されている牢屋に、ロートの仲間の女性が入れられたところだった。

 牢屋内には、数十人の女性が布切れ一枚を纏っているだけであり、虚ろな目をした者や、身体に切り傷や痣が出来ている者も居た。

 ロートの仲間の女性は、男達に拘束された際に抵抗したのだが、拘束を振り解くことは出来なかったのだ。

「こんなに沢山捕まっていたのね。」
「ロートは、逃げ切れたかな。」
 ロートの仲間の女性は、ロートが助けを呼んで来てくれることに一縷の望みをかけていた。

「無駄無駄。俺様の仲間が追ってるんだ。逃げ切れねぇよ。」
 ロートの仲間の女性に、声を掛けたのは、巨漢のスキンヘッドの男だった。

「マヴロお頭の言う通り。諦めるんだな。」
 その巨漢は人攫いグループのお頭であり、お頭の言葉に部下が続く。

「そ、そんな!?」
「私達ここから帰れないの!?」
 二人は、男達の言葉に絶望し、打ちひしがれる。

 丁度そこへ、慌てた様子の男が走ってくる。

「お、お頭ーー!」
「なんだ騒々しい。」
「そ、それが、追跡に向かっていたマヌが、逆に拘束された状態で戻って来てるんです!」
 人攫いグループは、遺跡型ダンジョンを訪れた者達を襲撃する為や、自分達を捕まえに来る者達がいるかも知れないと、常に見張り役を置いていたのである。

「何だと!?  まさか、Cクラスの小僧にやられたんじゃねぇだろうな?」
 お頭は、苛立った様子で、報告に来た者の胸倉を締め上げる。

「ち、違うと思います。報告のあった、上玉のグループの奴らも一緒でした。」
「……ほぅ。上玉のグループが。そいつらは、そこそこ強いようだな。それで、人数は?」
「マヌを除いて、6人でこちらに向かって来ています。」
「たった6人か。上玉が自ら来てくれるとは、世話ないぜ!  お前ら、出迎えてやれ。」
「「「へい!」」」
 お頭の指示を受けて、男達が武器や防具を身に付け始める。


「良かった。助けが来てくれたのよ!」
「ロートは、無事だったんだわ!」
 ロートの仲間の女性達は、これで助かると、お互いに抱きしめ合い、安心しきっていた。

 その様子を眺めていたお頭のマヴロは、不敵な笑みを浮べる。

「オメェら、この女二人を連れて行け。」
「「え?」」
 突如、マヴロに指差された二人は、身体を硬直させる。

「人質だ。わざわざ他人を助けに来るようなお人好しな連中だ。人質を殺すと言えば、抵抗出来ねぇだろ。」
「流石、お頭!  頭が良いですぜ!」
 ロートの仲間の女性二人を縄で締め上げ、牢屋から引っ張り出す。

「嫌!?」
「離して!?」
 女性達の抵抗虚しく、男達に引きずられてしまうのだった。


                     ▽

「あ、あそこの洞窟がアジトです。」
 マヌは、洞窟の入り口を茂みの中から指で示した。

「それで、中にいる人数は?」
「……10人くらいだ。」
 マヌは、本当の人数を言って、警戒されて一度人数を集めようと言われては困ると考え、6人でもギリギリ対処出来そうな人数を口にしたのである。

「10人か。まぁ、倍以上は想定しておいた方がいいな。」
「え?」
 マヌは、マルス達が自分の作戦に気付いていたと知り、動揺する。

「一度出直すか?」
「いや、攫われた人達が心配だから、このまま乗り込もう。」
 クレイの言葉に、マルスが即答する。

 洞窟の入り口には、見張りが立っていなかったことから、マルス達は、茂みから身体を出し、洞窟入口へと向かった。


「ここに何か用か?」
 マルス達が洞窟入り口に近付くと、入り口に男数名が姿を現す。

「ロートの仲間と、あんたらが攫った人達を解放してもらう。」
 マルスが、男にそう答える。

「そうか。ほら、そいつの仲間だ。」
 そう言って、男達がマルス達の前に引っ張り出したのは、縄で拘束された状態のロートの仲間だったのである。
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