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6.ガーデンパーティー 招待客選別編
しおりを挟む俺と侍女のユリアさん、ヤッケさんにヌンバさんの血と汗の結晶である天使用ズボンが出来上がる少し前に、第2回目のガーデンパーティー定例会議があった。
前回と同様、大広間で全従業員と対しているのはガブリエル様以下、大公爵家の令息令嬢と俺だ。
仕切るはこれも同じくアナベル様。アナベル様はテーブルの上に並んだ白紙の招待状を1枚とり、「皆様、第2回目の定例会議を始めます。本日のメイン議題はこれ!」といって招待状を掲げ「誰を招待するか!です」といった。
「ある意味、パーティーの成功を左右するのは、この招待客の選別といっても過言ではありません。ここで不埒者を見極め、リスクを出来るだけ抑えておければ、このパーティーは成功したようなもの。
ルーク!今回の招待状の仕様についての説明を!」
ルークも5人いる執事の一人だ。一番のベテランでジョシュア様の信頼が殊のほか厚いという。そして彼がリチャード様付きの執事でもある。
一番ベテランの執事が、なぜ一番若いリチャード様付きなのか。それはジョシュア様の鶴の一声だったと聞いている。
「ルーク以外にリチャードの暴走を止められる者がいないから!」
母の勘はすごい!
ルークは家令のレイモンドより14歳下の34歳で、次期家令と言われている。俺が天使と一緒の時は必ず侍従と共に近くにいるけど、気配を全く感じさせないというすごい特技の持ち主だ。
俺がここに来た頃、「まるでルークさんは空気みたいだ」と言ったら、「それは執事にとって最高の誉め言葉です。執事が存在を顕示するなど無作法の極致。私どもは存在を感じさせずに主の意向を完璧に把握できたら一人前です」と言われた。すごいよ、本物のプロだ!
ルークは一礼ののち、直立不動で説明した。
「まずは皆様、招待状の納品が通年よりも遅れましたことを謝罪させてください。申し訳ございませんでした。
実は今回、不測の事態が発生しておりました。これの詳細は後ほど説明いたします」
会場に動揺が走った。何があったんだ?
ルークは会場を見渡し、さらに力を込めて続けた。
「イレギュラーな事態については、ガブリエル様とアナベル様には伝えておりましたが、皆様には報告しませんでした。それはなぜか。この件は確かにこちらを混乱させ、我々から秩序を破壊し、一時は狼狽させたものの、これしきで一枚岩のグランフォルド家臣団を破壊するのは不可能だと判断したからです。
事実、私の判断は間違っていなかった。我々は見事に現状回復に成功した!否、この逆境により我々はさらなる高みに到達したといっていいでしょう!」
大拍手が起きた。
「皆様、まず起きた事実から述べますと、当家で招待状の作成を依頼しているボニス工房に不埒者が侵入し、当家招待状のデザイン手帳が盗まれました」
えーーーと声があがった。
「我々一同、忘れもしない5年前のガーデンパーティー、招待してもいないゲッツ男爵が『招待状がうちに届いた』と強硬に言い張り、中に入ろうとした『ゲッツ事件』。この事件では、ゲッツ男爵持参の招待状の封蝋が当家使用の封蝋を完璧にコピーしたものでした。そこでこの事件以降、当家は封蝋をより精密に作り直し、さらに封書に透かしを入れることにしたのです。
今回、盗難にあったデザイン手帳には、これまで当家で採用した全ての透かしのデザイン画が納められておりました。
もちろん当家では過去のデザインを使いまわすなどというリスクは犯しませんから、たとえ盗まれても痛くも痒くもありません。そう、痛くはないもののデザイン画の一覧を手に入れた不埒者が、透かしの傾向と対策を練り、一か八かで透かしを作るのではないかという危惧がありました」
大広間は水を打ったように静まった。
ルークさんは大げさな仕草で招待状の1枚を手に取ると「そこで、今回は透かしだけでなく、新たな仕様を組み入れました!それがこれです!」といって、テーブルの上のローソクに火をつけ、招待状を入れる封書をかざした。
まさか火であぶると文字が出てくるとか?全員が固唾を飲んで見守るなか、その封書からなんともいえない高貴な匂いが漂ってきたんだ。
アナベル様が真っ先に気づいたようだ。
「この香り!これはサンダルウッドね!」
「さすがアナベル様!東方の珍香、サンダルウッドの香を封書に練り込みました!」
す、すごい!紙に香を練り込むなんてことが出来るんだ!
ルークさんも興奮ぎみだ。
「この手法は画期的で、職人が試行錯誤の末、ついに完成させたものです!」
「ルーク!」
突然、膝の上の天使がルークさんに声をかけたので、全員が天使に注目。ルークさんが「リチャード様」と礼を取ると、天使は「その手法、特許を取るでしゅ!」と叫ぶ。
どよめく会場。
ガブリエル様が真っ先に天使に声をかけた。
「リチャード、素晴らしい!レイモンド!今日中に弁護士に依頼を!」
「はっ!」
「ありがとう、リチャード!この特許取得により、ボニス工房はさらに発展するでしょうし、当家とのつながりもより強固になるでしょう。続けてちょうだい、ルーク」
アナベル様も少し興奮した様子。
「はっ。今回、招待状の封書に装備した練り香と封蝋により、偽物かどうか完璧に見分けることができます。先ほど私が実演したローソクに封書かざす方法は、当家で厳重に保管する招待状送付先と照合し、そのリストに載る招待客にはわざわざ行う必要はございません。リストに未記載なのに招待状を持参した不埒者にのみ実施いたします」
「ありがとう、ルーク!あなたと工房の職人には感謝しかないわ!ボニス工房にもくれぐれも御礼を伝えてちょうだい!」
「はっ!グランフォルド家からの御礼とあれば、職人一同にとって最高の誉でございます」
「次、レイモンド!招待客選別の重要情報について、事前にリサーチした結果を発表してちょうだい!」
「はっ!」
家令のレイモンドさんが直立不動で報告をはじめた。
「まず王族方は全てご出席予定です。王族の警備につきましては王宮所属の近衛騎士団が責任をもって警備すると伺っております。
次に公爵家ですが、現在、王家預かりとなっているクレイトン公爵以外の二つの公爵家からは公爵及び夫人、御嫡男と夫人、その令息令嬢まで全てご出席予定です。
そのうちアルベルト公爵家は現王の御実家で、現公爵は王のご尊父、次期当主は王の弟、その弟の御令息御令嬢のうち、一番下の令息がエリオット様と同年であることから、先方はこのパーティーで、エリオット様と面識を深め、できればご婚約までとの心づもりがおありのようで、並々ならぬ意気込みで乗り込んでこられるようでございます。公爵家ですから、不法薬物を持ち込もうなどという行為はないとは思いますが、念には念を入れて対処いたします。
もう一つのイエナガン公爵家は、アルベルト公爵家以上にエリオット様との縁組に積極的に動くと予想されます。イエナガン公爵家の嫡男の令息で、公爵の孫になりますが、こちらの令息が10歳になります。しかしいまだ婚約者はおりません。
一説によりますと、エリオット様が7歳になるまで婚約者を決めずにいたと聞き及んでおります。公爵家の次の次の当主が10歳で婚約者がいないというのは前代未聞ですので、イエナガン公爵家の意気込みが分かるというもの。こちらもアルベルト公爵家同様、細心の注意を払い、エリオット様をお守り致します。
そして4大侯爵家。まずアボス家とコレイン家は侯爵と夫人、嫡男と夫人に令息及び婚約者が参加予定です。この両家は問題ございません。
ついでテスターニャ家です。こちらは侯爵と夫人、それに3人の令息が参加予定でございますが、令息のうち6歳と2歳が、実は侯爵の不倫によって出来たお子でございまして、産みの母は商家の娘です」
「つまり、エリオットとリチャード目当てに外に作った子ということね」
「さようでございます。下のお子二人は嫡男とは歳が離れており、6歳はアルファ、2歳はオメガ。なんと侯爵は夫人の子ではないとはいえ、ご自身の血を分けた子を『ハニートラップ要員』などと呼んでいるそうでございます」
パッキーンという音がした。見ればアナベル様が扇をテーブルに叩きつけていた。
「子をなんだと思っているの!クズが!」
地の底から湧き出るような低音で、アナベル様が唸る。
「侯爵家を招待しないわけにはいかない。だから招待はする。でもレイモンド、テスターニャ侯爵にはマンツーマンで刺客をつけましょう!」
「はっ!ダリアとメリッサ!」
「はい!」
呼ばれた二人の侍女が立って礼を取った。
小声で天使が「この二人は武道の達人でしゅ。特にダリアは陰茎割という、想像すると色々とキュッとなっちゃう特技があるでしゅ。たのもしい。テスターニャ侯爵が無事に家に帰って、おしっこできるといいでしゅね。うふふふ」と、恐ろしい情報を楽し気に教えてくれた。どういう特技だ??
「この二人を侯爵につけます。夫人の方は夫の不倫によって人相が変わったと言われておりますので、侯爵の策謀に加担はしていないと思われます」
「承知!ダリア、メリッサ!励んでちょうだい!」
「身に余るお言葉!あらゆる手段を講じて侯爵の策略を封鎖します!」
「私も同様でございます!」
「ありがとう!期待しているわ!」
ダリアとメリッサの目はウルウルだ。
「さて最後にモンゴメリー家ですが、こちらは侯爵と夫人は問題ございません。特に夫人は奥様と仲がよろしく、ご嫡男はガブリエル様と同年で、同じく親しくお付き合いをされておられます。
問題はオメガで4歳の次男です。ご嫡男がのんびりとしたご性格のためか、それとも両親が甘やかしたのか、理由は分かりませんが、次男は大変な自信家で、周囲に『自分こそリチャード様の婚約者に相応しい』と言っているようです」
天使の婚約者にふさわしい…。俺の腕に自然に力が入った。ぺちぺちとぷにっとした手で天使が俺の腕をたたく。
「大丈夫でしゅ、マヌ。ふふふ。おへそで湯を沸かすでしゅ。湯どころか紅茶も煮出せるでしゅ!」
「リチャード、自信家の鼻をへし折るのが大好物のあなたにとって、これ以上ない獲物ね」
「姉上、侯爵家の次男ごときでは役不足でしゅ。まあ、でも二度と僕の前にツラを出したくないくらいには、叩き潰しましゅ。うふふふ」
真っ黒天使と黒アナベル様が不敵に笑い合う。はっきり言って怖いです。
「あなたが一人でハエを潰せるのは知っています。そうはいってもハエにもマンツーマンで刺客をつけるわ!レイモンド!」
「はっ!ゲオルグ!」
呼ばれたゲオルグが立って礼を取った。ゲオルグは16歳の侍従で伯爵家の次男。ものすごく頭がいいらしい。
「ゲオルグでしゅか?レイモンドはサドでしゅね~」
「ちなみにゲオルグさんの特技は?」
恐る恐る聞く。
「ゲオルグは肉体系ではないでしゅ。僕との相性がいいので、精神へし折る系でしゅかね」
なるほど。それ以上は聞かない方がいい…と思った。
◇◇◇◇◇◇◇◇
会議が終わるころには、俺はぐったりしてしまった。あれから延々と全ての貴族家の暗いところや恥ずかしい情報を洗いざらい晒し、やっと招待客の選別が終わる頃には、夕食の時間になっていた。
途中で料理長以下クッキングチームが席をたち、夕食の準備のために会議室を出た。ずっと会議だったから夕食は簡単な食事かと思いきや、いつもと変わらない手の込んだメニューで驚いたら、エリオット様が「会議が長引きそうなときは、事前に仕込んでおいてくれるんだよ。こんな会議を10年くらいやってるから、みんな手際を分かっているんだ」と教えてくれた。…言葉がなかった。
天使は4歳以下の子供が約150人参加し、それが全員自分目当てだと分かると、「潰しがいがあるでしゅ~」と、超ご機嫌になった。
その150人は全員オメガで貴族の令息令嬢だ。腹黒い両親の元に育ち、大侯爵家との縁続き、地位と名誉と経済力が欲しいちびっこ怪物。でも、少なくとも天使の婚約者候補と呼ばれる子たち…。
それだけで、どうして俺はこんなに寂しいのだろう……。
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