シルクワーム

春山ひろ

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27、ルイーズ&マイヤー・ケータリングカンパニー(2)

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テロ発生数時間後 Uストリート ワシントンDC 合衆国

 自然史博物館のセキュリティは厳しい。まず敷地内に入るだけで、常に三人以上の警備員がいる、裏門の検問を通らねばならない。そこでセキュリティーカードを渡すと、それを警備員が機械に通す。すると警備室内のモニターに、顔写真と共に名前と身分が表示され、それと照合して、館内の外注用のパーキングエリアに入れるのだ。
 そこからが大変だ。
 裏口のドアの横には、ナンバー表示されたディスプレイがあって、そこに8桁のコードナンバーを入力する。数字があえば、ドアは開錠。もし3回間違えたら、けたたましいブザーが鳴り響き、ドカドカと警備員たちがやってくる、らしい。らしいというのは、ジョーは3度間違えたことなかったから、あくまでも小耳に挟んだだけだ。
 最初のドアを開錠しても、すぐにまたドアがあり、壁と天井には、防犯カメラも設置されている。
 二度目のドアも、最初と同様に8桁の数字を入力すれば、開錠できる。
しかし、この数字は、一番目と同じではない。そのうえ、最初のドア開錠の数字と、二度目のドア開錠の数字は一週間ごとに代わる。
前週の最後の日に配達に行くと、翌週の8桁の数字を警備担当から教えられるという仕組みだ。
8桁もあると、暗記するのも難しく、ジョーは、その数字をiPadに入力していた。これは、本当は規則違反なのだが。

 そんなことまで、アイリスに問われるままに、ジョーは話していた。

 初めてアイリスの行動の不自然さを感じたのは、週末に彼のアパートに泊まり、思う存分に愛し合って、ジョーがシャワーを浴びて出てきた時だった。
 彼のiPadはロックがかかっていたはずだった。しかし、シャワーのあと、ジョーが何気に操作すると、既にアクティブ画面だった。その部屋には、アイリスと彼しかいない。
 不思議に思いつつも、もしかしてこれが「恋人の嫉妬によるマナー違反か」と、悪い気がしなかった。

おい、しっかりしろ、俺!今なら、そう思える。そう今なら。
この時、なぜ俺はアイリスにロック解除が出来たのか、まず疑うべきだった!
ジョーは思い出すだけで、さらに全身から汗が噴き出した。

 そして今週だ。
アイリスがうちに泊まりたいといってきた。嬉しかったが、ゲイだとは、誰にもカミングアウトしていない。マンションに呼んで、誰かに見られたら…。ジョーは、それが怖かった。
答えに詰まったジョーに、アイリスは言った。
「我儘をいってすまない。だったら、オフィスが見たい」

 自宅への訪問も断り、仕事場も見せない。
これは恋人としてどうなんだと、自問自答して、ジョーはオフィスを選択した。就業後のオフィスなら無人だ。万が一、誰かに見られても、仕事関係の人間だと言い訳ができる。そんなことを考え、ショーはアイリスを職場に招待した。
 彼は「自社ビルなんてすごい」とか、「かっこいいオフィスだ」などといって、一つひとつの部屋を丹念に見て回った。
 興味深そうに、とても時間をかけて。
アイリスの興味は、ジョーのオフィス、つまり社長室では、さらに上がったようだった。
 ジョーの椅子、つまり社長の椅子に座り、くるくると回ってみたり、デスクの上を見たかと思えば、書棚のファイルを熱心に見ていた。
 そんな仕草さえも、かわいいとジョーは思っていたのだ、この時は。
 そして・・・驚いたことに、アイリスは、ここで愛し合いたいといってきた。
ジョーは悪い気がしなかった。いや、バカみたいに腑抜けた顔で、彼を抱きしめ、一戦交えてしまったのだ、オフィスで!

 今、ジョーは頭を抱えていた。どうか、していた・・・。

ジョーがアイリスを抱きしめると、彼は祖父の代から使っている、よく磨きこまれたマホガニーのお気に入りのデスクの上に座り、半裸のままで水が飲みたいといった。
あいにく、ジョーのオフィスには置いておらず、下の従業員用の事務室まで、ジョーが水を取りにいく。

その間、どれくらいだっただろうか。
ジョーはアイリスを一人残した。彼のオフィスに。

自然史博物館に入場可能なセキュリティーカードが保管してある部屋に、アイリスを残したのだ、一人で。そこにはジョーのカードだけでなく、博物館に配達に行く全従業員のカードも保管されていた。

カード情報を一瞬で読み取る犯罪行為。
こういうのを何というのか、スキャニング?

「ああ、もう」と、ジョーは記憶が蘇るたびに頭を掻きむしる。

ジョーがオフィスに戻ると、アイリスは先ほどと同じように、濃厚なセックスの香りを漂わせ、デスクの上に半裸のまま座っていた。
そして、ジョーを沸騰させる視線を向けて、嫣然と微笑んだのだ。
その後は、二人でじゃれあいながらオフィスを出て、遅いデナーを食べた後、アイリスはニューヨークに戻った。

それが3日前。そして今日だ。
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