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救出活動 後編2

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 マルスが、転移魔法を発動させる少し前に遡る。

 イリス達は、マヴロ以外の男達を倒し終え、マヴロを取り囲む。

「オメェら、只者じゃねぇな。」
 マヴロは、イリス達が部下達をあっさり倒す様を見て、警戒を強める。

 マヴロの部下は、決して弱い訳では無い。

 部下達だけでも、Bクラスの冒険者パーティーを倒せるだけの実力を有している。

 その為、マルス達がAクラスのパーティーで有ったとしても、それなりに戦える筈だった。

 しかし、いざ戦闘を開始すると、部下達はあっさりと倒れて行しまったのだ。

「大人しく投降しますか?」

「ふっ。馬鹿にするんじゃねぇよ。」

 イリスの言葉を、マヴロは鼻で笑い飛ばす。

 マヴロは、一対一に持ち込めば、まだまだ勝機は残っていると考えていた。

 更に、マヴロには、この状況を打開する策が残っていた。

 それは、攫って来た女を守る結界魔法を、自分の最大威力の技で破壊し、女を人質として、盾にすることだった。

 女へ辿り着くためには、イリス達や女の前にいるマルスが障害となるが、自分の技なら、何とか突破出来ると考えていた。

 自分の考えをまとめたマヴロは、不敵な笑みを浮かべながら、女達を閉じ込めている牢屋へ目を向ける。

「は?」
 マヴロは、自分の目を疑った。

 牢屋に閉じ込めていた女達が、一斉に消えてしまったのだから、自分の目を疑うのも仕方の無いことだろう。

 そして、マヴロは牢屋の近くに居たマルスの存在に気がつく。

「き、きさまぁーー!」
 マヴロは、怒りに任せてマルスへと駆け出す。


「行かせません。【火魔法:地獄の炎インフェルノ】!」
 イリスは、走るマヴロへと地獄の炎インフェルノを放つ。

「チッ!?」
 マヴロは、何とかイリスの地獄の炎インフェルノを回避する。

 だが、マヴロを狙っていたのはイリスだけでは無い。

 マヴロに接近する三つの影。

「【騎士技:騎士十字斬ナイトクロス】!」
「【剣技:豪破裂斬ごうはれつざん】!」
「【拳技:剛拳パワーナックル】!」
 クレイ、フレイヤ、ミネルヴァの連続攻撃がマヴロへと繰り出される。

「舐めるなーー!  【剣技:大回転だいかいてん】!」
 マヴロは、巨体を高速で回転させ、大剣を持ったまま一回転する。

 巨体な上、大剣という攻撃力の高い武器を使用する、攻撃力特化なマヴロによる大回転は、自身へと迫っていた攻撃全てを跳ね返す。

 結果的に、クレイ達の攻撃は不発に終わったが、マルスへと向かおうとしていたマヴロの足止めには、成功したのだった。


「ふぅーー。何とか全員を転移し終えたな。後は、あいつを倒すだけだ。」
 マルスは、マヴロと交戦中のイリスの横へと移動した。

 クレイ達三人がマヴロと接近戦を繰り広げており、隙を見て、イリスが黒魔法を放つ為、マヴロの身体にはどんどん傷が増えて行く。


「こいつら、なんて強さだ。」
 マヴロは、この状況では勝ち目が無いと判断していた。

 マヴロは、クレイ達と戦いながら、アジトから逃走出来るよう、立ち位置を調整していたのだ。

 そして今、マヴロの背中側は、アジトの出口を向いている。

「必ず、仕返ししてやるからな!」
 そう捨て台詞を吐いて、マルス達に背中を向けるマヴロ。

 だが、マヴロが振り返って、そこには誰もいない筈であったが、一人の人物が立っていた。

「逃がしませんよ。」
 マルスは、マヴロの戦闘を見ていて、敵を倒すというよりも上手く立ち回っていることに気が付き、マヴロが背中を向いた瞬間に、転移魔法で先回りして、マヴロの退路を絶ったのだ。

「チキショーーが!  死ね!  【剣技豪破裂斬ごうはれつざん】!」
 マヴロの最大威力を誇る剣技が、マルスへと迫る。

「【支援魔法:全大天使アークエンジェル】。【力の剣:建御雷神タテミカヅチ】!」
 マルスは、自身の全能力を強化して、建御雷神タテミカヅチを繰り出す。

 マルスの剣とマヴロの大剣がぶつかり合う。

 そして、マヴロの剣を斬り裂いたマルスの剣が、マヴロの胴体をも斬り付けた。

「ぐはっ!?  ……ば、馬鹿な。」
 大の字になり、血を吐き出しながら意識を失うマヴロ。


 マルスは、仲間の怪我を確認し、接近戦を繰り広げていた、クレイ、フレイヤ、ミネルヴァの怪我を回復し、倒した人攫い達を縄で拘束して、一纏めにした。

「ここでの顛末を説明した方がいいだろうから、一度村に戻ろう。」
「そうしましょう。」
 マルスの転移魔法により、アジトから一瞬で村へと戻ると、既にロート達から事情を聞かされていた憲兵に、人攫い達を引き渡したマルスは、アジトでの出来事を説明したのだった。

 憲兵に引き渡した際、マヴロは意識を取り戻す。

「まさか、こんなガキ達に邪魔されるとはな。」

って何だよ?」
 マヴロの言葉に、引っかかったマルスは、マヴロに言葉の意味を問いただす。

「言葉通りさ。この村の宿屋の親父にも、邪魔されたのさ。まぁ、あの親父は俺らが襲っていた連中と一緒に、ダンジョンの罠に嵌って何処かに消えちまったがな。まだ村に戻ってねぇようだし、そのまま死んじまったんだろう。ざまあねぇぜ。」

「……嘘。」
 サーシャが信じられないと言った表情で、言葉をこぼす。

 ダンジョンで人攫いをしていた者達が捕まったと聞いたサーシャは、もしかしたら、自分の父親や幼馴染も人攫いに捕まっていたのでは無いかと思い、この場に来ていたのだ。

「ん?  ああ、宿屋の娘か。お前の親父ならくたばってるだろうぜ。」
 マヴロは、そう吐き捨てながら、憲兵に連れて行かれたのだった。

 その言葉に、サーシャは膝から崩れ落ち、大粒の涙を流す。

 マヴロの言っていることが、サーシャの父親であると分かったマルスは、サーシャの頭に手を乗せる。

「きっとサーシャの父親は、まだダンジョンの中で生きてるさ。俺達が必ず助け出して来る。」
 マルスの言葉に、イリス達も頷いて応えると、サーシャは顔を上げる。

「うん。ありがとう。」
 こうしてマルス達は、人攫いと戦闘を終えて直ぐに、サーシャの父親を救う為に、ダンジョンへと向かったのだった。


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