(仮)暗殺者とリチャード

春山ひろ

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4.ガーデンパーティー 警備準備編

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 俺がグランフォルド家にきて、早1カ月。
 この1カ月の間、俺がしていたことといえば、天使と勉強、天使と食事、天使と遊び、天使とお昼寝…。その合間にエリオット様と遊びながらの勉強に、天使と一緒にジョシュア様のガーデニングのお手伝い。
 つまりほとんど天使ことリチャード様と一緒だ。なんたる有り様。まったく仕事は進んでない。
 いや、ちょっとは進展した。グランフォルド家について、主にエリオット様に聞いて新たに情報を仕入れた。

 まず、グランフォルド領は王都から馬車で3日かかる広大な地域と、王都から馬車で2時間のところにある領地の二つに分かれているそうだ。
 俺たちが住んでいるのは王都に近い領地だ。王城近くにタウンハウスはあるものの、誰も住んでおらず、王家主催の晩餐会の時に使うだけだという。
 エリオット様が「離れた領地の屋敷ほど広くはないよ」と教えてくれたけど、今いるところだって、俺からすればものすごく広い!

 庭はジョシュア様と先鋭庭師チームによって、ブルーの花を集めたブルーガーデン、黄色の花のイエローガーデン、薔薇を集めたローズガーデン、野菜を栽培するキッチンガーデン、樹木を刈り込んだトピアリーガーデン、赤のガゼボのレッドガーデンに分かれていて、それのどれもが綺麗なんだ。
 これだけ美しいということは、いかにジョシュア様がガーデニングに力を入れているかが分かる。
 
 ジョシュア様はガーデニングをしている時は完璧に集中しているから、はっきり言って隙だらけだ。樹木を千艇?違う!舟じゃなくて、剪定だよ、剪定!そう、剪定している時は特に。いくらでも暗殺のチャンスはあった。

 それなのに俺はジョシュア様が剪定した葉や枝を集めて、エリオット様や天使と「緑のモンスター」ごっこをやって走り回ってしまった。
「緑のモンスター」とは王都で流行っている子供向けの劇。劇の中では作り物の葉を使っているらしいが、こっちは本物だし、途中でオリバー様が「楽しそうだね」といって、なんと大公爵自ら葉を体中につけ、緑のモンスターになって追いかけっこに参戦したんだ。しかも迫真の演技だった。俺はちょっとチビリながら爆笑する天使を抱いて逃げた。エリオット様は完全に涙目になっていて、それを見たジョシュア様が「やりすぎ!」とプンプンしていたけど、オリバー様は「たまにはいいだろ」と言った。
 でも、「たまに」じゃないんだよね。フラワーモンスターに扮したオリバー様は、はっきり言ってホラーだったし。
 
 こんなわけで、1カ月もいるのにいまだ任務を完了できない俺に、そろそろ組織からテコ入れがないかとビクビクしているが、いっこうにその気配がない。それをいいことに、こうして思いっきりグランフォルド家に馴染んでしまった俺。完全に暗殺者として失格だろう。

 そんな俺は今、本邸の裏に建つ大ホールで、家令以下全従業員を前にソファに座っている。俺の膝の上には定位置となった天使が陣取っていた。
 この大ホールは大公爵家主催の晩餐会の時だけ使用するもので、なんと千名は余裕で入れるのだという。いまそこにはズラリと並べた椅子に全従業員が座っていて、対面する俺からすると、すごい眺めだ。

 彼らと対する長ソファの中央にはガブリエル様とウェスティン様、ガブリエル様の横にアナベル様、ウェスティン様の横にヤヌシュ殿下、そしてアナベル様の横にエリオット様、ヤヌシュ殿下の横に俺と天使、こういう並びで座っていた。
 ホールのメインゲートドアには「最重要会議中!関係者以外入室禁止!」の看板が。ちなみにこの看板は木材で出来ており、十年以上使用しているんだとか。つまりこんな会議を10年、なんと年に10回以上は開いているという。

 今日の議題は、約2か月後に迫ったグランフォルド家主催のガーデンパーティーの警備についてだ。
 このガーデンパーティーは、グランフォルド家が年3回開くお茶会とは違い、この国一番のガーデンパーティーだ。
 通常、大公爵家主催のお茶会の招待客は伯爵家以上と決まっていて、その伯爵家も厳選して招待状を出しているから、大人数になっても80名ほどだという。
 しかし、このパーティーは大公爵家として、この国を支える要人・貴族への感謝の気持ちを表すことを目的として開くので、招待客は騎士以上になる。つまり、王立学園の準男爵の教師や武術大会で優勝した騎士などを含め、一気に招待客の数が増えて、その人数は約600人!ちなみにこの中に子供は含まれていないそう。子供を入れたら、どんだけになるんだろう。
 ご両親を守ることを使命としているガブリエル様以下、大公爵家の子供たちにとっては、このパーティー前は一番ピリピリする季節なんだと、エリオット様は真顔で教えてくれた。だから俺も緊張していた。

 場を仕切るのはアナベル様で、家令以下全従業員は完全に戦士になっていた。
 ソファから立ち上がったアナベル様が、最前列真正面に座るレイモンドさんに声をかた。
「レイモンド!王立騎士団からの援軍は何人?」
 レイモンドさんが立ち上がった。直立不動だ。
「はっ!約150名と伺っております!」
「少ないわね…。200名は寄こすように伝えて!」
「はっ!」
 そこにガブリエル様が声をかけた。
「アナベル。いつも援軍は150名くらいだろ?なんで今年は50名も余計に必要なんだ?」
「兄上、今年の貴族家ほしょくしゃの最大の獲物は、父上と兄上、それにウェスティンは言わずもがなですが、メインはリチャードとエリオットよ!」

 え、ええええ?
 思わずリチャード様を支える腕に力が入り、ちょっと身を乗り出してエリオット様を見ると口を一文字に閉じて緊張されていた。

「エリオットは7歳、リチャードは3歳。レイモンド!母上がそれぞれエリオットとリチャードを妊娠して、懐妊が発表された翌年の貴族の出生数は?」
「はい、それぞれ400人づつでございました。これはどちらも前年の2倍以上の出生数です。これは奥様の懐妊が発表された後、慌てて貴族家が子作りに励んだということです。
 つまりエリオット様とリチャード様のご婚約者になりたいという野望を抱き、同年代の子を持とうと計画した結果でございます。
 しかしながら、中には痛ましい事故がありました。夫人が40代なのに無理に子作りに励んだ結果、難産で子供は無事でしたが、夫人が亡くなったというケースが7件。
 さらに当主が不倫に走ったケースは50件以上にのぼります。このケースは夫人が50代で既に孫もいるという貴族家で起きております。どうしても子供が欲しい当主が、商家の娘などに手を出し、子供を産ませて貴族家に引き取って養子に迎えたことで、親族を巻き込んでのドロドロの不倫劇へと発展して発覚しました。
 中にはとんでもない強者もいたようで、同じ年に複数の愛人にそれぞれ子を成した貴族家もいたと聞いております。
 こうなりますと、もはや当家との縁組のために子を欲したのか、それともいつしか色欲に支配されたのか、判断の難しい事例でございます。
 いずれにせよ、エリオット様とリチャード様、お二方と年の近い貴族の令息令嬢の数は通年の2倍、さらにお二人より少し上、あるいは少し下の令息令嬢の数も含めますと、お二方の自称婚約者候補は2000人近くになります」

 2000人?すげー!この中には当主が外に作った子供もいるってこと?そこまでするんだ。

「つまり、こういうことよ、兄上。我が家と縁を結びたい貴族家ほしょくしゃは、母上が懐妊すれば、同じ年ごろの子を作る。既にこの時点から我が家争奪戦に参戦しているということ。彼らの執念を甘くみては痛い目に合うわ。ましてやエリオットとリチャードはまだ婚約していないから、あらゆる機会を捉えて攻撃を仕掛けてくることは火を見るより明らか」
「ああ、なるほど。了解した」

「レイモンド、援軍増員の件は任せたわ」
「はっ!本日中に王宮に伝えます!」

「次、一昨年、昨年のヒヤリハット事例の確認及び危険人物の現状について!アガシ―!」
 アガシ―は5人いる執事の一人だ。ちなみに男性従業員のトップは家令で、次が執事、その下に侍従がいる。家令のレイモンドや5人の執事たちは、代々、グランフォルド家に仕えてきた者たちで、エリオット様曰く「うちの両親が水は黒色といったら、生涯、水は黒色と言い張るほどの忠誠心の持ち主」なんだとか。

 アガシ―は分厚い本?を持ちながら立ち上がり、直立不動で報告した。
「まずは一昨年のヒヤリハットです。
 事例1、大公爵様を狙ったオメガ令嬢のヒートテロ。令嬢は自宅にてヒート強制促進剤を飲み、会場へ到着。しかし入場前の検温で発覚し、速やかに拘束。令嬢はリアナ伯爵家の長女で、伯爵家は取り潰し、令嬢は国外追放。その後の令嬢の行方は不明ですが、国内に不法入国した形跡はありません。

 事例2、こちらも大公爵様を狙ったオメガ令嬢のヒートテロ事案です。このケースでは令嬢がドレスの裾に促進剤を縫い付けて場内に持ち込もうとしました。ボディチェックの際、検査担当の侍女が裾を気にする挙動不審な令嬢に気が付き、事なきを得ました。令嬢は即拘束。こちらはザック子爵の次女で、子爵は準男爵に降爵、次女は修道院送り。ですので今年はザック準男爵には招待状を出しません。また次女は修道院にて軟禁状態であることを確認済です。

 事例3、こちらはガブリエル様目的のオメガ令息のヒートテロ事案。この令息は下着の中に粉末の促進剤を隠していたため、ボディチェックを通り抜けました。しかし緊張のためか、わずかに失禁したことで下着内の促進剤が濡れて陰茎に付着。あまりの痒さにいきなりズボンを下ろして搔きむしるという異常行動に走ったため、その場で拘束し、促進剤を確認。
 令息はダーニ男爵の次男で男爵家は取り潰し、令息は国外追放。令息が持ち込んだのは粉末タイプで効力の強い薬物であったため、服用せずとも国外追放という重罪になりました。また公の場で陰茎を掻きむしるという行為が公然猥褻罪に該当し、その罪も考慮されたものと思われます。令息の追放後の足取りは不明ですが、不法入国した形跡はありません。

 次に昨年の事例です。混同しないように通し番号で述べます。
 事例4、これはウェスティン様目的のオメガ令息のヒートテロ事案。前年の事例から当家がボディチェックを強化したことで、侍従に促進剤を持たせて会場入りし、侍従から受け取ろうと計画したものです。
 しかし、侍従に対するボディチェックを想定していないという杜撰な計画によって事なきを得ました。
 この侍従は鬘の中に粉末の促進剤を隠し持っていたのですが、暑さと緊張で大量の汗をかいたことで、促進剤が溶けだし、痒さのあまり鬘を取って搔きだすという異常行動によって検査員が発見。侍従を拘束かつ即尋問。
 その後、令息もただちに拘束。この令息はファース子爵の次男で、子爵家は取り潰し、令息は鞭打ち100回の後に国外追放。侍従を使ったこと、強い促進剤を持ち込もうとしたことで罪が重くなりました。侍従は命令に従わざるを得ない状況だったことを鑑みて平民落ち。令息の追放後の足取りは不明ですが、不法入国した形跡はありません。

 事例5、こちらは大公爵様を狙ったオメガ令息のヒートテロ事案。促進剤を二重にした靴底に隠すという新たな手口で、ボディチェックは通り抜けたものの、肝心の靴底に打ち付けた釘を抜くことができず、あろうことか私に「釘抜きはないか」と聞いてきました。
 この不審な依頼に、その場で私が尋問したところ自白したので拘束。令息はセリヌ子爵の次男で、子爵家は取り潰し、令息は国外追放。服用には至りませんでしたが、手口が悪質ということで厳しい処分となりました。追放後の令息の足取りは不明ですが、不法入国した形跡はありません。

 最後の事例です。こちらはガブリエル様狙いのオメガ令嬢のヒートテロ。パーティー終了後、令嬢は帰宅せずに庭園に隠れ、夜になって邸宅内に忍び込んで襲うという計画を立てましたが、当家庭園の『アッブ』に狙い撃ちにあい、体中を刺されて大声を上げたことで、巡回警備員によって捕縛。令嬢は、ぺペン伯爵家の次女で伯爵家は取り潰し、不法侵入罪も加わり、令嬢は鞭打ち200回の後に国外追放。追放後の足取りは不明ですが、不法入国した形跡はありません。
以上です」

す、すげーな。
「『アッブ』ってなんだろ?」
「刺す虫でしゅ」
「蚊じゃなくて?」
「蚊よりもっと大きくて、刺されると『アッブ』って叫んじゃうから、そういう名前になったでしゅ。患部はものしゅっごく腫れて痛いでしゅ」

 隣の殿下が「私は昨年、刺されました。刺されたところが熱をもって腫れあがるんですよ。王都の公園にも『アッブ』はいるようですが、ここの庭園は環境がいいから、『アッブ』が大きく育ってピチピチなんです。一回刺されると一週間くらいは、ずっと腫れます」と教えてくれた。
「ドマの葉を煮出した液を体に塗っておけば刺されないよ。今年は人数が増えたから、たくさん作ってもらおう。ヤヌシュ様は肌が弱いから薄めた液を使おうね」
「ありがとう、ウェスティン様」
 隣がほっこりしてる。

 ほっこりした隣を見つつ、俺は思った。見つかったら家は取り潰し、本人は国外追放か軟禁になる。これだけ刑罰を重くしてるのに、それでも違法薬物を持ち込もうとする。なんでだろう。

「地位と名誉、それに経済力に目がくらんだ、想像力のない妄想狂だからでしゅ」
 膝の上の天使が俺を見上げ、通常運転で俺の考えを読んで教えてくれた。

「想像力?」
「マヌがうちに来た日。マヌは僕の朝食が少ないことを心配してくれたでしゅ。どこか体が悪いのかと想像したんでしょ?」
「あ!」
 天使は俺を見上げたまま、にっと笑う。
「それが想像力でしゅ」
 そうか、あれが想像力とか。
「想像したら、無理やり番にさせられた方が、どんなに傷つくか、わかるでしゅ。それができない妄想狂でしゅ!」
「確かに」
「ね!」

 俺と天使が笑い合っていると、「リチャード、先に進めるわよ」とアナベル様が声をかけた。
「どうじょ、姉上」

「アガシ―、ご苦労様。次にアーサー、これまでのヒヤリハット事例の分析結果及び今年の対策を!」
 アーサーも執事の一人だ。
「はい!」
 アナベル様に呼ばれたアーサーも直立不動で発表した。
「一昨年、昨年に発生した6件の事案中、ヒート強制促進剤持込事案が4件、事前に促進剤を服用した事案1件、最後が邸内に潜伏しての襲撃計画事案が1件です。
 まず持込事案からですが、これは侍従に持込させようとした案件が1件、それ以外はドレスの裾・下着・靴底への隠匿となります。
 これらのことから懸念されるのは、令嬢であればコルセット、令息はパンツといった下着に隠された場合、通常のボディチェックでは発見できないことです。
 そこで持込対策として、今年は促進剤探知犬を手配しました!」

 会場内からどよめきが沸き上がった。
 さすがのアナベル様も驚いたようで、「促進剤探知犬!?それは促進剤を探知できる犬ということ?」と、アーサーに確認する。
「さようでございます。通常、人間が服用する促進剤は犬には何ら作用しません。そこで当家騎士団が促進剤を犬に定期的に嗅がせ、それを元に薬物の探知をさせましたところ、現時点で100%の確率で発見したそうです!」

 さらにどよめく場内。
「それは素晴らしいわね!騎士団長!お手柄よ!」
 褒められた騎士団長は立ち上がり、嬉しそうに胸に手をあて最敬礼した。
「身に余る光栄にございます!」

「アーサー、話の腰を折って悪かったわ。続けて」
「とんでもございません。持込事案については、さらにボディチェック検査員の増員を図ります。これまでは当家の侍従と侍女で対応しておりましたが、分家であるスタリ―家から有能な侍従侍女が、新たな戦力として加わって下さることになりました。この戦力増員については、なんとリチャード様からスタリ―家へ働きかけて下さった結果でございます!」

 うおおおと会場から驚きと讃嘆、感謝の声が出た。
 いつの間に天使は先生に頼んだんだろう?
「素晴らしいわ!リチャード、私からもお礼をいうわ、ありがとう」
 俺の膝の上でリラックスしていた天使は、歴戦の将軍のように片手をあげ「姉上、当然のことでしゅ!」と、アナベル様と会場へ手を振った。なんなの、この威厳!何人もの侍女が胸を手でおさえて感動していた。

「私は本当に優秀な弟たちを持って幸せだわ!続けて、アーサー」

 アーサーは畏まって続けた。
「これまでの傾向から、被疑者は検査の列に並んだ時、自らの順番が回ってくる少し前から挙動不審になるということが判明しました。
 そこで増員した検査員には、ボディチェックそのものを担当してもらい、熟練検査員が列に並んだ後方の招待客の行動に目を光らせるという方法を取ります。
 さらに検査のゲートを6ゲートから4ゲートに減らします。減らすことで列が長蛇になりますが、より厳格な検査が実施できます。
 そもそも、これまでは招待客をお待たせしないためという理由から、6ゲートで対応しておりましたが、違法薬物持込検査を厳格に遂行するという当家の都合を優先することが、より重要であるという結論に至りました。その分、開始時間を1時間早めます」

 アナベル様は少し考えてから「ゲートを減らすのは賛成よ。でもパーティーは昼間で、気温が上がるわ。長蛇の列になって招待客が熱中症になる心配はない?」と質問した。

「あの、私に良いアイディアがあります」
 ヤヌシュ殿下だ。
「列で並んでいる招待客に飲み物を提供するというのはどうでしょう。水分補給がしやすい果実水などをいくつか用意して、お好きな物を取って頂くのです」
「それはいいアイディアだわ!では、果実水を何種類か用意しましょう。もともと子供用に果実水は用意するはずだったから、仕入れを多めにすれば問題ないわ!キッチンチーム、よろしくね!」
 後方に控えていた料理長を頂点とするキッチンとダイニングメイドたちは「はっ!」と最敬礼した。
「殿下、素晴らしいアイディアをありがとうございます」
 アナベル様は満足そうな笑顔を浮かべ、殿下とウェスティン様は見つめ合って嬉しそうに頷いた。

「アーサー、続けてちょうだい」
「はっ!次に事前に促進剤を服用して来場する被疑者についてです。こちらは、招待状チェック、ボディチェックにどれほど時間を要するか読めず、途中でヒートが始まる懸念も鑑み減少傾向にあります。しかし、そうはいっても検温は引き続き行い、抜かりありません。
 最後に潜伏襲撃事案についてです。促進剤の事前服用が非有効的との判断から減少しつつあるのに対して、今年最も増加するのではないかと危惧されるのが、この潜伏襲撃事案です。
 一度でも、当家のお茶会に参加した貴族家の面々は、当家の庭がいかに広いかという感想を持ったでしょう。
 王国一美しい庭が、実は王国一、潜伏可能な場所というのは悲しむべき事実であります。
 どこに潜伏するのか、山をかけて、もし外れたら最悪です。また巡回警備員は増やします。しかし、それ以上に効果的かつ被疑者により一層の恐怖を植え付けられる方法を発見しました!それはパーティー終了後、招待客が全てお帰り頂いたのち、庭に猟犬を放すというものです!」

 「うおおおっ」と会場がどよめいた。
「まあ!でも、母上が大切にしている庭を猟犬が台無しにしたりしないかしら?」
「それについては全く問題ございません。これもリチャード様のアイディアで、スタリ―家から猟犬20頭を貸していただけることになりました!
 ご存じのようにスタリ―家の家紋は二頭の猟犬でございます。代々、スタリ―家は猟犬の飼育に熱心で、非常に優秀な猟犬を何頭も輩出してきました。現在、王家所有の猟犬も元をたどればスタリ―家で飼育し躾けた猟犬でございます。
 王家主催の狩猟大会で、見事、大熊を倒した伝説の名狩猟犬『大アルフ号』、イエナガン公爵家主催の狩猟大会で灰色狼を倒した『小アルフ号』、いずれも元はスタリ―家の所有でした。
 現在、スタリ―家にはご当主ベンジャミン・スタリ―伯爵が歴代最高の猟犬と太鼓判を押す『レーベン1号』、それに劣らない『レーベン2号』と、我が国最高の狩猟犬が揃っております。こうした優秀な猟犬は動く物にのみ反応し、植物には反応いたしません!また躾けも完璧ですから、大切な植物に糞尿など致しません!」

「そうなの!リチャード、素晴らしいアイディアをありがとう。あなたには感服するわ!」
 またもや天使は、俺に抱っこされながら、仕草は名宰相のように「御礼にはおよびましぇん、姉上。当然のことでしゅ」と手をあげた。
 ほんとに何なの、この天使は!

「皆、ごくろうでした。パーティー開催2か月前の定例会議としては、とても密度の濃い有意義な会議となったこと、あらためて感謝します」
 アナベル様のお礼に家令以下、「恐悦至極でございます!」と声を揃えた。中には泣いている侍従や侍女までいる。

「最後に兄上から一言、ご挨拶をお願い致します」
 アナベル様がガブリエル様へふった。ガブリエル様はにこやかに手をあげて立ち上がる。

「皆の者、いよいよ当家最大のイベント、ガーデンパーティーが2か月後に迫った。今日の定例会議に参加し、みなの精進と努力に感服している。これほど信頼できる者たちは、この国にはいないと断言する!」

 わあああという歓喜の声が上がった!みんな泣いている!
「両親はもちろん、今年はリチャードが初めてパーティーに参加するし、エリオットについては不埒なアルファがラット促進剤を持ち込む懸念もある」

 一転して、みんなすごい真剣な顔になった。
「しかし!大切な家族を守るという最大の目的達成のため、私には国で一番優秀な家令と執事、侍従と侍女に、騎士団!さらに料理長を筆頭に最高の料理を提供してくれるだけでなく、優秀な警備員にもなれる素晴らしいクッキングチームがいる!まさに鬼に金棒だ!私以下、グランフォルド家一同、心より感謝する!」

 全従業員が滂沱の涙を流している。冷静沈着で完璧な家令のレイモンドさんまで目が真っ赤だ。
 
「残り2か月!体調には万全を期して望んでもらいたい!次回は10日後だ!それまでには新しい招待状が出来上がる。10日後にはまた全員が元気に集まり、いよいよ招待客の選別を行う!
 常に王家には忠誠を!」

「常に王家に忠誠を!」

「ありがとう!」
すごい拍手が沸き上がった!

 …なんか色々とすごくて言葉がない。

「大丈夫でしゅ。この団結はうつるでしゅ。しゅぐにマヌも泣くようになりましゅ」
 そうなの?

 そこに、やや興奮ぎみのガブリエル様がやってきて、膝をつき天使に話しかけた。
「リチャード、素晴らしいアイディアをありがとう。お前がいかに素晴らしい頭脳の持ち主か、僕はよく分かっている」
「ありがとう、兄上」
 誇らしげに天使が答えた。

「でも、これだけは忘れないでおくれ。お前も保護の対象なんだ。お前がいかに優れていても、体はまだ三歳だ。それを忘れないでおくれ」

 だんだん俯き加減になっていた天使は、すっと顔を上げると、満面の笑顔で「はい、兄上!」といった。
 ガブリエル様はこの世の者とは思えない優し気な顔で、天使の頭や顔をなで、「こんなふうにお前に接することができるのも、今のうちだけだと僕は思っている」といい、天使を抱きしめた。



 ガブリエル様が離れていくと、天使は膝からぴょんと降りて、「マヌ、お部屋、いこ」といった。その時の顔はひどく寂しそうに見えた。


 
どうしたんだろう…。


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