『こすぷれ』とは一体、何なのだ? 異世界から現代日本に転移した騎士、鎧姿のためコスプレ屋の看板男になる

和美 一

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第11話:ひーろーしょー当日

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 ひーろーしょー、とやらの当日。
 俺は当然、行くとして世事に疎い俺のサポートのためにサナも一緒に来てくれるようだ。
 ジドウシャで迎えに来てくれたが、俺は鎧姿だったので乗り込むには苦労した。
 鎧は脱いであっちで着ればいいのにとソガ殿は言ったが、この鎧は着るのにも時間がかかる。
 最初から着て行くのが当然であった。

 そうしてジドウシャは走り出す。この鉄の箱が馬に代わって主な移動手段になっているらしいが、その速さには仰天してしまう。
 こんな便利な鉄の箱があるのか。馬よりも速く、馬よりも乗り心地が良い。
 驚き感心しつつもジドウシャの中で揺られていると、目的のびるという建物に辿り着いたようだ。俺たちは裏口とやらから入る。
 どうやらこのびるの一番上でひーろーしょー、とやらを行うようだ。控え室とやらについた俺は仰天した。

「うわっ、魔物!」

 そこには緑の肌をし、大きな口を開けた三つ目の魔物や鳥の化け物がいたからだ。
 腰の模造刀に手をかけかけるが、サナの「落ち着いて」との声で止められた。

「あれ、全部、着ぐるみよ」
「キグルミ?」
「怪物を模して作った服よ。あの中に悪役の人たちが入って演技するの。あの着ぐるみたちをアドニスが倒していくのよ」

 なんだそうだったのか。人ならざる外見に当初はこの世界にも魔物がいるのか、と困惑したが、よくよく見てみれば確かにそれらは作り物だと分かった。
 悪役の着ぐるみに入る人たちと挨拶をして、簡単な打ち合わせをする。といっても俺は基本的には模造刀を振り回してキグルミ相手に暴れていればいいだけらしい。
 そのくらいなら俺にもできる。演技力などない身であるが、ひーろーしょーのひーろー役を務めることができそうだ。

「それじゃあ、そろそろ開始するよ」

 ソガ殿が言う。舞台袖から中を覗くと子供たちが溢れていた。
 あれだけの子供たちの前で俺はひーろーをやるのだ。
 これは遊びではなく真剣にやらないとな、と思う。
 まず悪役のキグルミたちが出ていき、暴れる演技をする。俺の出番はその後だ。

「よし。トーベ君、頼む」
「承知した。ソガ殿」

 俺は模造刀を抜き放ち、舞台袖から舞台に出る。

「悪党どもめ! この騎士・アドニスが相手になってやる!」

 本物そっくり(本物なのだが)の鎧に身を纏った俺の登場で観客の子供たちがワッとざわめく。
 その驚きも冷めぬ内に、俺はキグルミたちに模造刀を振るって倒す(倒される演技だが)。
 キグルミたちと大立ち回りを演じて子供たちを喜ばせる。
 第一幕はそれで終わりのようであった。俺たちは舞台袖に引っ込み、次の観客たちが来るまで休憩の時間を過ごす。

「皆さん、大変ですな」

 キグルミとやらに入っている男たちに俺は声をかける。ソガ殿が持ってきてくれたぽかりすえっと、と言う飲み物は大立ち回りを演じて疲労した体に染み入るように効く飲み物であった。

「いやあ、大変だけど、その分、給料もいいしね」
「いいバイトだよ、これは」
「君もバイトで来たんだろ?」

 そんな風に俺の言葉に返される。ばいとで来た、か。ばいとという言葉の意味を薄々理解していた俺は頷く。

「まぁ、そんなもんです」
「それにしても君の鎧凄いな」
「まるで本物だ」
「あはは……」

 まさか本物であるなどとは言えない。サナとも話をする。

「いい感じよ、アドニス。この調子で午後の第二幕もこなしてね」
「あの程度の演技でいいのなら俺でもできる。見事、役目を果たしてみせよう」

 ひーろーしょー、の第二幕が始まる。
 先程と同様にまずはキグルミを着た人たちが出ていき、好き勝手する。
 そこで俺の出番がやって来る。颯爽と鎧を揺らして参上し、名乗りを上げる。

「悪党ども! この騎士・アドニス様が退治してくれる!」

 二回目となれば慣れたものだった。観客の子どもたちがワッと湧く。
 俺は模造刀を振るい、キグルミに当てて次々に倒していく。
 この世界に来て、用無しかと思われた剣術の型をこんな形で振るえる時が来るとは。

 それで子供たちが喜んでいるのだからいいが。
 俺は模造刀を振るってキグルミを退治し、最後に決め台詞を吐いて、舞台から去って行く。

「どんな悪党も、この騎士・アドニスの前にとっては楽勝だ!」

 そうして舞台袖に戻った俺にソガ殿が声をかけてきた。

「いやあ、最高だよ。トーベ君」
「ソガ殿。それならよかった」
「今後もこの仕事、頼んでいいかな? トーベ君ほどの逸材はいないよ」

 俺は思わずサナと顔を見合わせる。サナは笑みを浮かべて言った。

「いいんじゃない。お金も稼げるし、そんなに苦にしてないんでしょ?」
「そうだな……」

 確かにそこまで苦にしている訳でもなく、高給を貰えるようだ。断る理由はない、か。
 サナの家で寝床と食事を提供してもらっている身。こすぷれしょっぷの看板男だけではなく、他にもお金を稼がねば。

「俺でよければいつでも」
「ありがたい。今後も頼むよトーベ君」

 こちらこそよろしく頼むというものだ。ひーろーしょーを終え、俺はジドウシャという鉄の箱でサナと共にサナの家に戻るのであった。
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